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105話 ヤってやるよ!!


「よぅ、ひでぇじゃねぇか。こんなイイ女が寝てるっていうのに素通りたぁ、男が廃るぜ。ソロモンの生まれ変わり!」


 いつからそこにいたのか。

 突如として俺の傍に姿を現した、魔神バラム。


「マスター君!!」


「ダーリン!?」


「がぅぅぅぅぅっ!!」


 その姿を目にした瞬間、この場にいる全ての魔神達が攻撃姿勢に移るが……バラムが俺の首に腕を回している状態では、動くに動けないようだ。


「ミコトっち!! 早く逃げるといいかも!!」


「おのれ、バラムッ!! ソロモン王から離れなさい!!」


「ぎょえええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」


「なんという事だ!! 盟友よ!! 今すぐ助け出してやるからな!!」


「……まぁまぁ落ち着けって。確かにやべぇ状況だけど、バラムが俺を殺すつもりなら、とっくにやってると思うぞ」


 いきなり支配者クラスの魔神が現れたのだからテンパるのは当然だけど、慌てたところで事態は好転しない。

 幸いにも相手が友好的に話しかけてくれているんだ。

 ここはまず、話し合いに応じて情報を引き出すべきだろう。


「オレがその気になれば、一瞬で死ぬっていうのに……随分と余裕じゃねぇか」


「イイ女に密着されて、喜ばない男がいるのか? 少なくとも俺は嬉しいぞ」


「くかかかかっ!! ちげぇねぇ!!」


 俺の返答が面白かったのか、バラムは愉快そうに俺の肩をバンバンと叩く。

 その力加減は普通のスキンシップ程度のもので、俺が遥か彼方まで吹っ飛ぶようなレベルではなかった。


「っと、わりぃわりぃ。自己紹介もまだだったよな、ソロモンの生まれ変わり!」


「ああ、そうだな。俺は根来尊、気軽に尊君って呼んで貰えると嬉しいぞ」


「そうかそうか、ミコトクン。ちなみにオレは序列第51位の魔神バラム。既にご存知だとは思うが、支配者クラスのつえー魔神だ」


 自己紹介を交わしてから、バラムは俺から一歩距離を取って頭を下げる。

 その礼儀正しさに俺は思わず面を食らってしまったが、ここで相手のペースに乗せられるわけにはいかない。


「ありがとう、バラム。ところで、どうやって俺の後ろに? バエルに会った時もそうだったけど……支配者クラスの魔神は急に現れるから心臓に悪いよ」


「バエル? なんだお前、バエルと会って生き延びているのか? はぁー、あの性悪女に殺されずに済むなんて……よほど運がいいのか、それとも――」


 俺の顔をジロジロと覗き込みながら、感心したように何度も頷くバラム。

 少しは牽制になるかと思ってバエルの名前を出したが、吉と出るか、それとも凶と出るか……


「って、わりぃわりぃ。質問にまだ答えてなかったな。オレがお前達に気付かれなかった理由は、オレの持つ能力のお陰だよ」


 そう言ってバラムは、右手をズイっと俺の前に差し出し……人差し指と親指の間に挟んでいる一本の針を見せつけてくる。

 紫色をした鋭い針の長さは普通の裁縫針と比べると、かなり大きく――スプーンくらいはある。恐らくアレが、彼女の魔神装具なのだと思うが。


「コイツは【透化針イニジビリタークス】って言ってな、コイツで刺した物質は透明になるんだ。あっ、ちなみに生物を透明化させると頭が良くなるんだぜ」


「つまり【物質を透明化させて、頭を良くする】能力って事なのか」


 確かにその能力で彼女が透明になっていたのであれば、誰に気付かれる事なく俺達に接近する事は容易だろう。


「バラム! アナタの魔神装具は……覚醒していない状態だと、生物を透明化させる事はできなかった筈では?」


俺が納得する裏で、横から異論を挟んだのはムルムル。

 そう言えば、魔神の能力は基本的に本来の力を失っており、俺と契約する事で本来の力を発揮できるようになる。

 だから今、能力を完全に使用できているのはおかしいというわけだ。


「おう、あの頃はそうだったな。だけどよ、自力で能力を覚醒できないなら、鍛えればいいだけの話だろ?」


「鍛え……!? まさか、そんな事が!?」


 あっけらかんとしたバラムの答えに、ムルムルは驚愕で目を丸くしている。

