表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あいのうた ――再び始めたその先に――  作者: 烏川 ハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/11

プロローグ 森の中で

   

「ハッ、ハッ……」

 心地よい緑の木々に囲まれて、山道にしては緩やかな土の道を、自分のペースで走っていく。


 職場の大学から車で十数分の距離にある植物園(ボタニカル・ガーデン)。美しい花々の区画は女の子と一緒に訪れるものだと僕は認識しており、一人で来園する際はハイキングコースが目当てだった。

 日本にいた頃も『植物園』と呼ばれる場所をよく訪れたが「広々とした芝生の上で遊べる公園」のイメージだった。一方、ここの植物園(ボタニカル・ガーデン)は違う。大きな緑の広場はない。ずらりと並んだ花壇の辺りがメインだが、その横を下っていくと、岸際まで木々が生えている川に出る。川辺の散歩を楽しむには絶好の場所だ。

 それとは別に、裏山に広がっていたのがハイキングコースだ。複雑に入り組んだ山道を全て踏破するには半日くらいかかるだろう。ある時、適当に歩いていたら少し離れたスタジアムの裏手に出て「ここに繋がっているのか!」と驚いたこともある。

 そうした裏山のルートの中には30分か1時間くらいのジョギングに最適のコースもあり、いつも誰かしらが走ったり歩いたりしていた。


 僕は昔から運動が苦手だが、体を動かすことは大好きだ。京都に住んでいた頃も、気が向いたら鴨川のほとりで軽くジョギングしていた。ただし、だいたい二、三日くらいしか続かない。

 アメリカで暮らし始めて、この植物園ボタニカル・ガーデンのハイキングコースを見つけてからも、これまでは、たまにジョギングしたり散歩したりという程度。

 でも今回は違う。体力作りをしたいという明確な目的で、数日前から毎日続けている。仕事の後いったん帰宅して着替えてから、植物園ボタニカル・ガーデン(かよ)っていた。しかもジョギングした後、スポーツジムに立ち寄りプールで(ひと)泳ぎする。

 そのスポーツジムは大学の施設で、利用料金は格安。日本人の感覚としては驚くほどの金額であり、そこに惹かれて登録したようなものだ。最初の頃は物珍しさもあって頻繁に利用していたが、もう数ヶ月くらい全く使っていなかった。


 このようにスポーツの(たぐ)いとは無縁の僕が、そこまでして「体力作りをしたい」と思い立った理由。

 それは、再び歌い始めるためだった。

 一度は辞めていた合唱という趣味を、ここアメリカで再開するためだった。

 吹奏楽やオーケストラとは異なり、自分自身の体が楽器だ。すっかり(なま)った体では思うように音が出せない。だから体力作りの必要を感じたのだった。

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