107話 できらぁっ!
「ど、どうしてだよ!? お前、俺の事を認めてくれていないのか!?」
「誤解するな、愚か者。別に儂の我が儘で言っておるわけではない」
「じゃあ、なんで契約してくれないんだよ」
折角、バラムと戦えるかもしれない方法を思い付いたというのに、契約ができないなんて……ベリアルはどういうつもりなのだろうか。
「儂とて契約は交わしたい。じゃが、不完全な状態の儂では契約を交わせないのじゃ。その証拠に、本来の姿に戻っても魔神の紋章はどこにも刻まれておらぬ」
「え? そうだったの?」
「うむ。じゃから、儂が完全に本来の力を取り戻すまでは契約できん」
「そんなぁ、ベリアル様だけが頼りなのにぃ!」
「がぅぅ!! 万事休すです!!」
「ベリアルさぁん!! ダーリンへの愛でどうにかしてくださいよぉ!!」
「無茶を言うな、馬鹿者」
「ふひぃ、いよいよガチでヤバイ展開かも!」
「ぎょえええっ!! 全て終わりなのだわぁぁっ!!」
「時、満ちるか。ああ、小生の人生には悔いばかり残っているな……」
「……どうしたら、良いのでしょうか」
頼みの綱であった作戦がダメになり、一気に消沈ムードの俺達。
しかし、俺達がこうして落ち込んでいては……後ろで怯えているエルフ達を、ますます不安にさせてしまうだけだ。
「仕方ない。今の俺が憑依できるのはハルるん、ラウム、フロン、カイムの4柱だけど……この戦力で、どうにかしてバラムを倒そう」
こうなった以上、俺が選ぶ方法は一つしかない。
今持てる力の全てで、バラムと戦う事だけだ。
「で、でも! どうやってあんな化物を倒すのさ!?」
「それはまぁ、なんとか隙を見つけて……バラムの紋章に触れるしかないかな」
俺が紋章に触れて契約さえ交わせば、その魔神は俺に絶対服従となる。
あまり使いたくない手段ではあるけど、これさえ上手く行けばバラムは従わせる事ができる筈だ。
「それしかありませんねぇ。ですがダーリン、私達の誰もバラムの紋章の位置を知りませんよぉ?」
「……一応、聞いてみようか」
さっきから俺達の作戦タイムを認めてくれているし、案外素直に教えてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みに賭けて、俺はバラムに質問してみる事にした。
「なぁ、バラム!! お前の紋章って、どこにあるんだ!?」
「あん? オレの紋章なら、へその上にあるぜ。今は鎧で隠れているけどな!」
「そうなんだ!! ありがとう!!」
それは余裕の現れか、それとも慢心か。
いずれにせよ、バラム……本当に助かります。
「バラム……お間抜けすぎるかも!」
「アイツが馬鹿で助かるね、本当に」
「ががうっ、ががーう! でも、鎧を脱がさないといけないよ?」
「あんな鎧なんてぇ、この私の生み出した武器で粉々にしてやりますぅ!」
「それができれば苦労しないんじゃがな」
「まぁ、紋章の位置が分かっただけで大収穫だ。なんとか、頑張ろう」
これで勝率が0.1%から1%くらいにはなったかもしれない。
単純計算で百回に一回勝てるのならば、その一回を今ここで引けばいい話だ。
「というわけで、ムルムル。ちょっとの間、ベリアルを預かっていてくれ。コイツがこんな姿である事は、バラム達にバレたくないんだ」
「え、ええ。分かりました。ですが、本気でアナタ達だけでバラムと戦うおつもりなのですか?」
「ああ。負けちゃったらゴメンな……ゴエティア!」
俺はベリアルをムルムルに手渡すと、手の中にゴエティアを出現させる。
「バラム、待たせて悪かった。もうこれで作戦タイムは終わりだ」
それから、待ちくたびれた様子で欠伸をしているバラムの方へと向き直り……こちらの準備が整った事を伝える。
「ふわぁ……んぁ? もういいのか? っしゃあ! 待ってたぜ!!」
するとバラムは、さっきまでの退屈そうな表情から一変。
とても気合の入った顔で、嬉しそうに腕をグルグルと回し始めた。
「千年前のリベンジ、ここでぶちかましてやるぜ!! ミコトクン!!」
「その千年前の相手、厳密には俺じゃないけど……まぁ、いっか」
俺と戦える事が心底嬉しそうなバラムを見ていると、仲良くなれそうな気がしてならないんだけど……油断は禁物だ。
相手は俺を一瞬で殺す事も可能な強敵。絶対に隙を見せてはいけない。
「うっし、じゃあ始めるか!」
「その前に、こっちからも一つルールを提案してもいいか?」
「ルール? おう、言ってみろよ」
「この牧場で俺達が戦えば、周囲に被害が出る。だから、戦う場所は森の中にしてくれないか?」
「あー……確かに。ここでオレが本気を出したら、そこにいる連中も無事じゃ済まねぇだろうからな」
戦いの余波でエルフ達が傷付く事を俺が避けたいように、バラムも獣人兵達を巻き込む事態は避けたい筈だ。
そこに付け込んで、なんとかバラムを森の中に連れ込みたかったのだが……
「場所は森の中でいいぜ。ただし、その隙に残った魔神達で人質を逃がす――なんて真似をしたら、その時はオレが全員を殺す。それで構わないな?」
「……ああ、それでいいよ」
あわよくばと考えていた作戦は、先に釘を刺されてしまったか。
でも大丈夫。俺がバラムを森に連れ込みたい理由はそれだけじゃないからな。
「うしっ、それじゃあ行くとするか! ミコトクン、頼むからオレを気持ちよくさせてくれよ?」
「期待に応えられるように頑張るよ……っと、その前に! ハルるん、君に決めた!!」
「はぁいダーリン!! 私の力を存分に使ってくださぁいっ!!」
「オープン!! 魔神ハルファス!! 汝の力を我が物とせよ!!」
魔神憑依の相手にハルるんを選んだ俺は、いつものように呪文を唱える。
そうすると、これまたいつもと同じようにハルるんが俺と一体化を――
「うん?」
(はぁ、はぁ、ダーリンと一つにぃ、ダーリンと一つにぃ……!!)
あれ? なんだ、この感じ。
全身に力が漲るのは普段と変わらないんだけど、何かが違うような……
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