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92話 だが断る

 レオアードの侵攻によって捕虜となったムルムル達との再会を果たした俺達は、彼女達の口から……驚愕の事実を聞かされた。

 ヴァルゴルを裏切った何者かの存在は、俺も予想していなかったわけじゃない。

 でも、それがまさか、ヴァルゴルに所属していた魔神の1柱――バティンであったとは、夢にも思っていなかった。


「お・の・れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! バティン!! 絶対に許せないかもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「うるさいよ、カイム。そんなに騒ぐと、広場にいるレオアード兵達に気付かれちゃうじゃんか」


 拳を硬く握り締め、かつての同胞の裏切りに怨嗟の声を荒らげるカイムを……ラウムがたしなめる。

 しかしカイムの怒りは、収まる事を知らない。


「だ、だって!! だってアイツがボクちゃん達を裏切ったせいで!! みんな、みんながこんな酷い目に――!!」


「憤る気持ちは私にも分かります。しかしカイム、今はバティンに構うよりも……ヴァルゴルの民達の安全を確保する事が最優先です」


「うっ……!! うぅぅぅぅぅっ!!」


「ああっ!! 友よ!! 怠惰でありながらも情深き友よ!! 今はこの胸を使うといい!! さぁ!!」


 ムルムルに諫められたカイムは、その横のアロケルの胸の中に飛び込み……溢れ出る涙を懸命に堪えようとしている。

 やはりまだ、感情の整理が付けられないようだ。


「ムルムルよ。昔に比べて、お前も大人になったものじゃな」


「ベリアル。一国を治める立場になれば、自然とそうなるものですよ」


 ムルムルはベリアルの言葉に答えながら、傍らで嗚咽を漏らすボティの背中を優しく摩ってあげている。


「ぎょぇっ、ぎょぇぎょぇっ……! ベリアル様があんな姿にぃ、もう駄目なのだわ! もはや誰も頼れないのだわぁ!!」


「……失礼じゃのぅ」


 ボティはボティで、こちらの味方にベリアルがいると聞いた時には大喜びしていたのだが……今の姿がぬいぐるみであると知るやいなや、この有様だ。

 まぁ、本来の姿からの変貌ぶりを見れば、気持ちは分からないでもない。


「まぁよい。それよりも、これからどうする? 儂としては、このままハルファス達と合流し……ユーディリアまで撤退するのが定石じゃと思うが」


 しかし、いつまでもこうして一喜一憂している状況ではない。

 その事も踏まえて、ベリアルはこれからの方針について意見を述べる。


「ええ。ハルファスやビフロンスだけでは、エリゴスの相手は少々厳しいかもしれません。すぐに応援に向かわなくては」


「ぎょぇぇぇ……でも、でも! こんな拘束があったのではまともに動けないのだわ!! もうボティ達は置いていかれる運命なのだわ!!」


 鎖によって拘束をされていたエルフ達はラウムの魔神装具で解放に成功したが、バラムの魔力による拘束を施されているムルムル達は未だに両手両足を拘束されているままだ。

 確かにこの状態では、撤退の際に苦心する事になるだろう。


「置いていくわけがないだろ。ちゃんと全員連れて行くさ」


「ほ、本当に……? だけど、とても信じられないのだわ!!」


 俺は懸命にボティを説得しようとするが、彼女のネガティブも相当な筋金入りのようで……懐疑的な態度は少しも覆らない。


「ぬぅ。バラムの奴め、脳筋のあやつが拘束の魔術を覚えておるとは……時の流れというのは驚くべきものじゃな」


「お前でも、どうにかできないのか?」


「無理じゃな。せめてもう少し魔力が戻れば可能性があるが……その為にはまず、そこのお前達が全員ミコトと契約を交わさねばならん」


 同じ支配者クラスの魔神であるベリアルなら、と思ったけど、やはり今のベリアルだと難しいか。

 そして、彼女の力を少しずつ取り戻していくには……俺が今よりも多くの魔神と、契約を交わす必要があるわけで。


「……てなわけで、カイム、ムルムル、ボティス、アロケル。君達、俺と契約を交わしてみるのは……どうだろう?」


 正直、こんな流れで契約を持ちかけるのは卑怯に思えるが……状況が状況なので、一応念の為に訊ねてみる。

 まぁ、既になんとなく……答えは分かっているんだけど。


「盟友との再契約! いいだろう、是非とも――!!」


「……申し訳ありませんが、お断りします」


「ぎょえええええええええええええっ!?」


「契約なんて面倒かもぉ……」


「うん、やっぱり」


 俺の提案に対し、真っ先に賛成の意思を示そうとするアロケルの言葉を、頭を下げながら遮るムルムル。

 そして、そんなムルムルの発言に驚きを隠せないであろうボティと、相変わらず面倒そうにゴネるカイム……と。

 

「なぜだ、友よ! なぜ、盟友と繋がりを拒む!?」


「助けて貰っておいて、不躾である事は重々承知しています。しかし、中立を謳う我々がソロモン王と契約し、彼の配下となる事を認めるわけにはいきません」


 ソロモンの指輪による契約は、契約者と魔神の間に絶対服従の関係を生む。

 そうなれば、いくら争い事を避けようとしても……契約者である俺が命じただけで、彼女達は戦場へと繰り出さなければならなくなるわけだ。

 ムルムルは、その事を危惧しているのだろう。


「今回は我々自身が侵攻を受けている以上、自衛の為に武器を取りましょう。しかし、この戦いの後もソロモン王の配下――つまりは、ユーディリアの支配下に置かれるわけにはいかないのです」


「……何それ? そんな意地を張っている状況じゃないと思うけど?」


「意地ではありません。これは、我々の信念なのですよ」


 そんなムルムルの主張に対し、ムッとした表情を見せるラウム。

 しかしそれでも、ムルムルは己の主張を曲げようとはしない。


「だからさぁ、その信念を貫いたせいで犠牲が増えちゃったら意味が……」


 助けて貰った事は感謝するが、信用はできない。

 ラウムからしてみれば、危険を冒してまで助けに来た相手に噛み付かれたようなもので……気分が良くないのはよく分かる。


「もういいよ、ラウム。ムルムルの主張は、別に間違っちゃいない」


 だけど俺は、ムルムルの言葉を素直に受け入れる事にした。

 というよりは、最初からそのつもりだったと言うべきかな。

いつもご覧頂いたり、ブクマ登録などして頂いてありがとうございます。

状況わきまえずに意地を張るような頑固者美少女が、なんだかんだで主人公の事がしゅきしゅきになって契約を望むんだけども、前の一件から中々契約の話を持ち出せずに悶々としてしまう展開がお好きだという方は是非、ブクマやポイント評価をお願いします。

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