119話 かんしゃーく
「カイム? なんでお前が……って、俺はどうしてユーディリア城に?」
目が覚めて、まだ少しぼんやりとする意識を覚醒させながら、俺は現状の把握に努める。
確か、ヴァルゴルでバラムと戦い……なんとか半契約まで持ち込んで、それからムルムル達と話している時に――
「ミコトっちが急に倒れちゃって、ボクちゃん達は大慌てだったかも」
「やっぱ、そうだよな。なんだか急に、具合が悪くなっちまって」
折角、全てが丸く収まったというのに、肝心なところでダウン。
あれじゃあ格好つかないよなぁ。
「お前が俺をここまで運んで……くれるわけは無いから、ハルるん辺りか?」
「むぅー! なんだかすっごく失礼かもっ!!」
「え? お前が運んでくれたのか?」
「ボクちゃんがそんな面倒な事をするわけないかも」
「おいおい」
むすーっと頬を膨らませる姿は可愛いが、言ってる事は無茶苦茶なカイム。
俺は呆れながらも、そんな彼女の頬を突いて遊んでいたのだが……
「しかしミコトよ。気絶してしまうとは情けない」
「ベリアル……いたのか」
「うむ。ずっとな」
俺の体をよじ登るようにして、布団の中から姿を現すベリアル。
コイツ……またしれっと、俺と一緒に寝てやがったのか。
「遠隔での魔神憑依は、魔神の位置が離れていれば離れている程に魔力を食ってしまうのじゃ。ただでさえ昨日は憑依を繰り返しておったし、お前が魔力切れで倒れてしまうのも当然じゃな」
よじよじと俺の頭に上りながら、ベリアルは俺が気絶した理由を解説する。
なるほど。通りで、全身から力が抜けるような感覚に陥ったわけだ。
「しかも、いくらフェニックスの再生の力があるかといって……バラムの攻撃で一度死んだそうじゃな?」
「あははは……フェニスから聞いたのか?」
「うむ。いくらなんでも危険すぎる。今後はそういう捨て身の作戦は、なるべく避けるようにせんか」
いつものようにお小言を口にしながら、ペシペシと俺の頭を叩くベリアル。
あの場ではああするしか無かったと言っても、通用する感じじゃないな……これ。
「ベリアル! そんな事よりも、ボクちゃんを憑依しなかった事を怒って欲しいかも! 正直、未だにプンプンかも!!」
「そうは言われてもな。あの状況でカイムを憑依しても勝てなかったと思うし」
「うむ。お前には無理じゃ」
「ひぃーどぉーいぃーかぁーもぉーっ!!」
「カイムの事よりも、ムルムル達はどうしているんだ?」
ベッドの脇で仰向けに寝転がり、駄々っ子のように両手両足をばたつかせるカイムをスルーしつつ、俺は一番気になっていた事をベリアルに訊ねる。
流石にこの状況から察するに、バラムはちゃんと約束を守った筈だ。
となれば、彼女達は望み通り、ヴァルゴルに――
「連中なら、エルフ達と共にヴァルゴルに残ったぞ。レオアードの連中に荒らされた集落や森の修復に大忙しじゃからな」
「あー……やっぱりそうか。改めてハーレムへの勧誘をしたかったんだけど、それはまた今度の機会にしよう」
別に彼女達に好かれる為にバラムと戦ったわけじゃないけど、それで感謝されて俺の事を少しでも良いと思ってくれたのなら儲け物だ。
次に会った時には、俺との契約を考え直してくれていてもおかしくはない。
「また近い内に挨拶に来ると、ムルムルが言っていたぞ。それと……もし良ければ、ユーディリアとヴァルゴルの同盟について話し合いたいともな」
「え? 同盟って……ヴァルゴルは中立の国なんじゃ?」
「さてな。お前の戦いを見て、考えを変えたのか……それとも、何か思うところがあったのか。いずれにせよ、悪いようにはならんじゃろう」
まぁ、ベリアルの言う通り、ムルムル達が俺達に友好的な態度を示してくれるのならば、それに越した事はない。
細かい事は、会ってからじっくりと話し合えばいいんだし。
「……ボクちゃんを置いて、話を進めないで欲しいかも」
「もう癇癪は済んだのか?」
「おぉーわぁーってぇーなぁーいぃーかぁーもぉーっ!」
「あっ、そう。ところでベリアル、バラムは何か言っていたか?」
「特に何も。気絶したお前を見て、笑っていたくらいじゃ」
うっ、それはなんだか恥ずかしいところを見られてしまった。
アイツとも、また次の機会に決着を付ける必要があるんだよなぁ。
「ベリアル。俺、もっと強くならないと」
「……うむ。今のままのお前では、バエルを倒してヴァサゴを救う事など夢のまた夢じゃからのぅ」
ベリアルが口にした少女の名前、ヴァサゴ。
かつて、俺のすぐ傍にいた彼女を……俺は、バエルの魔の手から守る事ができなかった。
だから俺は強くなって、一日も早くヴァサゴを救い出すと誓った筈なのに……またしても支配者クラスの魔神を前に、俺は醜態を晒している。
「じゃが、以前は竦んでいただけのお前が……よくぞ支配者クラスの魔神を半契約まで追い込んだものじゃ」
「ベリアル……」
「案ずるな、ミコトよ。お前は確実に成長しておる。今は仲間を増やし、己の力を蓄える時期なのじゃから……焦る必要はあるまい」
小さな手で俺の頭を撫でながら、優しい声色で語るぬいぐるみ。
全く、コイツは。
いつだって、俺の心が弱くなりそうな時に……的確な言葉をくれやがる。
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