二人
待ち合わせ
# 待ち合わせ
「いらっしゃいませ」
[あら、お客様、…ちょっとセクシーだわ…私
のタイプ]
[あっ待ち合わせだねー羨ましいーいいなー]
[女の子は…?…あらまだ若いじゃない…
かわいい]
# 誘い出す
変わった娘見つけたんだ
俺、変わったもの好きだからさぁ
その娘は、いつも俺の名前をとても楽しそうに
よんで、にこにこしてるんだ
俺のことも、いつも生き生きしてて楽しそうで
すねって言うんだよ
うん。そうだよ。
最近毎日が楽しくなって来たよ
「恋してるからね!」って言ったら、可笑しそ
うにコロコロ笑うんだ
誘ってみた
小さいメモを隙を見て渡したんだ
(あっ居た!…居たか…)
# 車
「居たか…」「えっ…」 「はは…居るよね…や
っぱり…」
「行こうか…車停めてるんだ」
[あら、行っちゃった…いいわねーこれからど
こ行くのかしら…]
「ほらママも行かなくちゃ、お店の時間だよ」
[あら、そうね…][行かなくちゃ…]
# 素敵な車
外に出ると外車が止まって居た
「乗りなよ」
車に詳しくない私でも、カッコいいなと思える
車だ
乗り込むと単純に素敵な気分になった
「俺に似合わない車だろ
「社長の車なんだ、今、営業に使ってる」
混み合った道をしばらく慎重に運転して行くと
、少し広い道に出た
運転して居る横顔が、楽しそうだ
# 手
運転が上手い
それともいい車のせいか
「滑るようですね」と言うと
「嬉しい事言ってくれるね」と言った
突然、片手を差し出して来た
「手!」
手を出すと、さっと繋いで来た
そして、五本の指を広げてしっかり繋ぎ直した
特に感情を入れず、明るく軽く聞いてみた
「いつもこうするんですか?」
「したくない方が多いね」
楽しそうに笑っている
# 黄昏の街を
手は自然に繋がれていた
身体の一部のように運転してる姿がいつもより
益々魅力的だった
こんな車に乗ってたら、他の車から意地悪され
ませんか?
いい女を横に乗せてたら、そんな事もあるかも
な…
えっ 一瞬、どっちかなと思って、横顔を覗き込
んだら、今日は大丈夫だ…こちらを見てクスッ
と笑った
ははっと笑いながら私のショートの頭をなぜた
そんな中も、車は黄昏の街を流れるように走っ
ていった
# まだあなたの小指しか
一週間くらい前、仕事の関係で一緒になり、運
転する車に同乗させて頂いた
別れ際、車の外に出てお礼を言うと、サイドの
窓を開け、また会えるかなと言った
よくある、軽い挨拶かお世辞かなとも思えて
忘れないでくださいネと、少し冗談混じりで言
うと、空かさず小指を出して約束!と、笑いな
がら言った
私は「はい」と言って軽く小指を合わせた
側から見ると恋人同士の別れの場面に見えたと
思う
# 会話
何か趣味とかあるんですか?
そうだなぁ、たまに釣りに行くかな
釣った魚は持って帰るんですか?
離してくるよ
色が白くてさ うん
目が大きくて はい
小さな唇でほっぺがぷくっとした可愛い魚がい
たら、連れて帰るけど…はは…
とても楽しそうに笑っている
# 瞳
そんなに見るなよ…穴が空いちゃうぜ
さっきから、大きな瞳で横顔をじっとみつめら
れて、嬉しいような、困ったような気持ちだ
彼女は、何かを確かめるように、そして何
かを決心するように、見つめているようだった
悪い気はしないが、少し困る
ほんとは俺が君をずっと見ていたいんだよ
# 黄昏の中を
俺 結婚してるんだ
曇りのない 素直な声だった
降りるか…こちらを見ずに、横顔で言った
途端に寂しい気持ちになった
でも 明るくちょっと可愛く何でもなさを装って
降りないと小さく言った
そうか 何か少しだけ決心したように、すっと辺
りをみて、軽く振り切るように、車のスピード
をあげた
# コーヒー
都心を少し離れ、辺りが黄昏から、蒼く変わる
頃、郊外のレストランに入った
店内は家族連れや、友人同士、カップルで明る
く賑わっていた
二人がけのテーブルに通され、私はソファ席に
座った
男は一人がけの椅子に座るなり、上着を脱ぎ、
渡して来た
たたんで横に置こうとすると、羽織ってと言う
シワになるから羽織っててくれと笑う
冷房も効き過ぎているので、素直に羽織ったら
、不思議と落ち着き、まだ知らない何かに、すっぽり
包まれた
抱かれているようです
周りに聞かれないように 秘密の言葉を
そっと言った
彼の上着を肩に、ワイシャツ姿の彼と、
出来立ての恋人同士のように
コーヒーを飲んだ
# ライト
車はやがて都心を離れ、高台に向かっていた
カーブをいくつか回る頃、辺りは暗くなり、街
の灯が見えた
カーブに入ると、車のライトが、ガードレール
の向こうの木々の緑を浮かび上がらせていた
男は、わずかに空いている場所に車を停め、ガ
ードレールの方に歩いていった
女も操り人形の様に後に続いた
カーブのガードレールに腰をしっかりつけ、男
は手を広げ、女を抱き寄せた
女は抱かれるまま、その全身を預けた
車が数台 スピードを落としながら通り過ぎて行
く
その度に、暗闇に重なる二人が、糸のように そ
ぼ降る雨の中、紅く黄色く鮮やかに映し出され
た
# ペンダント
高台から降りて来ると街は前より静かになって
いた
「涙のしずくだな…」
私の胸元のオニキスのペンダントトップを見て
一郎は言った
「今度ハワイからお土産買って来るよ」
「ハワイに行くんですか?」
「仕事でね 一緒に行く?」
「あ…いえ…そういうのは…」
(…そういうのは嫌い…)
「はは…」
また私のショートの頭を大きな手で撫でた
# 会話
私、自分が、何か、欠けている気がするんです
それが、何か、自分ではわからないんです
「家に帰って…」 はい
「戸棚を開けて…」 はい
「茶碗を出して…」 はい…?
「一つ一つ調べてみな…」
「何か欠けているかもしれないよ」
一郎は、笑ってスピードを少し上げた
# 誘う
「あなたとお風呂に入りたい」
運転をしながら、男は突然言った
相変わらず、悪びれた感じもなく、面白そうに
笑っている
そんな言葉は、想像もしなかったので、思わず
笑ってしまい、車の中は、急に明るくなった
機敏に運転しながら、男は一瞬真剣な目をこっ
ちに向け、すぐまた甘えるような目で見てきた
運転の途中、お願いしますよというような視線
を何度かこっちに向け、後は私の答えを待つよ
うに、真っ直ぐ前を見て、大人の横顔を、私に
見せた
# 車
別れ際、男は笑って言った
「俺も子供じゃないからさぁ
学生じゃないから」
嫌な感じはしなかった
その目は、いたずらっぽくて、好きだった
# 夜
家の近くで車は止まり、肩を抱かれた
自然と顔が近づき、前髪が触れ合った
数秒の事だった
反射的に、車の後ろを振り返った私に、男は何
も言わずただ笑って、目で別れを告げた
車は直ぐ走り去り、私は、夢から戻って来たよ
うだった
# 水
その水は、意外なほど冷たかった
爽やかに喉をぬらしていった
男はミネラルウオーターを口に含み、
飲ませてくれた
水