108話 守護らねば
「兵器の魔神ハルファスか。くかかかか、楽しめそうだぜ!」
「…………なんだろ?」
俺は今回の魔神憑依に違和感を覚えながらも、バラムと並んで森の方へと向かっていく。
今は細かい事を、気にかけている余裕は無いからな。
「マスター君!! 絶対に勝って、ユーディリアに帰ろうね!!」
「がうぅぅぅぅぅっ!!」
「ピンチの時は、ボクちゃんを憑依するといいかもー!!」
「がっ、頑張って欲しいのだわ……!」
「盟友、必ず生きて帰ってきてくれ。その時は、きっと――!」
「我々の命運、アナタに全て託しました!!」
「おーう!! まっかせとけー!!」
待機組の声援を受けた俺は振り返り、笑顔で手を振ってみせる。
最初にバラムが姿を現した時は、みんなして絶望に染まった表情になっていたけど……今は違う。
俺を見つめる彼女達の揺らぎの無いまっすぐな視線には、俺に対する確かな信頼が込められている。
「軽いノリだな、ミコトクン。最後の挨拶がそれでいいのか?」
「最後じゃないさ。俺は絶対に、お前に勝ってみせるからな」
(そうですそうですぅ!! ダーリンはこの私が守りきってみせますぅ!!)
あれだけの美少女達が、ああして信じてくれているんだ。
どれだけ勝算が低い戦いであっても、負けるわけにはいかない。
「いいぜ、そういうのは嫌いじゃねぇよ。ますます楽しくなりそうだ」
「楽しいのが好きなら、俺と契約するのが一番だぞ」
「くかかかっ!! 魅力的な提案だが、まずはそれだけの実力がある事を示して貰わねぇとな!」
森の中に足を踏み入れていくと、太陽の光が鬱蒼とした木々によって遮られた事で……辺りはかなり薄暗くなる。
慣れていないと右も左も分からなくなる天然の迷宮森林の名は伊達じゃないな。
「さて、ここら辺でいいだろ。これ以上進んだら、迷っちまう」
「オッケー。じゃあ、始めようか」
少し進んで、ほんの僅かに拓けた場所まで辿り着く。そこで立ち止まった俺達は十数メートル程の距離を取って、お互いに向かい合った。
(ダーリン!! バラムさんの攻撃は決して受け止めてはいけませんよぉ。私レベルの憑依だと、ガードした腕ごと破壊されちゃいますからぁ)
「だろうね。だからこそ、最初にハルるんを選んだんだけど」
「何をブツブツ言ってんだ? そっちからこねぇなら、こっちから行くぞ」
俺がハルるんと会話している間に、バラムは手の骨をボキボキと鳴らして臨戦態勢に移行している。
どうやら武器の類は使わないようだけど、あの拳は一撃でも貰ったら……その時点で俺達の敗北は決定的になってしまうだろう。
「かかってこいよ、バラム。可愛い女の子が相手だからな。まずはハンデ代わりに、そっちに一発打たせてあげるよ」
俺は言葉が震えないように注意しながら、わざとバラムを煽る言葉を口にする。
バラムに勝つ為に、まずはバラムの調子を乱さないとな。
「……くかっ! 言ってくれるじゃねぇか、ミコトクン!! そんじゃまぁ、お言葉に甘えさせて貰うとするぜぇっ!!」
案の定と言うべきか、バラムは俺の挑発に乗ってきた。
ただ一つ、誤算だった事があるとすれば……少し、効きすぎた事であろうか。
「全力で一発をお見舞いしてやる!! これを防げりゃ、お前はオレと戦う資格が十分にあるって事になるなぁ!!」
拳を握り、振りかぶる動作をするバラム。
ただそれだけで、体が縮み上がるような凄まじい覇気が俺達を襲う。
かつてバラムと同じ支配者クラスであるバエルと戦った時と同じように、俺の体は自然と硬直し、思わず膝を落としてしまう。
(ダーリン!! 早く武器を出して迎撃の準備をしませんとぉ!! 剣ですかぁ!? それとも槍、斧、鎌、なんでもいいですから早くぅ!!)
