101話 どないしましょ
ヴァルゴル大森林の東部。
フロンの幻影の力で、上位魔神であるエリゴスを退けた俺達は……ホッと一息を吐いていた。
「あっはっはっはっ!! やったね、マスター君!!」
「がうぅぅっ!! 勝ちましたっ!!」
「ああ、よくやったよ。本当に」
緊張の糸が解れて切り株の上に座り込んだ俺の隣では、フロンとラウムが手を握り合いながら嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。
その際にフロンのたわわなおっぱいがばるんばるん揺れる光景は眼福なのだけど、今の俺はちょっぴり……アンニュイな気分なのであった。
「でもフロン、あの幻影はちょっとやりすぎじゃないか?」
「がう?」
「いや、ほら。エリゴスを騙す為とはいえ、俺はともかくラウムまで酷い目に遭わせちゃったじゃないか」
さっきまでフロンを憑依していた俺は、幻影面イリュージョラルヴァのコントロールをラウムに任せきりであった。
というのも、今まで俺が憑依してきた魔神の能力と違って、幻影を一から創造する事はとても難度が高すぎて……上手くやれる自信が無かったからだ。
餅は餅屋の考えで、その道のプロフェッショナルであるフロンに、エリゴスを惑わせる幻影を生み出して貰ったわけなんだが――
「そうだよ、ビフロンス! ボクの腕や頭を、よくも切り飛ばしてくれたなー!」
「がぅがぅがぅー。だって、そうした方がリアルだと思ったから……」
「それにしてもリアル過ぎだよ。まぁ、それだけフロンのイメージ能力が凄いって事だけどね」
そう言って俺は、今回大活躍だったフロンの頭に手を乗せる。
右肩に深傷を負ってまで戦ってくれた彼女に、感謝の気持ちを伝えるのはこの程度じゃ足りない気もするが――
「がぅぁっ!? がぅ~!!」
フロンは嬉しそうに目を細め、存在しない尻尾をブンブンと振り回しているかのように喜んでくれた。
体付きは誰よりも大人びているのに、こういった仕草や内面、顔立ちには幼さを残しているんだから……この子も色んな意味で凶悪だよな。
「あっ、ズルい!! ボクもボクも!!」
フロンの頭を撫でていると、空いている俺の左手をラウムが引っ張ってくる。
普段の少し大人ぶった態度が鳴りを潜め、子供のようにおねだりするラウムのなんと可愛い事か。
「喜んで。ラウムも今回は頑張ってくれたからな」
「えへへ……褒められるのって、やっぱり嬉しいもんだね!」
空いた左手でラウムの頭を撫でると、彼女もまた嬉しそうに目を細める。
全く、フロンもラウムも可愛すぎかよ。たまんねぇな、おい。
「……ふんっ! いつまでそうしておるつもりじゃ!!」
「いだぁっ!? いでででっ!! ベリアル!! なんだよ!?」
と、俺がラウム達の可愛さに癒されていたのも束の間。
凄まじい勢いで髪の毛を引っ張られ、俺の癒しは痛みによって塗り潰される。
「エリゴスを退けはしたが、まだバラムが残っておるのじゃぞ。一刻も早く他の者達と合流し、ユーディリアへと撤退せねばなるまい」
「それは分かるけど、別に髪を引っ張る必要は無いだろ!」
「ふんっ、スケベなお前にはこのくらいがちょうどいいのじゃ」
コイツ……ヤキモチを妬くなら、もう少し可愛らしく振る舞えばいいものを。
理不尽暴力系ヒロインは、蛇蝎のごとく嫌われるご時世なんだぞ。
「まぁでも、ベリアル様の言う通りだよ。マスター、名残惜しいけど急がないと」
「がぅっ!」
「ああ。でも、一つだけ大きな問題があってさ」
レオアードへと移送されかけていたエルフ達の救出も無事に果たせたようだし、後は合流地点としてあらかじめ決めていた牧場へと向かうだけだ。
「……牧場に向かうには、どっちの方向に進めばいいんだろう?」
「がぅがっ!?」
「えっ?」
俺はフロンの危機を感じ取り、その直感に従ってこの場所までやってきた。
だから当然帰り道なんて覚えていないし、道案内役のエルフを近くに連れてきているわけでもない。
「ちょ、ちょっとちょっと! それはマズイよ、マスター君! 何も考えないで、ここまで来ちゃったわけ!?」
「だ、だって。フロンを助けたい一心しか無かったし……」
「がぅー、照れちゃいます」
「いやいやいや、照れてる場合じゃないよビフロンス!!」
このヴァルゴルの森は天然の迷宮。
エルフの道案内なくして、目的地に向かう事はほぼほぼ不可能だろう。
「がうがー。こっちの方角がレオアード方面への出口だって事は、少し前にエルフさんから教えて貰いました!」
「それでエリゴス達を外へ放り出せたわけか。でも、牧場への道が分かるわけじゃないし……」
すっかり困り果てた俺達は、全員で頭を抱える。
このまま宛もなく歩いたところで、遭難するのは目に見えているからなぁ。
「また俺の直感が働いてくれれば……んっ!?」
どうしたものかと肩を落としそうになったその時、近くの茂みがガサガサと揺れる。俺達はすかさず身構え、その茂みに警戒を向けた。
「もしかして、レオアード兵がまだ……!?」
ガサガサガサと、揺れを激しくしていく茂み。
果たして、その中から出てくるものは一体……?
「ふひぃっ、ふひぃっ!! やぁーっと追い付いたかもぉーっ!!」
「「「カイム!?」」」
なんと、茂みの中から飛び出してきたのは……だらしないボディの面倒臭がり魔神、カイムであった。
「ふひ、ふひぃ、いきなり凄いスピードで走っていくから、びっくりしたかもぉ」
髪の毛や服の端々に木の枝や葉っぱをくっ付けながら、彼女はこちらへと近付いてくる。その顔は全力疾走のせいか、真っ赤になっていて苦しそうだ。
「悪かったよ、カイム。でも、どうしてここに?」
「ミコトっち達がここで何をしていたのかは、森の声を聞いて知ってるかも。だから、こうしてわざわざ迎えに来てあげたの!!」
そう捲し立ててから、その場で腰を下ろして息を整えるカイム。
なるほど。俺達が迷子にならないように、こうして来てくれたわけか。
「ありがとう、カイム。助かったよ」
「ふーん、カイムのくせにやるじゃん。ボク、少し見直しちゃった」
「がぅー!!」
「別に、ただボクちゃんは借りを返したかっただけかも。別に、深い理由なんてこれっぽっちもありはしないのかもー」
お礼を言われて照れているのか、カイムは恥ずかしそうにそっぽを向く。
この子もこんな風にすげぇ可愛いのに、どうしてこんなにもルーズなボディになってしまったのだろうか。勿体無い。
「うむ。では案内役も来た事じゃし、そろそろ向かうとするかのぅ」
「そうしよう。カイム、大丈夫か?」
「えー? 全然大丈夫じゃないかも。だから、えっと……」
カイムは地面の上に座ったまま、上目遣いで俺達の顔を覗き込むと。
くねくねと身体を揺らしながら、鼻にかかった甘えん坊ボイスで――
「おねがぁい、ボクちゃんをおんぶして欲しいかもぉ!」
そんなおねだりをしてくるのであった。
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