任務完了
初投稿の初心者です。
こんな形の関係になれる人に出会えたら幸せだろうな。なんて思って書きました。
物悲しい雰囲気を醸し出す廃ビルに、二人分の荒れた呼吸音が響く。もう互いに限界が近いということは分かっていて、それ故に集中を切らすわけにはいかなかった。
二人は殺し屋だった。
その日、偶然にもそれぞれの依頼主がそれぞれを殺すよう依頼をした。結果、二人は出会った。
「もう、そろそろ、死んでくれないかな」
「あなたこそ、もうそろそろ、死んでくれませんかね」
所属組織は違えど、幼い頃から人殺しとして生きてきた二人にとっては、気休めのように言う死は新鮮だった。
いつも死という言葉には義務が伴っていたから。
「でも…っ、もしあなたに殺されるなら、私はそれでいいのかもしれません。」
男は参った。そんなことを言われ、かつ同じことを考えていたことまで知ってしまったら、彼女に死んでほしくなくなってしまう。
「…死んでほしくなくなったでしょう?ごめんなさいね、これ、あなたを殺すための嘘なんです」
男の動きが鈍くなった瞬間、女は引き金を引いた。
『キンッ』
「嘘つけ。じゃあなんで…泣いてるの。これは俺の自惚れじゃないでしょう?」
男は、不器用で優しい、泣き崩れてしまった殺し屋の女の前にしゃがんだ。
「…私のこれ、全てが演技かもしれませんよ」
「生憎、見慣れているから見抜くのは得意だよ。それに、」
君になら騙されていてもいい。
女にこの言葉は聞こえただろうか。
同じく不器用で優しい殺し屋の男は、初めて自分の意志で、誰かのために人を殺した。
彼女を世界に置いていかないように。
「さて」
男は携帯端末を手に取った。
「もしもし。ええ、依頼は完了しました。僕のも、もうじきとある女性のものも」
読んでくれた方、ありがとうございます。