0話 魔神の王と契約ハーレム
思い返せば、俺の人生は本当にロクでもなかったと思う。
自分には何か隠された特別な力がある筈だと、根拠の無い自信に満ち溢れていたガキの頃から……現実を思い知る年齢の頃まで。
何度も何度も、挫折を繰り返してきた。
だけど俺は折れなかった。
女の子に告白してフラれても。
ただ席に座っているだけで、周囲から陰口を叩かれる日々を過ごしながらも。
嫌われ、避けられ、蔑まれても。
俺はただ、信じ続けた。
いつかきっと、俺の人生は好転する。
俺の思い描く、ささやかな夢を叶えられる日がやってくる筈だと。
根拠の無い自信はやがて、俺の信念へと変わり――そして。
「……とうとう、こんなところまで来ちまったか」
「はぁぁぁぁぁぁっ!! 死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
「死ねないよ、俺は」
記憶に蓋をしていた悲しい過去を思い返しながら、俺は差し迫る剣の刃を左手で受け止める。
ガキィンッと、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえるが……俺は鎧を着込んでなどはいない。
ただ単純に、俺の体の強度が鋼よりも硬くなっているだけの話だ。
「昔なら安い命だけど、今の俺には……守るべき女の子達が、沢山いるからな」
次から次へと、性懲りもなく振り下ろされる剣撃の嵐。雨のように降り注ぐ大量の矢。
俺の周囲を取り囲む、数百、数千にも及ぶ兵士達は飽きる事なく何度も何度も、ダメージの通らない攻撃を繰り返すばかり。
「しょうがないか……ゴエティア!」
このままでは埒が明かないので、俺は硬化の力を持つ魔神を【外し】て、今度は重力を操る魔神を【憑依】する。
そして、ただ軽く。
能力を発動して、片手を振るうだけで……全ては終わる。
「悪いけど、女の子との待ち合わせに遅れるわけにはいかないんだ」
上から下へと流れていた重力が、突然右から左へ。
更には左から右へと流れを変えた事で、俺を取り囲んでいた兵士達の大群は、綺麗に真っ二つに裂けるようにして――吹き飛んでいく。
あまり痛い目には遭わせたくは無かったけど、仕方ないか。
「クローズ、してから……もう一回、オープン」
次に【憑依】するのは、千里眼の力を持つ魔神。
そうして、先程無理やり開かせた道の遥か先に――彼女がいる事を確認する。
「お、いたいた」
それが済んだ後はテレパシーの力を持つ魔神を【憑依】して、少し離れた所で別行動を取っている彼女達に呼びかける。
「それじゃあこれから、最後の魔神に会ってくる。頑張って口説いてみせるけど、お前達は邪魔しないで見守っていて……欲しいなーって」
恐る恐る、俺は彼女達に了承を貰おうとする。
しかし、総勢71柱にも及ぶ彼女達への釘差しは……そう簡単にもいかず。
(むふぅー!! 頑張って、最後の1柱も攻略しちゃいましょう!!)
(はぁっ!? アンタ一人で行かせるわけないでしょっ!!)
(ダーリン!! どうして私だけで満足してくださらないんですかぁっ!?)
(あやややや、このような一大イベントを見せてくださらないとは!! なんと焦らし上手なのでしょうか!! 正直、辛抱堪りません!!)
(むぅんっ!! 吾は勇士ならば大丈夫だと信じているぞ!!)
(うぇひひひひひっ、あの女を無事に攻略できましたら、是非ともワタクシの力で美しくして差し上げましてよ!!)
(アナタ様、くれぐれもお気を付けて。相手は強大な力を持っていますから)
(まぁ、どうとでもなれって感じかもぉ。ぶっちゃけ、めんどーい)
(ああっ、どうせわたしなんて役に立たないのだわ!! 立てないのだわ!!)
(妾の力が必要無いとでも言いたいの? ふふっ、殺されたいのかしら)
チャットアプリのグループ会話のように、矢継ぎ早に送られてくる少女達の声。
うん。やっぱり、71柱もいれば……こうなっちゃうよね。
「今から全員に納得して貰えるように説得するか? でも、それにはかなり時間が掛かるだろうし……」
「……騒ぎたい連中は、別に騒がせておっても構わんじゃろう」
どうしたものかと、俺が頭を抱えていると……不意に背後から声を掛けられる。
「ん? おお、なんだ。やっぱりお前も来てたのか」
そこにいたのは、俺のよく知る少女だった。
かつて、何の力も持たず……根拠の無い自信だけで夢を追い続けていた俺に、夢を叶える為の力、道筋、そして――希望を与えてくれた少女。
「フフフ。お前の長き戦いの終焉を、見届けたいと思ってのぅ」
「……アイツは、一人で来て欲しいって言ってたんだけど」
「そうか。ならば、こうすればよいじゃろう」
そう言って、彼女はくるりとその場で一回転し――その姿を変えていく。
それは懐かしいながらも、俺の心に今もなお深く刻まれている姿で。
「そういや、俺とお前が最初に出会ったのは、その姿の時だったな」
「うむ。愛くるしいじゃろう?」
俺と同じくらいの身長から、その十分の一程のサイズへと変わった彼女を……俺は抱き上げる。
そしてそのまま俺の頭の上にまで運び、慣れ親しんだ位置へと乗せる。
「こうしていると、思い出すよ。あの日の事を」
「お前がまだ、何もできない馬鹿者だった時じゃな」
彼女を頭に乗せた俺は、最後の1柱が待つ場所へと向かって歩き始める。
一歩一歩。歩みを進めながら、俺はこれまでに歩んできた足跡を思い返す。
「そう言われると耳が痛いな」
「フフフ。それにお前は、いきなり儂の事を激しく、乱暴に……」
まだ、道は少し長い。
あの場所へと……俺の夢の終着点へと辿り着くまでの、僅かな間。
「ああ、そうだ。あれは確か――」
俺の頭上で笑う彼女と、懐かしい過去話を振り返ってみるのも悪くないだろう。
この度は本シリーズに目を通して頂いてありがとうございます。
総勢72柱にも及ぶ美少女達とのハーレムの完成はまだ先になるのですが、興味のある方は是非とも次回以降をご覧くださいませ。
※2019/9/22
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