5話 絶対服従の強制契約
「よし、よくやったぞミコト!! 後は儂に任せるのじゃ!!」
とてちてとて。
俺達がフェニックスを抑え付けてから少し遅れて、こちらに走ってくるベリアル。
「これ以上暴れるでないフェニックス。貴様とて侯爵クラスの魔神であるならば、潔く自分の負けを認めるべきじゃろう?」
「……アタシの負け? 冗談じゃないわ、この程度でアタシが負けたとでも?」
ベリアルに諫められたフェニックスは抵抗の動きを止めたものの、その口ぶりからして大人しく敗北を認めたわけではなさそうだ。
「アタシの翼を抑えた事は褒めてあげるけど、ここからどうするつもり? 不死の力を持つアタシを殺せない以上、アンタ達に勝利は無いわ!」
「なるほどのぅ。確かに今の儂らにはお前を殺し切れるほどの力は無い。じゃが、お前は一つ大事な事を忘れておる」
「は? アタシが何を……きゃあああっ!?」
ビリィッ。そんな音を立てて、無残にも引き裂かれる胸のビキニ。ぷりっと小ぶりな胸が露出し、その中央に位置する桜色の突起は……意外にも大きかった。
(ぷぷっ。おっぱいはちっちゃいのに、乳首は大きいんですねー)
「やめろ、フルカス! どんなおっぱいであろうとも、愚弄する事はこの俺が許さん! 世界中のどんなおっぱいをも愛し、慈しむのが俺のポリシーだ!!」
(……はい、ごめんなさい。ミコト様が言うなら、私もちっぱいを愛します)
「そうだ、それでいい。ちっぱいも大きいおっぱいも……皆、尊いものさ」
「ちょっとぉぉっ!! コイツは何の話をしてんのよぉっ!?」
涙目になりながら、両手で必死に胸を覆い隠そうとするフェニックス。
おっといけない。胸に気を取られて、肝心な事をすっかり忘れていた。
「ぬぅ。ここではないか。となれば、こちらの方じゃな……えいっ」
ビリビリィッ。ベリアルはまたもや容赦なく、今度は下の水着を引き裂いた。
破いたのはパレオだけでパンツ部分には手を付けなかったのは、彼女なりの優しさだと思う。ちょっぴり残念だとは、思っていないです。
「やぁんっ!? ベ、ベリアル! アンタいつからそんな趣味になったのよ!?」
「違う。儂が探しておったのは、コレじゃ」
「コレ? それって……あっ、紋章か!」
ベリアルが右手で示したのは、フェニックスの内股に当たるところ。
そこにあるのは、フルカスの胸上で見たのと似たような形の紋章だった。
そう言えばフェニックスの胸には紋章が見当たらなかったけど、紋章の位置って魔神ごとに違うのか。
「ちょっ、ちょっと……? まさかとは思うけど、そんな事しないわよね?」
自身の紋章を見られたフェニックスは、先程までとは一転して怯えた顔を見せる。
声もか細く、実に弱々しい。一体何を恐れているんだ?
「そんな事じゃと? はて、なんの事じゃろうなぁ?」
(うっわー。ベリアル様お得意の悪い顔ですー)
「さぁ、ミコトよ。フェニックスの紋章に触れて、契約をしてしまえ」
そう告げたベリアルの悪人面は、ますます歪に歪んでいく。
そんな彼女に対して、フェニックスの方は異常なまでの拒否反応を示した。
「いやあああああああっ! やめなさいよっ! そんなのダメぇぇぇぇっ!!」
「なぁ、ベリアル。なんだかすげぇ、嫌がられているんだけど?」
「無視してよい。どうせ遅かれ早かれ、お前は魔神全員と契約するのじゃぞ?」
一理ある。だけどこんなに嫌がられていたら、契約してもすぐに逃げられちゃったり、また襲われたりするんじゃないだろうか。
「心配そうな顔をしておるが、案ずるな。契約者が望まぬ限り、魔神との契約は破棄できぬし……契約した魔神は契約者に危害を加える事もできぬ」
(むふーっ! しかも契約者の命令には絶対服従なので、私達はミコト様にあんな事やこんな事も、好きにされるがままなんですよ!!)
