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4話 魔神憑依と能力の覚醒


「……あれ? フルカス?」


 ふと気が付けば、あれほど眩しかった大量の光は消えていた。

 視界が戻るにつれて、したり顔で腕を組んでいるベリアルと、遠くから無言でこちらを睨みつけるフェニックスの姿がぼんやりと映り始める。

 しかし、肝心のフルカスの姿が見えない。

 俺の指先にいた筈の彼女は一体どこに……?


(ミコト様、私はここにいますよー)


「えっ!? どこ!?」


 俺がキョロキョロとフルカスの姿を探していると、凄く近い場所から彼女の声が聞こえてくる。咄嗟に振り返ってみるが、そこにあるのは地面で燻る炎だけ。


(そこじゃありません。ここですよー、こーこーでーすー!)


 耳元で囁かれるよりも、ずっと近い場所から聞こえてくる声。

 これではまるで、俺の頭の中にフルカスがいるようだ。


(そうです。そうそう。私は、ミコト様の中に入っているんですよ)


「あっ、やっぱりそうだよね! そんな気がしてた!」


 体の中に何かが流れ込んでくる感覚の正体は、フルカスだったらしい。

 つまり今の俺は、フルカスと合体している状態って事になるのか?


「フフフ。その様子を見ると、魔神憑依は無事に成功したようじゃな」


「魔神憑依……?」


「魔神憑依とは、契約者が魔神と融合し、魔神の力を宿す能力。今のお前はフルカスと同等……いや、それを遥かに上回る力を手にしておるのじゃ!」

 

 と言われても、パッと見た感じだと俺の外見に変化は見られない。まぁ、鏡を見たわけじゃないから、顔とかの変化を見落としているかもしれないが


「驚いた。あのソロモンと比べると随分馬鹿っぽいから、契約なんてできそうになかったのに……これは、嬉しい誤算と言うべきなのかしらね」


 ペタペタと自分の顔を触って確認していると、ここまで黙って成り行きを見守っていたフェニックスが口を開く。眉を顰めて、引き攣った顔をしているのは、俺がフルカスとの契約を成功させた事に驚異を感じているからだろう。


「それにしてもフルカス。いくらアイツの生まれ変わりとはいえ、こんな鼻の下を伸ばした奴に、よくもまぁ胸を……アタシなら耐えられないわ」


 あっ、違った! これはアレだ! 痴漢を軽蔑する女子の目だ!

 元はといえば、直接契約の説明をちゃんとされなかったのが原因なのに!


「別に構わないです。それに、とっても気持ちよかったので……むふー」


 んおっ? 今、俺の口が勝手に動いて、フルカスの声が出てきた!?

一心同体となっている今、俺の口を通してしか話せない事は分かる。

 だけど、俺の顔からフルカスの可愛い声が出てくるのはかなりキモイと思うぞ。


「ふーん? 直接の契約は性行為の快感にも勝るとか聞いた事あるけど、どうだっていいわ。アタシはもう二度と……誰とも契約なんてしないんだからっ!」


 言い終えるのと同時にフェニックスは炎の両翼を羽ばたかせて、弾丸のような素早さで俺の方へとまっすぐ飛びかかってくる。

 またさっきと同じ、目には追えない素早い攻撃……の、筈なのに。

 合体のお陰なのだろうか? 今回の攻撃はやけにスローモーションに見えるし、どうやって動けば躱せるのか、瞬時に思い付く事ができる。


「っとぉっ! あっぶねぇ!」


 空中で体を捻り、独楽のように回転。そうやって放たれたフェニックスの回し蹴りを、俺はしゃがみこむ事で紙一重に回避した。続いて、そのまま体勢を低くしたまま横に転がり、地面に刺されていたフルカスの槍を引き抜きながら立ち上がる。

 すげぇ。こんな風に動けるなんて、今の俺は本当に魔神の力を……!?


(むふぅ。ミコト様、初めてにしては良い動きですよ。50点をあげちゃいます)


「どうも、ありがとう。でも50点だと、あの子は倒せないんじゃないかな?」


(いいえ、ミコト様。まだミコト様は、魔神憑依の真の力を使っていません。それを使えばフェニックスなんて、すぐにけっちょんけっちょんですよ!)


