104話 傷付いちまうぜ
思えば、彼女と初めて出会った時は……勿体無いという印象を抱いたんだっけ。
可愛らしい顔付きで、間違いなく美少女の素養を持っているというのに、明らかに怠惰な生活で身に付けたと思われる脂肪を披露していたからな。
それだけの美貌を持ちながら、なんて勿体無いんだ……ってね。
「んっ、ぁ……はぁ、んぅ……それぇ、ダメぇ、かもぉ……」
しかし、今頃になって俺は……それはそれでアリなのかもしれないと思うようになっていた。
かつて俺が、初めてキミィと出会った時――その素晴らしい筋肉美に惚れて、新たな性癖を開拓したのと同じように。
俺は今まさに、ぽっちゃり好きという性癖の扉を開いたのだろう。
「はぁっ、はぅ……気持ち、良すぎてぇ……おかしくぅ、なっちゃいそぉ……」
ジャージのような服装からハミ出す、ぶにぶにと柔らかそうな腹の肉。
怠惰の証として忌むべきこのぜい肉が、なぜだろうか……美少女であるカイムという前提があるせいか、とても素晴らしいモノに見えて仕方ない。
というより、今すぐにでも揉みしだきたい。ぶっちゃけると、それなりのサイズがあるカイムの胸よりも……この! 腹の!! ぜい肉を!!
「はひゃぁんっ!? ミ、ミコトっちぃ!? そっちはちが、ぁんっぅ……!」
「ふむ、これはこれは……」
柔らかい。
ちょっぴり汗でじっとりとしているせいで手に吸い付く感じもあるが、これはおっぱいよりも弾力があって……揉みごたえがあるというか、おっぱいとはまた違った楽しみ方が――
「ミコトよ、貴様の髪を一本残らず引き抜いてやってもよいのだぞ?」
「…………勘弁してください」
怪しい魅力を放つ腹肉の誘惑に負け、理性を失いかけていた俺を……恐ろしく冷たい声色が引き止める。
意識を取り戻すのがもう少し遅ければ、今頃俺の髪は消え失せていた事だろう。
「はひぃ、ふひぃ、ミコトっち……大胆、かもぉ……」
「いや、すまん。お前があまりにも魅力的過ぎてさ」
くたぁっと、地面の上に崩れ落ちたカイムに俺は手を差し伸べる。
契約の快楽で弱っていたところに、お腹モミモミのトドメを刺されてしまったせいか、カイムの足はすっかり笑ってしまっていた。
「ぎぐげごがげがぐぎいがぐごげがぁ! なぁんて羨ましい事をぉ!!」
「ひゅーっ、ひゅーっ! マスター君も手付きが慣れてきたね!」
「がぅーん!! すっごく気持ちよさそう!!」
後ろではハルるんが俺とカイムの契約を目の当たりにして嫉妬に燃えており、ラウムとフロンはなぜかパチパチと拍手をしている。
「ぎょえっ、ぎょぎょえぇっ……直接契約をされると、あんな風に淫らに乱れてしまうのだわ!! 公衆の面前でハレンチなのだわぁぁぁぁっ!!」
「アレが直接契約……盟友との絆を確かめ合う神聖な儀式というわけだな!!」
「……コホン。やはり、この場で契約を薦めるべきでは無かったでしょうか」
契約のエロスを目の当たりにして絶叫するボティと、妙に嬉しそうにハツラツな笑顔を見せるアロケル。そして、顔を赤くしながら気まずそうにしている。
そんな反応達もまた、可愛いのだけれども。
「むぅ、ミコトっちのエロエロ大魔神! 今度から、お腹を触る時にはもっと優しくして欲しいかも!!」
「あははっ、お腹を触るのは構わないのか」
ようやく回復し、俺の手を掴んで立ち上がったカイムのセリフに……俺は思わず笑ってしまった。
なんだかんだ言って、お腹を触られるのは嫌じゃなかったって事だからな。
「ミコトよ。イチャつくのは構わんが……」
「どうせ構わないくせにぃだだだだだだだだっ!?」
「か・ま・わ・ん・が! いつまでもヴァルゴルにいるわけにもいかん。ラウムがエルフ達全員の拘束を解いた事じゃし、すぐにでもユーディリアへと向かうぞ」
「はい、はいはい!! すぐにそうします!! そうしましょう!!」
「うむ。素直なお前は大好きじゃ。いつもそうしておれ」
凶暴なぬいぐるみに危うく髪の毛を引きちぎられそうになりながら、俺は近くで心配そうな表情を浮かべていたムルムルに問いかける。
「というわけで、ムルムル。俺の頭が無事な内に……ここにいる全員でユーディリアに向かおうと思うんだ。ひとまず、それで大丈夫か?」
「え、ええ。先程もお話しした通り……我々はソロモン王を信じております。いつかヴァルゴルを取り戻す日まで、ユーディリアにてお世話になります」
「頼むぞ、我が盟友よ!! 小生達の命は預けたぞ!!」
「ぎょえぇ……なんとしても、ボティの命だけは守って欲しいのだわ!!」
「「「「「「「「「お願いします!!」」」」」」」」」」
ペコリと頭を下げるムルムル達に続いて、後方に控える百人以上のエルフ達も揃って頭を下げてくる。
これだけ多くの女性達に頼られるなんて、なんだか背中がむず痒いな。
「任せてくれ。みんなの事は、俺が必ず守ってやる」
俺は彼女達の声に応えるように、トンッと自分の胸を叩く。
この時の俺はムルムル達の救出成功と、新たな魔神との契約にすっかり浮かれてしまっていて――気が緩んでいたのかもしれない。
「そしていつか必ず、バラムを攻略して……ヴァルゴルを取り戻してみせるよ
いいや。きっとソレは、警戒していても防げなかっただろう。
「く、くくっ……くかかかかっ! いいねぇ、お前。すっごくイイぞ!」
なにせ、彼女は――音や気配もなく、本当に一瞬にして現れたのだから。
「え?」
背後から突然、ガシャンという音と共に……俺の首に何者かの腕が回される。
無骨な鎧に包まれたその腕の持ち主は、俺の耳元に顔を近付け、耳たぶに唇を触れさせながら――そっと囁く。
「なぁ、おい。いつかとは言わずに、今すぐオレとヤりあわねぇか?」
「お前は!?」
背筋に冷たいものを走らせながら、俺は咄嗟に振り返る。
そうして俺は、声の主の姿を視界に映したが……到底、信じられなかった。
「なんだなんだ? お前ら全員、幽霊でも見たような顔をしやがって」
青紫の髪に、赤紫の瞳。重厚な大鎧を身に纏った美少女。
本来、この場にいる筈がない……いや、来られる筈のない彼女の正体は……
「いくらオレでも、ちったぁ傷付いちまうぜ」
「バラム……!!」
ヴァルゴルを侵攻したレオアード軍の指揮官にして、支配者クラスの魔神。
今の俺達には、到底勝ち目の無い――最悪の存在であった。
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