「……マジで?」
ギギギギッと、油の切れたロボットのように首を回して、フェニックスと目を合わせる。地面に縫い付けられた美少女は、涙で頬を濡らしながら俺を睨んでいた。
いやいや。こんなにも激しい敵意を向けてくる相手に、いくらなんでも……
「何よ! ヤりたければヤればいいじゃない! でも、勘違いしないで! たとえ契約でアタシを縛ろうとも、心までは……ふにゃあぁぁぁんっ!?」
さわさわさわ。
俺はフェニックスの右内股を優しく、そして丹念に撫で回す。
フルカスのおっぱいとはまた違った、弾力のある肌は実に触り心地がいい。
指先でなぞり、紋章に触れないギリギリの位置を何度も何度も、往復させる。
「このっ……! さいってい!! 信じらんないっ!! アンタなんか、絶対にぶっ殺して……ふわぁっ、そこぉ……ダメ、なのにぃっ……」
「こちとら女の子に殺意を向けられるのは慣れっこじゃい!! 半端な覚悟じゃ、エロ心は貫けねぇんだよっ!! 覚えておけ!!!」
(ひゅぅーっ! ミコト様ってば、ノリノリですねー!)
「ミコトよ。楽しむのは良いが、ほどほどにしておけ。話が進まん」
「…………それもそうだな。うーん、名残惜しい」
「はぁっんっ、ぁ……ころしゅ、じぇったいに、ころして、やるんだからぁ……」
執拗な擦り攻撃で、くたぁっとしなだれるフェニックスの横顔は実にエロい。
本音を言えばもっと堪能したいのだが、槍に貫かれた翼が痛々しいので、さっさと契約を済ませて解放してあげよう。
「はい。じゃあ紋章に、ターッチ!!」
「うひゅぁぁぁっ!? ひぅぅぅぅぅっ!?」
人差し指で内股の紋章に触れた瞬間、フェニックスの体が大きく跳ねる。
既にフルカスと合体しているからだろうか、さっきとは違って指輪から光が放たれる事はない。ただその代わり、フェニックスの紋章の形状が少し変化していた。
模様を包み込むように、新たに刻まれた丸い刻印。
これが契約の証なのだろう。ベリアルは変化した紋章を見て満足げに頷く。
「よくやったぞ、ミコト。もう魔神憑依を解いても問題あるまい」
「おう……って、どうやるの?」
「……ゴエティアと唱えてみるがいい。そうすれば、自ずと分かるじゃろう」
「ああ、了解。じゃあ……ゴエティア! うわっ!?」
ベリアルに言われるがまま、ゴエティアという呪文を唱えてみると……突然、指輪を嵌めている俺の右手の中に、黒い表紙の本が出現した。
「それは悪魔の教典……ゴエティアじゃ。お前の為に分かりやすく言うなら、ソロモンの魔神を記した辞典といったところじゃな」
「……でも、中はほとんど真っ白だぞ?」
「お前が契約している魔神が、まだ2柱しかおらんからのぅ。徐々に契約した魔神の数を増やしていけば、その本のページ全てを埋める事ができるじゃろう」
そういう事か。確かにペラペラと本を捲っていくと、フルカスとフェニックスに関するページが、それぞれ見開きで存在していた。
片方のページには写真のように繊細な絵、もう片方のページにはプロフィールやステータスなどの詳細な情報がびっしりと記されている。
「見た事も無い文字だけど、俺にも読める……?」
「ソロモンの指輪の力じゃな。その指輪を付けておる限り、貴様はこの世界の言語を理解し、口にする事が可能となるのじゃ」
なるほど。それで、このゴエティアも読む事ができるというわけか。だったらじっくりと目を通しておきたいところだが……まずは、憑依を解く事が先決だな。
「それで、憑依を解くにはここからどうすればいいんだ?」
「……ゴエティアを出現させた後は、本を閉じながらクローズと唱えるといい。逆に、契約した魔神を憑依させる際にはオープンと唱えればいいのじゃ」
「オッケー。それじゃあ……クローズ!」
ベリアルに教えられた通り、俺はゴエティアを閉じてから憑依を解除する為の呪文を唱える。すると、俺の体がまたもや眩しく光り始め――
「ぷはぁっ!! いえーい、私達のだいっしょーりですー!」
ゴエティアが無くなるのと同時に、フルカスがポンッと音を立てながら姿を現す。
よし、ちゃんと憑依を解除する事ができたようだし……これでフェニックスの翼を貫いていたクトゥアスタムも綺麗さっぱり消えてくれた。
