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97話 がうがうがーうっ!!

 胸騒ぎがした。

 嫌な予感がした。

 俺の大切なモノが傷付けられてしまうという、確信があった。


「……間に合って、本当に良かった」


 だから俺は、脇目も振らずに全力で走った。

 本来であれば、天然の森林迷宮によって、ここに辿り着く為の道筋なんて分からない筈なのに――


「がぅぅぅっ……!!」


 俺は無事に、彼女の危機に間に合う事ができた。

 もし、後少しでも遅れていたら――今頃、フロンは。


(ボクの親友をよくも!! エリゴス!!)


 痛々しい肩の傷口から血を流す友の姿を見て、俺が憑依しているラウムが怒りに満ちた声を荒らげる。

 本来、戦闘タイプではない彼女ではあるが、フロンの危機となったらハルるんを憑依した時よりも素早く動けるんだから……火事場の馬鹿力って凄まじい。


「ま、まさか!? これも幻影……!? いや、この感覚は――!!」


 そして今、俺の目の前でフロンを殺そうとしていた魔神エリゴスは、俺の顔を見て信じられないといった様子で狼狽えている。

 無理も無い。フロンが生み出した幻影を嘲笑っていたかと思えば、いきなりご本人登場だからな。モノマネ番組も真っ青の、衝撃的な展開だ。

 ならば、ここは少し――驚かせてやるか。


「あれ? もしかして僕の顔を忘れちゃったのかな?」


「ひぃっ!? ソ、ソロモン様っ!?」


 俺はエリゴスに笑顔を向けて、あえて前世の俺のように振舞ってみせる。

 すると効果は抜群だったようで、エリゴスはすっかり怯えきった反応でバックステップ。俺達から、数十メートルほどの距離を取った。

 

「フフフ……ミコト、今のはかなり似ていたぞ」


「静かにしてろよ、ベリアル。お前の正体はバレない方がいいんだろ?」


 俺の真似が面白かったのか、頭上のベリアルが楽しそうに笑う。

 コイツ、敵対勢力には自分の事を知られたくないっていつも言ってる割には、大事な部分でお喋りになるよな。


「ゴエティア、クローズ」


 エリゴスが距離を取ってくれたので、俺はゴエティアを出現させてラウムの憑依を解除する事にした。

 だって、俺の体から出してあげないと――


「ビフロンス!? 大丈夫!? 怪我は痛くないっ!?」


「がうーん!! がうがうがう!!」


 ラウムがフロンの傍に、こうして駆け寄る事ができないからな。


「がーうぅー!」

 

「良かった、そこまで重傷じゃないみたい」


 怪我の具合を案ずるラウムに大丈夫だと訴えるように、フロンは立ち上がってグッと力こぶを作るポーズを取ってみせる。

 仮面で隠れているけど、その表情もきっと笑っているに違いない。


「さて、フロンが無事だったのは嬉しいけど……これから、どうするかな」


 フロンを助ける為に俺はムルムル達を置いて、ここまで急いでやってきた。

 だから彼女達の助力を期待する事は、正直言って不可能だ。

 それにこの場所にハルるんがいないという事は、恐らくは手筈通りに助け出したエルフ達を逃がしているのだろう。

 つまり、今回のメンバー随一の戦闘能力を持つハルるんの助力も期待できない。


「ありえない、ソロモン様は死にやがった筈……!! でも、あの指輪と魔本を持っていて……魔神憑依も!!」


 さっきのハッタリが効いているお陰で、今のところエリゴスはこちらに攻撃を仕掛けてくる気配はない。

 しかしそれがいつまで続くかどうかも分からないし、ボロが出れば公爵クラスの彼女と真っ向勝負をしなければならなくなる。


「……お前の出番かな、ベリアル」


「む? もう切り札を使うのか?」


 一日五分程度だけ、本来の姿に戻る事が可能なベリアルに戦って貰えば……恐らく、エリゴスを倒せずとも逃げる事はできる。

 しかしそうすると、もしもこれから先ピンチが訪れた時に、ベリアルという切り札を使えなくなってしまうのだ。

 でも、結局はここで負けてしまったら意味が無いわけで。

 だから俺は――


「が、がぅっ! ミコ、ト様ぁ……!」


「え? フロン……?」


 切り札の切りどころを悩み、顎に手を当てて考えていた俺の腕を……突然背後から、フロンがぐいぐいっと引っ張ってくる。

 何事かと、彼女の方を振り返った俺の目に映ったのは――


「が、ぁぅ、うぁ……あぅー」


 涙ぐんだ瞳で、俺の顔をまっすぐに見つめる……とても美しい少女。

 綺麗な銀色の瞳に、高い鼻、肉厚の唇、目元のセクシーな泣きぼくろ。

 初めて見る顔だけど、俺は彼女の事をよく知っている。

 このウェーブがかったふわふわの茶髪と、俺が知る限りではナンバーワンのダイナマイトボディを持つ女の子と言えば――


「フロン、お前……!!」


 今までずっと、顔を覆い隠していた仮面を取り、俺に姿を晒しているフロン。

 頬を真っ赤に染める程に恥ずかしいのか、さっきから忙しなくモジモジと身体を小刻みに揺らしている姿は――なんとも愛らしい。


「わ、わぁ……!? ビフロンスが、仮面を取るなんてっ!?」


「おおっ……儂程ではないが、お前も中々に美しい顔をしているではないか!」


 当然、ラウムとベリアルも驚いた反応を見せる。

 前に話を聞いた時は、親友のラウムでさえ一度も見た事が無いと言っていたフロンの素顔が晒されているのだから……当然の反応だ。


「でも、どうしていきなり……あっ!」


 その美しい素顔にすっかり見蕩れていた俺だが、ここでようやく気が付く。

 フロンの綺麗な顔、その右頬の隅に――魔神の紋章が刻まれている事に。


「もしかして、お前が仮面で顔を隠していたのは……その紋章が原因か?」


「がうぅっ!! がうーがうがううーん!!」


「そうですって。こんなものがある顔は醜いから、見られたくなかったって……冗談でしょビフロンス!? 君、こんなに綺麗なのに!!」


 通訳しながらツッコミを入れるラウムに全面同意だ。

 こんなに綺麗で可愛い彼女が、たかが紋章一つで醜くなるわけがない。


「そう言うな。魔神にとって、紋章の位置を知られる事は死活問題じゃからな。それを隠す意図もあったのじゃろう」


「……がう?」


「そうじゃなかったみたいだぞ」


 今の反応は流石に俺でも、なんて言ったのか分かるな。

 おい、こらベリアル。外れたからって、俺の髪を引っ張るなよ。


「紋章を見せてくれたって事は、もしかして……?」


「……がうっ」


 俺が訊ねると、フロンはコクリと頷いて……その右頬を俺に近付けてくる。

 それだけで、彼女が何を言おうとしている事は理解できた。


「ありがとう、フロン」


 そうと決まれば、もはやこれ以上何も話す必要は無い。

 俺はただ、彼女の望み通り――いや、違うな。


「さぁ、契約の時間だ!! フロン!!」


「がぅーっ!!」


 俺達の望み通りに行動するだけだ。

いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

フロンの素顔が明らかになる時を楽しみにしていてくださった方は是非、ブクマや評価などお願い致します!

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