112話 だけど彼女は呼ばれない
「はぁ……ダーリン、ご無事でしょうかぁ」
「がぅ……心配です」
「ミコトっちなら、きっと大丈夫かも!」
「し、信じているのだわ。ボティはもう、ぎょえぎょえ言わないのだわ……!」
「盟友の命の灯火は、まだ激しく燃えている! 我が魔眼もそう言っている!」
「……ソロモン王、どうかご無事で」
根来尊が魔神バラムとの戦いを始めてから、十数分。
牧場で待ち続ける魔神少女達は、不安に苛まされながらも……その結末が良いものである事を信じて祈っていた。
「ぷはぁーっ! よいしょっと! たっだいまー!」
そんな彼女達の元に、先程魔神憑依を解除されたばかりのラウムがポンッと姿を現す。
尊に憑依された魔神が、元居た場所に戻ってくる事は先のハルファスとビフロンスで経験済みな為に、周囲の者達が驚く様子は無い。
「ラウムさぁん!! ダーリンはどうなっているんですかぁっ!!」
「がぅぅぅぅぅ!! ご主人様は無事なの!?」
しかしその代わり、戦いの場がどうなっているのかを訊ねようと、その場にいる魔神少女達全員が帰還したラウムを取り囲む。
これはハルファス、ビフロンスの時にも起きた事なので、ラウムは待っていたと言わんばかりにドヤ顔で口を開く。
「ふふーん。ボクの力で、バラムの鎧を剥がす事に成功したよー!」
「なんだって!? それは本当かい!?」
「本当だよ、アロケル。いやー、ボクの鍵開けの能力をあんな風に応用するなんて、昔のマスター君だって思いつかなかった事だね」
ミコトの機転を利かした作戦を、自分の事のように誇るラウム。
「ですよねぇっ!! 私のテルムチェラの特性を逆手に取って、トゲ付きの盾を生み出すなんて凄いですぅ!! あぁぁぁぁん!! だぁぁぁいりぃぃぃん!!」」
そんなラウムの言葉に、ハルファスは鼻息を荒くしながら賛同する。
尊の能力応用は彼女にとっても驚くべきものであり、嬉しかったのだろう。
「その話はもうさっきから百回は聞いたかも。いい加減、しつこいかもー」
恍惚の表情でくねくねと体を揺らすハルファスを横に押しやり、カイムがうんざりとした顔で前に出てくる。
カイム達がとにかく知りたいのは、バラムをどうしたのかではなく、尊がどうなったのか。ただその一つに尽きるのだ。
「それで、ラウム。ソロモン王は今、どのような状況に?」
「鎧を脱いだバラムと、最後の攻防を始める前だよ。剥き出しの紋章に触れるのが先か、マスター君が殺されるのが先か……って感じだね」
「ぎょええええええええええっ!? もう決着が付いてしまうのだわぁぁぁっ!!」
遂に決着の瞬間が訪れる事を知り、魔神少女達の間に緊張が走る。
尊が勝つか負けるかで、彼女達だけではなく……この場にいる百数十人ものエルフ達の命運も決まるのだから。
「がぅぅっ!! でも、今のご主人様には誰も憑依していないよ?」
「そうですよぉ!! 最後のお供には誰を選ぶつもりなんですかぁ!?」
「さぁ? 少なくとも、憑依を解除されたボクじゃない事は確かだね」
左右から両肩を掴まれ、ガクガクと揺らされながらも淡々と答えるラウム。
そんな様子を受けて、ハルファス達の焦りは加速していくが――
「落ち着きなさい、アナタ達。ここで騒いでいても、結果は変わりません」
「ムルムルさぁん……でもぉ」
「我々と違い、アナタ達は今この瞬間にも召喚される可能性があるのです。その際に最善を尽くせるように、今は集中しておくべきでしょう?」
慌てふためく一同に、正論を混じえながら注意するムルムル。
それを受けて、ハルファスとビフロンスも気を引き締めたようであった。
「そうですねぇ。火力的には私が召喚される可能性が高いでしょうしぃ」
「がぁうっ! バラムの紋章に触れるだけなら、幻影の能力の方が必要だよ!」
「うーん、どっちなのかなぁ」
単純な戦闘能力ならば、間違いなくハルファスが選ばれる。
だが、紋章に触れさえすれば決着が付くというのであれば、相手を惑わせる能力を持ったビフロンスが選ばれるだろう。
「……ハルファスもビフロンス、どっちとも違うかも」
しかし、そんな考えを否定するのは。
キリッとした瞳で森の入口を見つめているカイムであった。
「ぎょぇ? いきなり、何を言い出すのだわ?」
「ミコトっちは次に、ボクちゃんを召喚するに違いないかも」
それだけは間違いないと言いたげに、力強く頷いてみせるカイム。
「カイムさんを召喚ですかぁ?」
「いやいやいや。カイムなんて、役に立たないでしょ」
「カイムなんて憑依しても、負けるだけなのだわ」
「友よ、君には荷が重い戦いとなるだろう」
「いくらなんでも、それだけはないかと思いますが」
カイムの発言を受けても、他の魔神少女達は懐疑的な態度を向けるばかりだ。
万物の声を聴くというカイムの能力はどう考えても戦闘向きではないので、彼女達の反応は当然のものだと言える。
「……ミコトっち。ボクちゃんに任せて欲しいかも」
しかしそれでも、カイムは信じていた。
自分の力が尊を救う鍵になると。
そしてなにより――
「というか!! ボクちゃんも活躍させて欲しいかも!!」
そろそろ自分にも、カッコイイ出番が与えられて然るべきだと。
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こんな前置きやってますが、カイムは呼ばれません(無慈悲)
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