「さて、と。フェニックス、翼の傷の回復は大丈夫か?」
クトゥアスタムも消えさり、フェニックスは既に拘束から解放された状態。
後は彼女が翼の傷さえ癒せば、ゆっくりとお話ができると思ったのだが……
「死ねぇぇぇぇぇっ!!!」
カッと目を見開いたフェニックスは、起き上がるのと同時に攻撃してきた。
炎を灯した拳は、メラメラと燃えながら俺の顔面に直撃……する寸前で止まる。
「ぐっ、ふぎぎぎぎぎっ! ああああああああっ!!!」
拳を止めたまま、プルプルと震えるフェニックス。
上の水着が剥ぎ取られているので、彼女のちっぱいもそれに合わせてプルプル。
ちなみに翼の傷は既に癒えており、綺麗な両翼は見事な広がりを見せていた。
「言ったじゃろう、フェニックス。魔神は契約者に逆らう事も、危害を加える事もできぬ。千年の間に、そんな事も忘れてしまったのか?」
「という事らしいし、これから仲良くしようぜ!」
「ぜぇぇぇったいに嫌よっ!! アンタに従うくらいなら、死んでやる!!!」
「それじゃあ親交の証として、これからはフェニックスの事をフェニスって呼ぼうかな。よろしく、フェニス!!」
「うがあああああああああああっ! 話を聞きなさいよぉぉぉぉぉっ!!!」
頭を掻きむしりながら、この世の終わりのように絶叫するフェニス。
だけどもう、俺に攻撃してくる事は決して無い。契約による制約……恐るべし。
「とりあえずフェニス、その格好は目の保養過ぎるから……俺のシャツ、着てくれよ。ちょっと汗臭いかもしれないけど、その状態よりはマシだろ?」
そう言って俺は上裸のフェニスに、自分のTシャツを脱いで差し出す
これは紳士的な行為であり、決して美少女のノーブラTシャツが見たいなどというスケベ心は関係ありません。ええ、だから早く着てください。
「……えっ? それ、アタシにくれるの?」
俺が差し出したTシャツを見て、フェニスは目を丸くする。
まぁ、この異世界ではTシャツが珍しい物だろうし、驚くのも仕方ないか。
「おう。俺は肌着があれば十分だし、欲しいならあげるよ」
どうせ千円くらいの安物Tシャツだ。
俺のような男より、美少女に着られた方がTシャツの奴も幸せだろう。
「……ふん、いいわ。臭そうなシャツだけど、そこまで言うなら着てあげる」
最初はチラチラとTシャツを見ていたフェニスだが、少しの沈黙の後、ひったくるように俺の手からシャツを奪い取った。
その横顔は周囲で燃える残り火のせいか、赤みを帯びているように見える。
「うんしょ……ちょっとサイズが大きいわね」
受け取ったTシャツに頭を通し、長い髪を首の後ろからかき出すフェニス。
背中の翼が心配だったけど、ちゃんとシャツの背中に穴を空けて、バサッと飛び出してくる。これって結局、返されても着られないパターンでしたね。
「あー、それにしても臭い。こんなシャツを着ていたら頭が変になりそうだわ」
「臭い? くんくん……私はこの匂い、かなり好きですけどね。要らないのなら私に譲ってください。ぐいぐいっ、ぐいぐいーっ」
「ちょっと! 引っ張らないでよフルカス!! これはアタシが貰ったの!!」
「むぅっ! フェニックスだけずるいです! あだ名を付けて頂くだけでは飽き足らず、匂い付きのシャツまで貰うなんて不公平です! えこひいきです!」
「なぁ、ベリアル? あの二人、何をあんなに揉めているんだ?」
「……契約者が魔神に贈り物をするなど、前代未聞じゃからな。本来、魔神は契約者にとって使い捨ての道具。それをあんな風に親切にされたら……のぅ?」
ジトォーッとこちらを見てくるベリアルの瞳にも、どこか嫉妬が見え隠れしているように感じる。うーん、このくらいの対応、別に普通だと思うんだけど。
「ミコト様! ちょっといいですか!? 私は今、気付いた事がありまして!」
「お、おう? なんでしょうか?」
「フルカスって名前、めちゃくちゃ呼びにくいと思いません? 思いますよね?」
「いや、特に思わないけど?」
「私は序列第50位のフルカスですが、序列第34位にはフルフルっていう私のパチもんみたいな魔神もいます。これは非常に由々しき事態! べりーばっどぉ!」
随分と要領を得ない話だけど、これはつまり、アレか?
