11話 なんと破廉恥な!
「主殿! 貴方はこのユーディリアを治める王の生まれ変わりなのですよ! それがハーレムなどと……一体何を考えておいでですかっ!?」
長卓が叩き割られてしまうのではないかと、心配になってしまう程の怒気。
まだ元の世界で暮らしていた頃、幾度となくクラスメイトの女子達に向けられた懐かしい敵意を一心に受けつつ……俺は至って平静を装って言葉を返す。
「できるだけ多くのえっちな美少女に囲まれながら、みんなでイチャイチャと幸せな日々を過ごす事。あと、とにかくおっぱいとか、お尻とか揉みしだきたいです」
人によっては美少女が美少年になるケースがあるかもしれないが、まぁとにかく俺の場合は美少女に限る。ルカのおっぱいやフェニスの太ももを触った時のように、これから多くの美少女達の体を触りまくりたい。えっちな事をしたいのだ。
「おっ……おっぱっ!? おしりぃ……!? なんと破廉恥な!?」
だけど案の定と言うべきか、アンドロマリウスは俺の答えに狼狽し始める。
そうそう、こういう堅物キャラはおぼこで、そっち系の話に免疫無いのが王道でグッと来るね。ただ今回に限っては、多少は耐性あった方が良かったかなぁ。
「うーん。やっぱりドン引きされちゃうか」
「当たり前じゃ! このたわけ!!」
「あいだぁっ!?」
突然、頭部に走る激痛。
どうやら、成り行きを見守っていたベリアルに我慢の限界が訪れたらしい。
「ミコト! なぜお前は、もっと言葉を選べないのじゃ!?」
「言葉を選べと言われても、これが俺の本心だから仕方ないだろ?」
俺だって、なるべく綺麗事を口にした方が得だって事は理解している。
でも俺は、俺のハーレムに……これから自分を好きになって欲しい子達に嘘は吐きたくない。どうせここで取り繕っても、いずれ嘘がバレたら嫌われるだけだし。
「くぅっ、それでも偉大なるソロモン王の生まれ変わりなのですか!?」
「誰の生まれ変わりであっても、俺は俺だよ。根来尊だ」
ソロモンの生まれ変わりという肩書きでチヤホヤされる事に悪い気はしないけど、だからと言ってソロモンと同じように振る舞えと言われても困る。
「そ、それはそうですが! 貴方にはこのユーディリアを再興して頂く責任が――」
「……もうよい、アンドロマリウス。お前の言い分には共感できるが、ここでミコトを否定したところで無意味じゃ。お前も魔神であるならば、気に入らない者でも受け入れ、利用する程度の器量を持たんか」
「うっ、ぐっ……」
ベリアルの鶴の一声により、押し黙ってしまうアンドロマリウス。
瞳に涙を溜めて、親に叱られる子供のように歯を食い縛るその姿の、なんといじらしい事か。ぐぅっ、湧き上がる罪悪感で胸が苦しくなってきたぞ。
「がうがうがぅ? がうがががっ、がががうがう」
「うん。ビフロンスの言う通り、難しい問題だね。だからこそ、ボク達は……」
「そうですか? 私はミコト様が全面的に正しいと思います! ですから、もっと私をメインに可愛がるべきだと思うのですが、いかがでしょう!?」
「誰もがアンタみたいにお馬鹿で能天気なわけじゃないのよ、フルカス。変化を受け入れるって事は――過去のアイツを、消し去らなきゃいけないって事だもの」
アンドロマリウスの発言に対し、他の魔神達がそれぞれ自分の考えを口にする中で……締めとなったフェニスの呟きだけが特に際立って俺の耳に残る。
俺を認めるという事は前世の俺、ソロモンを忘れるという事。
千年間も忠義を貫いてきた子達にとって、それはとても辛い決断に違いなかった。
「……裏切り者の貴様がそれを口にするのか、フェニックス」
「あら、裏切り者には心が無いとでも? 酷い事を言うのね、アンドロマリウス」
そんなフェニスの一言を最後に、気まずい沈黙が食堂に流れる。
各々、思う事がありそうな顔をしているが、その口が開かれる事は無い。
俺だって何と喋ればいいのか分からずに、とっくに冷め切ったスープに口を付ける事しかできないし……あっ、こっちは意外と美味しいかも。
「むっ? 足音……?」
予想外のスープの味に俺が舌鼓を打っていると、ベリアルが何かに気付いたように食堂の入口、扉側に体を向ける。
それにつられて、俺も視線を扉へと向けてみると……
「……子供?」
両扉の半分を開いて、顔だけを覗かせている小学生低学年くらいの少女の姿がそこにあった。この子は確か、城下町で俺達を見ていた子供の一人だ。
「あ、あのっ! よろしい、でしょうか……?」
俺達の視線に気付いた少女は、意を決したように食堂内へと入ってくる。
更にその後ろには男女問わず、十数人の子供が着いてきていた。
なんだなんだ? この子供達は一体……?
「今日は供物の日ではない。子供といえども、許可無き入城は処罰の対象だぞ」
俺が状況を飲み込めずにいると、まずはアンドロマリウスが少女に声を掛けた。
厳格な性格の彼女らしい口ぶりではあるが、そんな言い方だと子供達が怖がっちゃうんじゃないだろうか。実際、最初の少女は目に涙を溜めて震えている。
「ごご、ごめんなさい、魔神様! 門が開いていたので……!」
「ぼ、ぼく達! ソロモン様がお戻りになられたと聞いて……あの、そのっ!」
少女に助太刀するように、背後に立っていた少年が一歩前に出てくる。
この子もまた足を震えさせ、かなり緊張している様子だ。
「なぁラウム、供物の日ってなんだ?」
子供達の様子を見守りつつ、俺は気になったワードについて訊ねてみる。
「ちょっとした税みたいなもんだね。ソロモン様がいつ戻って来てもちゃんとした食事をお出しできるように、民から食糧を定期的に徴収しているんだよ」
「へぇ、そうだったのか。でもそれってなんだか、悪い気がするな」
「徴収と言っても、食糧が駄目になる前に返していますけどね。私達魔神は基本的に食事が要らないので、ミコト様がお戻りになられなければ不要となります」
「そうそう。だから供物の日になると新しい食糧を徴収して、前の分を返すのさ」
なるほど。つまり俺が戻る前までは、一時的に食糧を預けているような状態だったってわけか。だから実質、民への負担はそこまで大きくは無いと。
つーかそんな物があるなら、蛇じゃなくてまともな食事を出して欲しかったな。
「えっと、それで君達は……どうしてここに?」
色々と突っ込みたい事はあるが、とりあえずそれはそれ。
俺は席を立つと、頭からベリアルを下ろして子供達の前に歩み寄っていった。
「ソロモン様! ぼく達、ソロモン様の為に捧げ物を持ってきたんです!」
「もしよかったら、食べてください!」
俺が近付いていくと、子供達は目を輝かせながら俺を取り囲んでくる。
ほう。俺は別に子供好きというわけじゃないが、こういう好意は素直に嬉しい。
「おお、ありがとう。割とマジで助かるよ」
「はい、どうぞ! ソロモン様!」
子供達を代表して、最初に入室してきた女の子が俺の手に布袋を手渡してきた。
正直言って、蛇の丸焼きと血のスープだけじゃお腹は満たされなかったからな。
ここはご好意に甘えて、食事の物足りなさを埋めるとしよう。
「…………ん? んんんっ!?」
子供達からの贈り物にウキウキしながら、俺は革袋を開く。その中には、パンとか果物とか、そういうまともな食べ物が入っている……と、思っていた。
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