7話 待ち続けた魔神少女達
「俺の愛しい可愛い子ちゃん達よ!! 今すぐ会いに行くぞぉっ!!」
ハーレムを求めた自転車一人旅が、野生のサルによって頓挫してから数時間。
色々あって異世界セフィロートへと渡る事になった俺は、現在2柱の美少女&ぬいぐるみと行動を共にしながら、荒廃とした街並みを歩き続けている。
俺の帰りを千年も待ち続けてくれたという、残り4柱の魔神少女達。一刻も早く彼女達と出会い、えっちなたっち……もとい、契約を行わねばなるまい!
「ぐへへへへっ! 他の魔神ちゃんの紋章はどこにあるのかなぁ?」
「ぐへへへへっ! きっと恥ずかしい所にありますよー、ミコト様ぁ」
俺の右手を握り、横に並んで歩いているルカ。彼女は実に親しみやすい性格をしており、こうしてノリを合わせてくれる所は本当に愛らしい。
「アタシ……どうしてこんな馬鹿共に負けちゃったのかしら」
一方、俺が左手で手を繋いでいるこちらのフェニスは、未だに俺に心を開いてくれない。だけど、長きに渡る非モテ生活で訓練されてきた俺にはよく分かる。
この言動は本気で嫌っている相手に対するものではない。不貞腐れた態度を取りつつも手を振り解こうとしない辺り、フェニスはツンデレ属性なのだろう。
「これはおかしな事を言うのぅ。その理由はお前とて理解しているじゃろう?」
そして最後の一人? が、俺をこの世界に連れてきた張本人形のベリアル。
ぬいぐるみの体では俺達と歩幅が合わずに遅れてしまうので、今は俺の頭に乗せて、しがみつかせている状態である。
「魔神にとって契約者の存在はそれだけ大きいという事じゃ。自分の階位が相手より上である事に慢心し、油断した貴様の方がよっぽど大馬鹿じゃと思うが?」
「うぐっ!?」
ベリアルの容赦ない言葉を受けて、悔しそうに呻くしかないフェニス。
このままチクチクと責められるのも可哀想だし、話を逸らしてあげるとしよう。
「そう言えば、なんだか街の雰囲気が変わってきたんじゃないか?」
最初に訪れた場所は、ルカとフェニスの戦いによって惨憺たる状態であったが、今俺が歩いている辺りは形を保っている建物が多い。
さっきの場所が戦場だとすれば、ここいらはまさに廃墟街と言った所だ。
「む? ああ、この辺りはもう城下町に入っておるからな。しかと目を凝らせば、貴様の城……ユーディリア城が見えてくる筈じゃぞ」
「俺の城……?」
ベリアルに言われた通り、目を凝らして前方を見上げてみる。
宵闇で少しおぼろげな視界の果てに……ソレは映った。
「お、おおおおっ! 思っていた以上にデカい! 」
RPGゲームで見るような西洋風の巨城。堅牢にそびえる高い城壁と、仰々しい正門も備えたその城は雄大で……なんというか、実にご立派だ。
「むふーっ。私達が必死に守ってきましたからね! 中も綺麗なままですよ!」
えっへんと胸を張ったルカは、そのまま俺の腕を組むようにして密着し、何かを期待するような表情で俺の顔を見つめてきた。
「……よ、よしよーし? 偉かった……ぞ?」
ルカの意図をなんとなく察した俺はフェニスと繋いでいた左手を放し、ルカの頭を撫でてみる。角に触れないように、わしゃわしゃと……ナデナデ。
「むふー! むふーっ! むふふふーっ!!」
過去最高レベルに鼻息を荒くして、ルカはご満悦の表情。
千年という途方もない時間を掛けた努力が認められて、よほど嬉しいのだろう。
「何よ……アタシだって、本当に戻ってくるって知っていたら……」
「え? フェニス、お前……?」
「な、なんでもないわっ! いいからさっさと……あら?」
顔を真っ赤にして慌てるフェニスの視線が流れて、俺の後方に向けられる。
それにつられて俺も振り返り、背後を見てみると――
「子供……?」
建物の窓から、俺達を覗いている一人の少女の姿がそこにあった。
いや、よく見れば一人だけじゃなくて……そこらかしこの廃墟の中に、俺達を見つめる人影を確認する事ができる。
「な、なんだ!? なんかすっげー見られてるぞ!?」
人なんて誰も住んでいないと思っていた廃墟群。そこに身を隠すようにして存在していたのは、ボロ布のような服を身に纏ったみすぼらしい身なりの人々。
その全員が例外なく痩せ細っており、その瞳にはまるで生気が見られない。
「案ずるな、ミコト。あの者達はユーディリアの国民じゃ」
「へっ? 国民って……ここ、人が住んでいたの!?」
まさか、これだけ荒れ果てた街に暮らしている人間がいるなんて。
俺はてっきり、魔神達だけが俺の帰りを待っているだけだとばかり……
「はい。でもおかしいですね。普段は私や他の魔神の姿を見かけると、ありがたやーって感じで拝みに来るんですけど」
「今はミコトが傍におるからのぅ。恐れ多くて、近付く事さえできんのじゃろ」
「俺がいるから? でもどうしてユーディリアの国民が俺の事を……?」
千年以上生きているルカやフェニスといった魔神達ならともかく、この国の人々は俺の顔がソロモンと瓜二つである事は知らないんじゃないのか?