「真の力? そういうのは出し惜しみせずに早く教え……ひょえっ!?」


「さっきからブツブツうるさいわね! さっさとやられて、アタシに連れて行かれた方がアンタの為よ!! ソロモンもどき!!!」

 

 ゴォゥッと、炎に燃える拳が俺の鼻先を掠めていく。ギリギリで躱した俺は、手に持った槍を振り回し、フェニックスとの距離を取った。


「あぢぢぢぢっ!? フルカス! 早くその、真の力の使い方を教えてくれ!」


(ええっとぉ、確かソロモン様の時は私の槍を手に取って、覚醒の呪文を唱えていたような、いないような?)


「覚醒の呪文だって!? だからそういうのは知らな……」


 いや、待てよ? 本当にそうか? 覚醒の呪文なんて、俺が知る由も無い。

 だけど、頭の中のどこか深い場所から浮かび上がってくる言葉がある。


「覚醒なんてさせないわ! アンタは今ここでアタシが!!」


 口にした事はおろか聞いた事も無いのに、この言葉こそが正しい呪文であると、なぜか確信を持つ事ができた。そう、その呪文は――

 

「レメゲトン……? そう、レメゲトンだ!! 覚醒の呪文はレメゲトンだ!」


 フェニックスの攻撃を躱しながら、俺は頭に浮かんできた覚醒の呪文を唱える。


「レメゲトン!! 魔神フルカス! 汝の力を解き放て!!」


 瞬間、雷に打たれたような衝撃が俺の右腕を走り抜けていく。


「なっ!? まさかそんなっ……! 嘘でしょ!?」


 激しい紫電を迸らせながら、黒い槍に刻みつけられる金色の刻印。

 黒と金のコントラストが混ざり合ったその槍は、見た目こそあまり変わらなかったものの……その内に秘められた力は、天と地程の違いがあるように感じられた。


(お、おおおっ! 懐かしい! 私の槍が完全形態に戻りましたぁっ!)


 槍が覚醒を終えると、俺の中でフルカスの嬉しそうな声が頭の中に響く。

 そんな彼女と一体化しているからか、なんだか俺の方まで高揚感を感じるな。


(この槍は穿孔槍クトゥアスタム! 私の自慢の魔神装具です!!)


「魔神装具……これが、魔神の真の力ってヤツなのか?」 


(はいっ! 万物、どんな物質をも穿ち貫く槍……それが私のクトゥアスタム!)


「ソロモンに使える72柱の魔神達は全員、それぞれが特殊な能力を持つ。それらの力を司る武具を総称して、魔神装具と呼ぶのじゃ」


 戦いに巻き込まれないように瓦礫の陰に身を潜めていたベリアルがひょっこりと顔を覗かせて、俺の抱いた疑問に答えてくれた。

 つまり、フルカスが持つこのクトゥアスタムもその魔神装具の一つであり、彼女が言うように【どんな物質をも貫く】という能力を秘めた槍だという事らしい。


「……ふんっ、魔神装具を覚醒させたくらいで調子に乗らないでくれる? 下位魔神は覚醒無しだとロクに力を発揮できないんでしょうけど……アタシは違うわ」

 

 覚醒を成功させた俺達を見て、不満そうに唇を尖らせるフェニックス。

 彼女はこれ見よがしに炎の翼をはためかせつつ、自身の力について語り始めた。


「この炎癒翼フランマウィングは覚醒させずとも、十分過ぎる程の再生能力を持っているわ。いくらアンタ達が魔神装具を覚醒させたところで、騎士クラス程度の攻撃なんて無意味。アタシに致命傷を与える事なんて不可能よ!」

 

「へぇ、武器じゃなくて体に直接生えるタイプもあるんだ? じゃあもし、俺が君を憑依したら……俺も空を飛べるのかな?」


「はぇっ? ええ、まぁ。昔はソロモンもそうやって空を飛んでいたわ。アンタも飛ぼうと思えばきっと……って、何を言わせるのよっ!!!」


 得意げなドヤ顔から一転、憤怒の表情で地団駄を踏むフェニックス。

 宙に浮いた状態で地団駄を踏むなんて、随分と器用な真似をするもんだ。


「アイツと同じ顔、同じ声……ああ、イライラするっ!! いいわ! もうお遊びは終わり! ソロモンもどきの変態!! 覚悟しなさい!」


 怒りで顔を赤くしたフェニックスは両手を空に向けて高くかざすと、その先に身の丈を優に越す程の巨大な火炎球を生み出した。

 デカイ。あんなモノで攻撃されたら、いくらなんでも避けようが無いぞ。


「フェニックスよ、ミコトは生け捕りにするのでは無かったのか!?」


「うるさいわね! 別に生きていようが死んでいようが、関係ないわ!」


 ベリアルの制止の言葉も届かず、火炎球はグングンと大きさを増していく。

 今の内に逃げ出すという手もあるが、翼を持つフェニックスの方が素早さも機動力も確実に上だ。だからここで逃げても、すぐに追いつかれてしまうだけだろう。


(ミコト様、私に良い考えがあります)