俺がフェニックスにあだ名を付けたから、自分にもって事なのかな?
「えっと……? じゃあ、フルカスは……ルカでどうだ?」
「ルカ……ルカ。むふぅー! はいっ! 私は今日から、ルカです!!」
あだ名を付けられた事を喜び、鼻息荒くバンザイのポーズを取るルカ。
このままだとTシャツの所有権を巡って取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだったので、ルカが機嫌を直してくれて本当に良かった。
「ごほん。フルカスよ、納得したのならば、次は儂の疑問に答えて貰おうか」
「ちっちっちっ! 私の名前はルカですよー、ベリアル様!」
「フ・ル・カ・ス。なぜお前は、フェニックスと争っておったのじゃ? それに、このユーディリアの現状……大体予想は付くが、やはりアレが起きたのか?」
ゴゴゴゴゴッと、漆黒のオーラを纏ったベリアルがルカに質問する。
ファンシー全開のぬいぐるみの姿なのに、なぜだかとっても怖い。
「えっと、話せば長くなると言いますか……色々アレな感じでして。だからあの、城に行って私以外の誰かに訊ねて欲しいかなーって思ったり、願ったりです」
指をモジモジさせながら、しどろもどろに答えるルカ。
まぁこの子はお喋りではあるけど、口が達者なタイプではなさそうだからな。
「……ふむ、城は未だに健在なのじゃな。分かった、それでいいじゃろう」
残火が未だに燻る、こんな荒廃とした場所にいつまでもいるのは落ち着かない。
俺もそう思っていたところなので、その城とやらに移動するのは大賛成だ。
「じゃが、移動する前にこれだけは……仲間達の事は聞いておきたい」
ベリアルの声に、これまでとは違った重苦しい響きが含まれる。
俺も、ルカも……恐らくフェニスも。
そんなベリアルの声を聞いて、どこか胸を締め付けられるような感覚を抱いた。
「フルカスよ、城にはどれだけの魔神が残っておるのじゃ?」
かつて、ソロモンに仕えたという72柱の美少女魔神。
俺はソロモンの生まれ変わりとして、その魔神達と再会し、この異世界セフィロートでハーレムを築くつもりだった。
「っ……! ソロモン様とベリアル様が、いなくなってから……千年」
だけど世の中、美味しい話というのはそう無いものだ。
「今もソロモン様の帰りを未だに待ち続けているのは、残された71柱の内……私を含めて、たったの5柱しかいません」
この異世界を訪れて、未だ十数分足らず。
俺が手にしたのは72柱の美少女魔神の中で、2柱とぬいぐるみが一つ。
「後の66柱の魔神達は城を去り、私達の――ミコト様の敵となりました」
俺が望み、思い描く、最強最高のハーレム生活。
どうやらそれは、未だ遠く……険しい道の先にあるらしい。
いつも本作をご覧頂いて、誠にありがとうございます。
ツンデレ貧乳炎属性マシマシ美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!