時浦~後編~
「ここで待ってれば良い筈だ。」
時を越えた浦島は自分が亀を助けた砂浜で、昔の自分が来るのを待っていました。
「殴ってでも止めてやる。それで全てが上手く行く。」
昔の自分が亀を助けなければ、浦島が竜宮城に行くこともなく、数十年も時が加速度的に進むこともない。
華やかじゃなくても平凡な幸せな人生を送ることが出来る。浦島はそう考えていました。
暫くすると亀が海からノコノコと上がってきました。
「そう、そして。」
村の子供たちが二人現れて、亀をイジメ始めました。
「よし、あとはどうするかな?俺がイジメをやめさせるか?それとも昔の俺を足止めするか?どちらにせよ、止めさせないと竜宮城に行くハメになっちまう。」
昔の自分が竜宮城に行くのをやめさせる、それこそが浦島の目的でした。
「全く、大体あんなに楽しいのは詐欺だろ?そりゃ時間も忘れるわ。」
どうしても自分の自業自得であったと思いたくない浦島は、竜宮城が楽しかったせいにしようとしました。
「きらびやかな竜宮城の中、鯛やヒラメの踊り、最高のもてなし、そして可愛い乙姫、楽しすぎだろ竜宮城!!・・・本当に楽しかったなぁ。」
浦島は竜宮城での楽しかった日々を思い出し、思わず顔が緩んでしまいました。
そうしている間に、昔の自分が亀と村の子供A、Bと接触。イジメられている亀を昔の自分が助けてしまいました。
「あらら、こりゃ失敗だな。」
目的を達成出来なかった浦島でしたが、その顔は全然残念そうではありませんでした。
浦島は、亀の背に乗って海に向かう自分を見送りました。
「せいぜい良い思いしろよ。」
昔の自分を見送ると、浦島はやることが無くなり、暫くボーッとしていましたが、立ち上がりトボトボと歩き始めました。
「家に帰ろう。」
浦島が家に帰ると、母が洗濯をしているのが見えました。
「こんなジジイの姿じゃ、絶対俺だって気づいてくれないよな。」
草むらに隠れて色々と作戦を考えましたが、良い案は何も思い浮かびませんでした。
なので、もう正々堂々と帰ることにしました。
「ただいま、母ちゃん。」
「あら、お帰り・・・あれ?アンタなんかフケたね。」
反応が思ってたのと違ってたので浦島は驚きましたが、母が自分を分かってくれたのが嬉しくて涙が出てきました。
「う、うん・・・老い先短い筈。」
「そうかい、まぁ色々あったんだねぇ。頑張って長生きしておくれよ。子供が親より早く死ぬのは親不孝の極みだからね。」
「が、頑張ってみるよ。」
ようやく浦島は家に帰ることが出来て、そこからは母と平凡に暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。