「……最初にして唯一最後のユーディリア王、ソロモン。その偉業を称える絵画や像は腐る程あるのじゃ」
「城にもソロモン様の像がありますよ。それはもう、ミコト様にそっくりでして」
「へぇ……ソイツはちょっと面白そうだな」
自分と同じ顔をした人間の像か。
元の世界じゃ、一生お目にかかれなかったであろう代物だな。
「ともかく今は民に構っておる暇は無い。まずは残る魔神達に会うのが先じゃ」
「おおっ! そうだそうだ! 俺を待つ可愛い魔神少女達に会わないと!」
話に夢中ですっかり忘れてしまうところだった。
今優先すべきなのは、新たなハーレム候補の魔神少女達と運命の再会なのだ!
「むふふふ、ミコト様。そんなに慌てなくても、もうゴールは目前ですので」
口元を手で隠しながら、クスクスと笑い声を漏らすルカ。彼女の視線の先……というより俺達の目の前には、行く手を遮る鉄製の門がそびえ立っている。
話しながら歩いている内に、もうこんな場所までたどり着いていたのか。
「しかし、馬鹿デカイ門だなぁ。こんな門、どうやって開けるんだ?」
大の大人が十数人がかりでも、ビクともしそうにない巨大な門。俺と魔神少女達との出会いを邪魔する最後の障害は、なんとも高い壁のように思えた……が。
「うんしょ……っと。え? これくらい、らっくしょーですけど?」
あくまで思えただけだった。
ルカは一瞬にして、この重たそうな城門を開いてしまったのである。
あの柔らかそうな細腕……それも片手でアッサリと。
「相変わらず見掛け倒しよねぇ、この門。魔術的防御も施されていないし」
「うむ。ソロモンの魔神であれば、指一本でも開ける事が可能じゃろう」
「……なんだか、男としての自信を失くしちゃいそうだよ」
自分よりも体格の小さい美少女が、俺の何千倍もの怪力を誇っている。そんな少しだけ悲しくなる現実を受け入れながらも、俺は開かれた門の中へと進んでいく。
そうしてくぐり抜けた城門の先には、圧巻の光景が広がっていた。
「うぉ!? これは……すっげぇ」
さっき遠くから見た時には、立派な城だなーくらいにしか感じなかったが、こうして近くで見てみると印象が変わってくる。
授業の教科書で見た世界遺産の建造物にも全く引けを取らない芸術的な造形。
月明かりのイルミネーションによって淡い光を携えた城は、おとぎ話の中に出てくる空想上の存在のようだ。
「……むふーっ! 顔色が変わりましたね、ミコト様!」
「素直に感動したよ。可愛い女の子以外に興味なんて無かった俺でも、これはマジですげぇって思えるもん」
「庭園まで綺麗に……街はあんな有様のくせに、そこだけは徹底しているのね」
フェニスが指摘したように、城門をくぐってすぐに広がる庭園は完璧な手入れが施されている。城にばかり視線が行ってしまったが、こちらもよく見れば城に負けず劣らずに立派だ。これだけ広い庭園の手入れには、相当苦労するだろうに。
「当然です。どれだけ苦労しようとも、ソロモン様が戻られる日には最高のお出迎えをする。そう誓い合った千年前の約束を【私達】は忘れていません!」
「……はいはい、どうせアタシは裏切り者よ。ごめんなさいね、たった五百六十四年と十ヵ月と八日程度で城から出て行って」
「ぷぷーっ。そうやって細かく覚えている辺り、未練タラタラなんですねー」
「う、うるさいっ!! 別に後悔なんてしてないわよっ!!」
庭園を道なりに進みながら、口論を始めるルカとフェニス。でも、その二人の間からはさっきまで殺し合っていたという険悪さは感じられない。
「フルカス! アンタ、覚えておきなさいよ。必ず、天罰がくだるんだから」
「べーっ! こわーいフェニックスは無視して、ミコト様! いよいよですよ!」
フェニスの怒号を受け流し、城の入口である扉の前に立ち塞がるルカ。
彼女は右手で扉の取手を握り、もう片方の左手を自分の腰に当てる。
そうした後、とびっきりのドヤ顔で、嬉しそうに声を弾ませながら――
「千年ぶりのご帰宅です! おかえ――もべにゃっ!?」
ばちぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!
