64話 アナタの推しメンは誰ですか?
「ほらほら、フロンが集めてきた食料だぞー。ちびっこ共から取りに来い!」
「「「「「わーっ!!」」」」」
大きな喧騒に包まれるユーディリア城下町の一角。その中心には、白い袋を抱えた尊が、自身を取り囲む国民達に食料を配給している姿があった。
「すげぇー! 美味しそうな虫がいっぱいだー!」
「見てみて! あれも美味しそうだよ!」
「ソロモン様、ありがとうございます!!」
蛇やトカゲなどの爬虫類から、ミミズやカマキリ、バッタといった昆虫類までもが詰め込まれた袋の中身を見て……嬉しそうに歓声を上げる子供達。
「おう。でも、お礼なら俺じゃなくてフロンに直接言ってあげてくれ。きっとアイツ、めっちゃ喜ぶと想うから」
尊はそんな子供達一人一人の頭をポンポンと叩きながら、次から次へと並んでいる人々に食料を手渡していく。
セフィロートへやってきた当初は、こういった生物に触れる事に抵抗のあった彼だが、三日も経てば流石に慣れたようで、その手付きには一切の躊躇が無い。
「子供達にはなるべく、タンパク質の多そうなものを渡すべきだと思うので。大人の人達は申し訳ないけど、もう少しだけ我慢をお願いします」
食料の配給バランスを考えた結果、幼い子供を優先に爬虫類を配る事に決めたらしい尊。彼は列の後方で自分達の順番を待つ大人達に向かい、頭を下げて詫びる。
「何をおっしゃいますか、ソロモン王。アナタ様のお陰で、私共は飢える事の無い日々を過ごせるようになったのです」
「そうでございますよ。それにこんなにも早く、新たに四柱もの魔神様をお従えになられて……そのお力に、ただただ敬服致すばかりです」
しかし国民の誰一人として、尊を責めるような振る舞いは見せない。
むしろ、その功績を褒め称えるようにして、両手を合わせるばかり。幼い少年少女から、腰を折り曲げて杖を突く老人達に至るまで……殆どのユーディリア国民達が尊の事をソロモン王の生まれ変わりと認め、敬っているのだ。
「むぅぅーんっ!! 実にその通りだっ!! 勇士の偉大さが分かる者達ばかりで、吾も嬉しいぞ!!」
「……キミィ、いつからそこにいたんだ?」
滝のような涙を両目から流し、バチンバチンと強い拍手を鳴らす少女の姿を人混みの外に見つけ、尊は訝しげに首を傾げる。
頭部に生えた雄々しい牛角を陽の光で輝かせながら、乳白色の長いポニーテールを揺らしている彼女の名前は魔神キマリス。
毛皮のような布地で作られた面積の少ない彼女の服は、豊かな胸と股間の大事な部分だけを隠す際どい形であり……ほぼ丸出しとなった腹部には、尊の新たな性癖を開拓した立派なシックスパックがピクピクと脈打っていた。
「むぅん、つい先程だ。民への戦闘訓練も一段落したので、彼らにも食料の配給を受けさせようと思ってな」
そう言って、振り返ったキマリスの背後には、上半身裸で汗だくとなったユーディリア国民――その中でも青年と呼ぶべき歳頃の、若い男衆が整列していた。
彼らは自分達もユーディリアを守りたいと名乗り出た血気盛んな兵士志願者達であり、その漢気を気に入ったキマリスが彼らの訓練を引き受けていたのだ。
「ああ、お前達も休憩の時間か。この後、顔を見せようと思っていたんだけど」
史上最高のハーレムを束ねる完璧な主となる為に、肉体面も鍛えたいと考えている尊は、キマリスの行っている兵士強化訓練に興味があった。
しかし、フルカスやフェニックスを始めとした多くの魔神達にやめておいた方がいいと阻まれて、これまで訓練に参加する機会に恵まれずにいたのである。
「むぅん、素晴らしい!! 己を更に高めようとする勇士の姿は、民達にも大きな勇気を与える!! なぁ、そうであろう!?」
「「「「「ハッ!! 我らも血が滾る想いでありますっ!!」」」」」
キマリスの呼びかけに、兵士志願者達は一挙手一投足、声のテンポに至るまで一切乱れる事なく……完璧な返事を返す。
ほんの数日前までは平凡な一般国民であった彼らは、キマリスの苛烈なシゴきによって一流の兵士へと成長を遂げていた。
