8話 ハーレムの始まり?
銀、赤に引き続き、紺、緑、茶と、バラエティに富んだ髪色をした美少女との出会いを果たした俺は今、少し困った状況に陥っていた。
「……いちちちっ、顔がひりひりしますぅ」
「ふふふっ、まるでパイみたいにぺっちゃんこになっていたものね……って、誰のパイがぺっちゃんこよ!? ケンカ売ってんの!?」
「ほぇぁっ!? 理不尽極まりないですよ!?」
なんか横の方ではフェニスが平べったくなったルカを救出して、一人でノリツッコミをしているけど……そっちはまぁ、後回しでいいかな。
問題なのは既に契約済である彼女達ではなく、俺の足元にいる彼女達だ。
「あの、もうそろそろ顔を上げて欲しいんだけど?」
「そのように恐れ多い事、我々にはできません!」
「隣の子が怖いので無理でーす」
「がうが、がうがうがー」
俺がどれだけ諭しても、彼女達は地面に額を擦りつけるように跪いたまま、一向に頭を上げようとしない。忠誠心が高いのはよく理解したけど、これじゃあ折角の可愛い顔が見られないし、本題を進める事もできないんだよなぁ。
「……どいつもこいつも、千年前から進歩が無いのぅ。特にアンドロマリウス、貴様の堅物さは筋金入りのようじゃな」
どうしたものかと悩んでいると、ここまで沈黙していたベリアルが口を開く。
フェニスの時と同様に少し呆れたニュアンスを含んだベリアルの言葉は、頑なに動こうとしなかった紺色の髪の少女の頭を動かした。
「この声は……もしやベリアル殿!?」
「いかにも。色々と犠牲を払う事になってしまった事は残念じゃが、無事にソロモンの生まれ変わりであるこの男――ミコトを連れて戻ったぞ」
「そんな馬鹿な!? ならば何故、貴殿はあの日――!!」
アンドロマリウスと呼ばれた少女は、ルカとは違ってベリアルとの再会に戸惑っているように見えた。いいや、よく見てみると彼女だけじゃない。
「……あのベリアル様が、ソロモン様の生まれ変わりを連れてくるなんてねー」
「がるるるるるっ!」
緑の髪の少女は、半信半疑と言った表情。
仮面の少女は、低い声で唸りながら警戒しているご様子だ。
「過去の話はまた次の機会で良いじゃろう? それよりもお前達は、いつまで新たな主を城の外に立たせておくつもりじゃ? 早く城内でもてなさんか」
俺ならとても耐えられない四面楚歌状態ではあったが、ベリアルは強靭なメンタルでそれらを跳ね除ける。それどころかむしろ、偉そうに命令までする有様だ。
そんな彼女の態度は、ただでさえ不穏な空気を更に重苦しく変えてしまう。
「そ、そういや俺、腹ペコでさ!! 何か食べ物とか欲しいなーって!!」
話の流れを変えようと、俺はとびっきり明るい調子で食事の催促を行った。
実際、最後の食事はこっちの世界に来る前に食べた朝食だから、かれこれ十時間以上は何も食べていない。だからタイミング的にもちょうどいい。
「うむ。2柱の魔神との契約も行って、お前も疲れておるじゃろうしな」
「……もう既に契約を? なるほど、道理でフェニックスがこの場に」
合点がいった様子で、フェニスを横目に一瞥するアンドロマリウス。その視線は鋭く冷たく、彼女を歓迎していない事は誰の眼から見ても明らかであった。
「何よ、アンドロマリウス。アタシがここにいちゃ迷惑だって言いたいわけ?」
「そうは言っていない。ただ、よく戻って来られたものだと思っただけだ」
「むふー! 私がミコト様と一緒に、力を合わせて倒したのです!!」
恐らく、アンドロマリウスの言う【よく戻ってこられた】の意味は、ルカの言う【どのようにして】ではなく【どの面下げて】の方だろう。
そして、そんな分かりやすい嫌味を臆面もなく口にする程に……彼女はフェニスを嫌っている、或いは受け入れたくないようだ。
「始まりは私が危機に陥ったその時! 颯爽と現れたミコト様は私の胸に優しく手を伸ばし……なんとなんとの直接契約! いやー、あの快感は本当に――」
しかしそうとは気付かずに、テンション高く話を続けるルカ。
そのお陰か、ピリ付いていた場の雰囲気が次第に和らいでいくのを感じる。
「分かった。もう十分だから、しばらく口を閉じていろフルカス」
「嫌です。ここからが盛り上がるので、皆さんちゃんと聞いてくださいね?」
「うげぇっ!? ボク達もぉ!? 冗談キツイってば、フルカス!」
「がーうー」
うんざりとした表情でルカの話を止めさせようとするアンドロマリウス達だが、すっかりヒートアップしたルカはもはや誰にも止められない。
「ふふふっ、じゃから前にも言ったじゃろう?」
呆気に取られて成り行きを見守る俺の頭上で、楽しそうに笑うベリアル。
彼女は俺の耳元に口を寄せながら小さな声で、こう囁いた。
「フルカスは少し抜けておるが、かなり愛い奴じゃとな」
「ああ、なるほど。その真価が、これってわけか」
容姿も仕草も抜群に可愛いが、彼女の持つ一番の魅力はそこではない。
良くも悪くも、己のペースを乱す事なく……自分を貫き通す。
「その瞬間、私のクトゥアスタムはバリバリバリーッ!! 覚醒完了!!」
「はぁ……付き合ってられん」
「あら、奇遇ね。反吐が出そうだけど、今はアンタに同意してあげるわ」
喧嘩していた者達すら、呆れて毒気が抜かれてしまう程の天然ぶり。
「むふふ、強いぞー! 格好良いぞー! ゴーゴー! 私のクトゥアスタム~!」
それこそが、彼女を彼女たらしめている最高の魅力なのだろう。
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
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