「お、いいね。是非とも聞かせてくれ」


(はい。それはもう、かくかくしかじかまるまるしかくな感じの作戦でして)


「……おー、そういう作戦ね。かなり危険だけど、勝つにはそれしかないか」


 フルカスの立てた作戦に賛同した俺は、手にしたクトゥアスタムを片手でクルクルと回転させ、その感触を確かめてみる。

 よし、槍の長さと重さはしっかりと把握できた。

 槍なんて扱った事は無いけど、ガキの頃に傘や箒を振り回した事は沢山ある。

 そんな経験が人生の役に立つ日がくるなんて、当時は思いもしなかったなぁ。


「ミコトよ、何やら妙案があるようじゃな?」


「ああ、ベリアル。多分それが成功したら、あの子を止められると思う」


「ならば儂はそれを見守ろう。奴の動きさえ封じられれば、儂に秘策がある」


 ぬいぐるみの姿だというのに、実に頼もしい事で。

 だったら俺は、俺にできる事を成し遂げるだけだ。


「さぁ行くぞ、フェニックス。お前も、俺のハーレムに加わって貰うからな!!」


 トントンとステップを踏んでから、俺は足にありったけの力を込めて跳躍する。

 槍を真っ直ぐに構えたまま、狙う先は当然フェニックスだ。 


「アンタなんか! 思い出ごと焼き尽くしてやるんだからっ!!!」


 そうして跳んできた俺を迎撃しようと、攻撃を放つフェニックス。生み出された巨大な火炎球は、逃げ場の無い空中で俺達を飲み込もうと差し迫ってくる。

 触れていなくても火傷してしまいそうな程の凄まじい熱気がグングンと近付いて来る中で、俺も……俺の中のフルカスも落ち着いていた。

 右手の槍をただ前に突き出し、一直線にフェニックスの元へと進むだけ。

 途中、如何なる障壁や障害――たとえ、燃え盛る紅蓮の炎の塊が立ち塞がろうとも関係ない。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」


 穿孔槍クトゥアスタム。

 如何なる物質をも穿ち、貫くこの槍なら炎さえも怖くない。


「なっ!? アタシの炎をっ!?」


「いっけえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 クトゥアスタムの先端と火炎球が触れ合った直後、その部分からドーナツ状の穴が広がっていく。少し狭い穴だが、人一人が通る事は十分に可能なスペース。

 熱さも感じる。ぶっちゃけ痛い。でも、生きてここを通り抜ければ――


「俺達の勝ちだっ! フェニックス!!」


「っつぁっ!? ああっ、きゃああああああっ!?」


 火炎球を貫いたクトゥアスタムの切っ先が、フェニックスの右翼をも貫く。

 個人的には美少女にこんな仕打ちをしたくないが、この状況ではそんな悠長な事を言ってもいられない。既に覚悟は決めている。

 後はこのまま、炎の翼を刺し貫いたまま落下していき……


「はぁっ!!」


 ズドンッと、地面に深く突き立てられるクトゥアスタム。

 それはまるで、画鋲が掲示板にプリント用紙を固定するかのように……フェニックスの翼を地面へと縫い付ける役目を担った。

 これぞまさしく、フルカスが立てた【再生されるのならば、動けないようにしちゃえばいいんですよ作戦】だ。


「うぐっ、このっ! 何よこれ!? この体勢じゃ、翼が広げられない!?」


 地面に縫い付けられた状態で、ジタバタともがくフェニックス。しかしいくら暴れようとも、俺達が押さえ付けているクトゥアスタムが抜ける事はない。

 無理に引き抜こうとすれば、彼女の翼は引きちぎれてしまうだろう。


いつもご覧頂き、誠にありがとうございます。

想い人を前に素直になれずに強気になっちゃう系美少女がお好きな方は是非、ブクマや評価をお願いします!

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