「は、はは……兵士って言うよりは、軍隊チックのような気もするけど」
つい最近、筋肉フェチという新たな性癖を身に付けた尊だが、流石にその対象は女性に限るので、こういった暑苦しい男性集団は苦手らしい。
「……まぁいいや。それじゃあ、お前達に配給を任せてもいいか? 俺一人だと時間がかかり過ぎちまうし、他の子の作業を見に行けなくなるからさ」
「勿論、構わないぞ。どのみち、そこの兵士達への配給は最後に回すつもりだったのだ。それに、こういった活動も兵士には欠かせない任務だからな」
兵士達への良い訓練にもなるからと、尊の依頼を快く引き受けるキマリス。
後方の兵士達も異論は無いようで、キリッとした表情のまま尊の傍に駆け寄ってくると、敬礼を一回。続いて、尊の持つ白い食料入りの袋を受け取った。
「後はお任せくださいソロモン王! 必ずや我らで、任務を果たしてみせます!」
「ああ、よろしく頼むよ。それじゃあキミィ、また後で会おうな」
「むぅん、名残惜しいが……了承した」
頭を下げる兵士や民達に手を振って、その隙間を通り抜けて行こうとする尊。
そんな彼を、気丈な振る舞いで見送ろうとしたキマリスだったが……
「ゆ、勇士! ちょっと、いいか?」
「ん? どうした?」
不意に呼び止められ、立ち止まりながら振り返る尊。
するとそこには、いつもの凛々しい顔立ちとは異なり、恋に恥じらう純朴な乙女のように頬を染めて――もじもじと指をいじるキマリスの姿があった。
「勇士、その、今晩も……アレを楽しみにしている……ぞ?」
上目遣いがちに、尊を見つめるキマリス。
彼女が楽しみにしていると口にしたのは、尊が毎晩欠かさずに、キマリスの鍛え抜かれた腹筋を丹念に撫で回すという……就寝前の行為の事である。
当然それは、尊も承知の上なわけで。
「……おうっ! 俺の方こそ、楽しみにしているからな!」
「むぅんっ!! むぅん! むぅーん、むぅぅぅんっ!!」
笑顔で返された言葉に、キマリスは鼻息を荒くしながら拳を高く突き上げる。
よほど嬉しかったのか、周囲には自分が指導する兵士や多くの民達がいる事も忘れて、ニコニコと微笑みながらステップまで刻んでいる有様だ。
「おぉ……キマリス様があのように可憐な表情を! 素敵だ……!」
「俺、フェニックス様派だったけど……揺らいじゃうな」
「いやいや。ここはやっぱり、いつも天真爛漫なフルカス様が一番だ!」
「は? どう考えても、アンドロマリウス様のクールなお姿がイイだろ?」
「しかし、ラウム様の無邪気さは他の魔神様方には無い魅力だ」
「あのアンドレアルフス様の騒がしくも明るい感じが、癒されるよなぁ」
「ハルファス様の一途な愛を、俺は応援したいんだ!」
「ミステリアスな仮面の裏に隠された、ビフロンス様の素顔を見たい……!」
「ボ、ボクはアスタロト様のお美しいお姿が……一番だと……」
キマリスが尊に見せた女としての顔を発端とし、ユーディリアに所属する魔神少女達の中で、誰を一番推しているのかを語り合う国民達。
意外な事に、その面子の中には男性だけではなく女性も含まれており、魔神達が国民にとってどれほど親しまれ、敬愛されているのかを如実に表していた。
「ふむふむ。やはりあれだけの可愛い美少女達なら、アイドル並に人気にもなるし、ファンも分かれちゃったりするんだな」
尊は、その魅力的な話題に是非とも参加してみたかったが……そこはグッと堪えて、とある少女の元へ向かう事にした。
というのも、尊はよく知っているからだ。
「ふぅ、やっぱりあの子は人気が無いのか。あんなに可愛いのに」
キマリス、フェニックス、フルカス、アンドロマリウス、ラウム、アンドレアルフス、ハルファス、ビフロンス、アスタロト。
これだけの数の魔神が話題に挙がる中で、ただの一度も……誰も、その名前を口にしなかった魔神少女がいる事を。
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