「だ、大丈夫。最初の武器はもう決めてあるから」
バラムのプレッシャーに屈した俺の身を案じて、ハルるんがかなりテンパっているが……ここまでは予想通り。
「どっせぇぇぇぇぇらぁぁぁぁぁぁっ!!」
目にも止まらないスピードで、バラムはきっと真っ直ぐに俺を殴りに来る。
ここまで話した彼女の性格から考えるに、実力で劣る俺を相手にフェイントを挟んだり、わざわざ後ろに回り込むような小細工はしない筈だ。
「頼むぞっ……!!」
(ダーリン!? 目を閉じて何をする気ですかぁ!?)
相手が一直線に俺を狙ってくる事が分かっていれば、取れる手段がある。
その前に、ハルるんの能力の応用が効くかどうかが鍵になるんだけど……!!
「いっけぇっ!!」
バラムの右ストレートが眼前に迫る最中、俺は脳内でイメージした武器をハルるんの魔神装具テルムチェラの力で具現化する。
「どんな武器を出そうと、俺より先に――なっ!?」
「よしっ!! 出たっ!!」
俺が生み出した特殊な武器によって、バラムの攻撃はガギィンッと弾かれる。更にはバラムの右手に傷を付け、赤い血飛沫を辺りに散らせる成果まで上げていた。
(ダ、ダーリン!? この武器は!?)
思い浮かべた原始的な武器を形にして生み出すテルムチェラ。
その力で生み出せるのはあくまで武器のみで、攻撃を防ぐ為の盾などは生み出す事ができない。
だけど俺は、表面に鋭いトゲがビッシリと生えている盾をイメージする事で、防具である盾を武器として具現化する事に成功した。
(しゅ、しゅごぉぉぉいっ!! 私の能力で盾を生み出すなんてぇっ!! あぁぁぁあああああああああああっ!! ダーリンしゅごしゅぎましゅぅぅうっ!!)
「一か八かの賭けだったけどな!!」
「ちぃっ!? めんどくせぇっ!!」
剣山のような盾に拳を振り下ろし、その手にダメージを負ったバラムだったが、この程度で怯む事はない。
彼女は傷付いた手を気遣う様子もなく、握り締めた拳を振り下ろしてくる。
さっきのカウンターの時と違って、覚悟を以て振るわれる彼女の拳に、この即席の盾が耐えられるわけもなく――
「ぐっ!?」
鋼で作られた盾は、まるでプラスチックのようにバキバキに粉砕されてしまう。
これもまた予想通り。
盾を生み出して攻撃を一度防いたのは、時間稼ぎと……バラムの視界を一瞬でも塞ぐ為だったからな。
「しゃあっ!! 木っ端微塵にしてやっ……あん?」
「ほら、プレゼントだ」
トゲ盾がバラムに破壊される一瞬の間に、俺はテムルチェラの力で次の武器を生み出していた。
形状にトゲさえ付いていれば、ある程度は武器認定されると証明されたからな。
その特性をまたしても利用し、俺が生み出したのは野球ボール位のサイズに、トゲトゲが付いた球体だ。
「これはっ……くっ!?」
俺が投げ渡したトゲ球体を、思わずキャッチしたバラム。
その球体の正体は、中に白い粉と火薬を大量に詰め込んだ煙玉なので――
「じゃあ、一旦バイバイだ」
「てめぇっ!!」
ちゅどぉんっと、煙玉が爆発するのと同時に周囲一帯が白煙に包まれる。
しかもトゲが付いているので、爆発の衝撃でトゲが四方に飛び散る仕様だ。
「さっきから、煩わしい真似ばかりしやがって!!」
白煙の中で、怒り声を荒らげるバラムに構う事なく、俺は全速力でその場から逃げ出す。
そして、バラムに気付かれない程度の距離まで離れると、俺は手頃な大木の影に身を潜める。これで彼女には、俺がどこに隠れたのかは分からなくなった筈だ。
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本格的なバトル展開は苦手ですが、頑張ってみますので、ご指摘とか評価とか頂けたら嬉しいです。
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