俺を城内へと誘おうとしてくれたルカは、突然開かれた扉に巻き込まれてしまい、扉と壁との間に勢いよく挟まれてしまう。
「ルカ!? だ、大丈――」
「遅いぞ、フルカス! 今を何時だと思っている、貴様ァッ!!」
俺はすぐにルカの安否を確認すべく、彼女の傍に駆け寄ろうとしたが……その意識は、続く怒声によってかき消されてしまう。
そうして、俺が足を止めた直後――彼女達、三人の美少女はその姿を現した。
「全く。交代の時間を破るなと、何度言えば理解するんだ!?」
最初に城内から出てきたのは、扉を開いてルカを押し潰した紺色の髪の少女だ。
ルカやフェニスが可愛い系なら、この子は綺麗系の凛とした美人といった感じ。
キリッとした瞳に、スラッとした長身。清流を思わせるきめ細やかな髪はひと房のポニーテールでまとめられており、彼女の美貌を更に引き立たせている。
軽装なルカとは違い、露出の少ないフルプレートの鎧姿である事は少々残念だけど、これはこれで彼女のくっころ力を高めているのでアリだと思います
「まぁまぁ、フルカスも悪気があったわけじゃないだろうしさー」
怒鳴り散らしている紺色の髪の少女を宥めるように、その肩を叩きながら出てきたのは、ボーイッシュな顔立ちをした緑色ショートヘアーの少女。
タイプとしてはフェニスに近く、体付きは華奢な女子中学生に近い。
だけどフェニスと決定的に異なるのは、未だ発育途上とも呼ぶべき膨らみかけの胸だ。実年齢はともかく、この未成熟の体は危険なエロスを振りまいている。
しかもそれを武器にするようなチューブトップ風のラフな服に、健康美の脚を見せつけるようなホットパンツと来た。これはなんとも、えっちだ。
「がうがう、がーう?」
最後に現れた子は、残念ながら美少女と判断する事は難しい。というのも、彼女は顔に白い仮面を付けており、その素顔を窺い知る事ができないからだ。
しかしその代わり、彼女はそんなハンデを補って余りあるナイスバディの持ち主であった。この場にいる誰よりもボリュームに溢れ、メロンを彷彿とさせるような爆乳。それに加えて、むちむちなヒップラインの肉厚感は……まさに規格外。
ふんわりとした髪質の茶髪セミロングは華やかで美少女な印象を与えてくれるのだが、果たしてあの仮面の下の素顔は一体どうなっているのだろうか?
「大体、貴様は主殿の魔神としての自覚が足りない……か……ら?」
俺がひとしきり、美少女達の容姿チェックを済ませたタイミングで……まずは、先頭に立っていた紺色の髪の少女が俺の存在に気付いた。
「主、殿…………?」
「へぇぁっ!? マスター君!?」
「がうっ……!?」
紺色の髪の少女の呟きを皮切りに、彼女達の視線は一斉に俺の顔に集まる。
驚愕、困惑、感激、興奮。それらの感情が混ぜ合わさり、大きく見開かれた瞳達はやがて大粒の涙を溜めていき……彼女達の頬を伝っていく。
「……主殿!! 貴方様のお帰りを、我々はずっとお待ちしておりました!!」
忠臣めいた言葉を叫びながら、俺の膝下に跪く紺色の髪の少女と、それに続く残る二人の少女達。千年待ち続けた主との再会に、感極まっているのがよく分かる。
だけど俺はあくまで、ただの生まれ変わりだ。
ソロモン本人ではない俺が、彼女達に何をしてあげられるというのか?
「えっと、その……とりあえず」
ふと気が付けば、いつしか俺の頬にも……冷たい雫が伝っていた。
初めて会う筈の美少女達との、千年の時を越えた再会。
顔を見たら最初になんて声を掛けようかと、ずっと思い悩んでいた。
気の利いた言葉なんて考えつかなかったし、今でも何が正解なのかは分からない。
だけどこうして、彼女達の泣き顔を目にした瞬間――
「……ただいま」
自ずと、俺の口から出る言葉は決まっていた。
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
いつまでも想い人を待ち続ける系美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!