 いや、そりゃあこんな根性論を聞かされたら驚くよ。


「中立を謳って千年間も怠けてっから、能力も衰えるんだよ。オレみたいに、毎日ビレトと殺し合いを続ければ、お前らもちったぁ強くなれると思うぜ」


「ビレト……?」


「バラムと同じ支配者クラスの魔神だよ、マスター君。怒りっぽくて、常に暴れてるやべー奴なんだけど……どうやら、レオアード陣営にいるみたいだね」


 聞き慣れない名前については、ラウムが解説してくれた。

 なるほど。つまりレオアードには最低でも2柱以上、支配者クラスの魔神が所属しているという事になる。


「そう言ってやるなよ、ラウム。アイツだって、好きで暴れているわけじゃねぇんだからな」


「それは殺されない自信がある奴だけに許されたセリフだよ。ボクみたいな非力な魔神にとっては、お近づきになりたくない相手だね」


「くかかかかかっ!! ちげぇねぇっ!!」


 ラウムの反論を受けて、またもや楽しそうに笑うバラム。

 こうして話している感じは、とてもいい子のように思えるんだけど……油断はできない。彼女がその気になった時点で、俺達は終わりなのだから。


「まぁ、ビレトの事はどうでもいいか。それよりもお前達が気になっているのは、オレがどういうつもりでここにいるのか……だろ?」


「っ!」


 ひとしきり笑い終えたバラムは、俺の顔を見つめながら本題を切り出した。

 そうだ。いつだって俺達を始末できる立場にありながら、なぜ手を出してこないのか……その理由こそが、俺達がこの窮地を脱する唯一の手段だ。


「実を言うとな、ミコトクン。オレは最初から、お前達がこのヴァルゴルに潜入してきた事を知っていたんだよ」


「え? 知っていた……?」


「おう。この牧場で、馬鹿な部下共を切り伏せてくれたところから、ずっとな」


 この場にいる全員が、あまりの衝撃に唖然とする。

 しかしそんな事はお構いなしと言わんばかりに、バラムはなおも話を続ける。


「あ、この事はエリゴスの奴には内緒な。アイツに聞かせたら、まーたグチグチうっせぇから。ほんっと、アイツとは気が合わねぇっていうか、なんつぅか」


「……バラムさぁん、本当に私達の事に気付いていたんですかぁ?」


「ん? ああ、嘘じゃねぇよ。まぁ、俺が気付いていたっていうよりは……コイツらがお前達を常に見張ってくれていたんだけど」


 ハルるんの問いかけに答えながら、バラムは右手の指をパチンと鳴らす。

 その行動、彼女の言葉の意味を理解するのに――時間はいらなかった。


「なっ!? なんだよ、これ!?」


 指を鳴らした瞬間。

 ソレは、ソイツらは……一瞬にして、俺達の目の前に現れた。


「これもエリゴスには内緒な。アイツ、俺の部隊の一部を連れていっただけでドヤ顔していたし……こんな事知ったら、可哀想だろ?」


 俺と7柱の魔神、そしてその後ろに控え百数十人のエルフ達。


「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 それら全てを取り囲みながら、武器を構えている数百人にも及ぶ獣人兵が……バラムの指パッチンと共に、一斉に姿を現したのだ。


「念の為に控えさせておいたコイツらが役に立ったよ。面倒だったんだぜ、コイツら全員にイニジビリタークスを刺すの」


 目の前で話すバラムの言葉が、とても遠い距離から聞こえてくるように思える。

 それほどまでに心臓の音が早鐘のように鳴り響き、俺の焦りを加速させていた。


「まぁ、これで分かってくれたと思うが……今更逃げるなんて馬鹿な考えは、捨てた方が身の為だぜ」


 時間を稼いで、エルフ達だけでも逃がそうなんて考えは甘かった。

 俺がやるべき事は、もう決まっている。


「でもだからって、諦める必要はねぇよ。オレはお前達にチャンスを与える為に、こうしてわざわざ話し合いをしているんだ」


 いつか、じゃない。


「オレの望みはたった一つ。お前達が生き残る道も、たった一つ」


 今、この場所で。

 

「……ミコトクン。今からオレと、命懸けでタイマン張らねぇか?」


「……ああ。こっちからお願いしたいくらいだ」


 バラムを倒す。

 それしか無いんだ。


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