第四話「今日から、わたしがぎるどますたあ……って何?」①
望みもしない修羅場……チンピラに騙されて、身ぐるみ剥がされて売り飛ばされる。
さっきは、そうなりかねない場面だった……ちょっとした乙女のピンチって奴だった。
「あんなの信じたわたしがバカだったわ……」
でもまぁ……あの眼鏡の優男君が助けに来てくれたとか、ちょっと嬉しかったねー。
見て見ないフリをするような薄情な奴って思ったけど、ちゃんと見てて危ない所に駆けつけるとか……本気でカッコイイとか思っちゃった!
邪魔にならないように、コソッと逃げちゃったけど、影から様子を見てたら、何もしないで悪人が勝手に全員ひれ伏して終わり……なんか、魔法でも見てるみたいだった。
出来れば、眼鏡の優男さんに直接お礼をしたかったけど……なんか恥ずかしくなっちゃって、逃げちゃった。
……いつか再会できたら、お礼を言おうと思う。
と言うか、名前とか色々知りたいって思った……ううっ、気になる気になる気になるよーっ!
どんな声なんだろうかとか、好きな食べ物とか……背の低い女の子はどう思うとか……。
……わたしだって、乙女の端くれですから……そう言うのって気になるのです。
とまぁ……そんなトラブルもあったんだけど。
あのあと、駆けつけてくれた警務隊の衛士達に道を聞いたら、すんなり冒険者ギルドの道を教えてもらえた。
かくして無事、ここグランドリアの冒険者ギルドのギルドマスターを務めるアレクセイ氏との面会は果たせた。
なんか、受付で名乗りをあげて、身分証明として、父上のくれた皇室の宝刀「七ツ星の短剣」を見せたら、大騒ぎになったけど……。
アレクセイ氏はひとしきりわたしの事を懐かしみ、父上からの手紙をじっくりと読むと、その嫌が応にでも目を引く禿頭を撫で付けながら厳かに言葉を告げた。
「事情は解りました……大変でしたな! アイリュシア皇女殿下……しかし、継承権はともかく名ばかりの要塞司令官と言うのは解せませんな……これはどう言う事情からなのでしょう?」
「継承権は……父上……いえ陛下のゴリ押しだったみたいだけど、議会とかの承認を得るために、色々あったんじゃないかな……やっぱり、問題有るんですか?」
「問題大いにありですね……これは……最悪、戦争の火種になります。ここはかなり複雑な情勢下ですからな……出来れば、要塞司令官の件はお断りしていただきたいです。……実際、要塞の様子は見られたのですよね? あれはただの廃城です……辞退されても、何ら問題はないでしょう?」
「でも! そうなるとわたし……ここの要塞司令官って名目でここまで来たんですよ? 肩書もない知り合いも部下も何もない……それじゃ、どうしょうもないじゃないですか!」
思わず、声を荒げてしまった……。
今更、皇城に戻るのも嫌だった……今のわたしに必要なのは、兄様達に対抗するだけの力……それは理解できていた。
「ふむ……では、皇女殿下はいかが致したいのですかな? 例えば、名を変えて、髪を染めてしまって、この街の住民に紛れ込めば、ひっそりと生きていくことも不可能じゃありません……私にもその程度のお手伝いは出来ますぞ?」
アレクセイさんの提案は魅力的だった……静かに名も無き町娘として生きる……それもひとつの幸せかもしれない。
けど……それが許されるだろうか? かえって危険なような気もするし、わたしだって皇族の端くれ……これまでは病弱だったから何も出来ないと決めつけていたけど……。
もうそうじゃない……出来るのに何もしないなんて選択は、皇族としてあり得なかった。
「……正直、兄様達が何をするか解らないんですよね……。わたしはもう守護者の力に目覚めてしまった……兄様達は自分の安心を得るために、あらゆる手段を使って私を消そうとするはずです。……けど、わたしも大人しく消されるつもりなんて無いですっ!」
「なるほど、良くお解りで……さすがですな。ならば、断固戦うしかありませんな……まったく、皇女殿下もお人が悪い……とっくに答えが出ているのではないですか」
「けど、わたしには兄様達と戦えるだけの後ろ盾も配下も領地も何もないんですよ……それで戦いになるのですか?」
「はっはっは……それならばいっそ、我が冒険者ギルドのギルドマスターになってしまうのはどうでしょうか? そうすれば、如何に帝国と言えど殿下に手出しは難しくなりますからな」
そう言って、アレクセイ氏は満面の笑みを浮かべる。
「ふえっ! わ、わたしに……ですか? と言うか、ギルドマスターって何なんですか?」
「まぁ、一言で言えば冒険者を取り仕切る総元締めと言ったところですな……実は私もそろそろ引退を考えていて、ちょうど、後任を探しておりましてな。陛下からも殿下のことをよろしくと頼まれてしまっているので、丁度いいかと思った次第ですよ……殿下が肉親と戦いたくないなどとおっしゃるようなら、無理強い出来ないと思っていましたが……そんな事はなかった……さすが血は争えませんな」
「あ、あの……わたし、何も解らないですよ……迷子にはなるし、お買い物も出来ないし……そもそも、継承権だって、そんな物欲しくなかったし……」
「はっはっは……何をおっしゃいます……たった一人で、皇城を飛び出す決断をして、ここまで辿り着けたではないですか。なぁに、ギルドマスターと言っても、細かいことは我が義理の息子がおりますので、奴を使ってやってください。現状、我がギルドの実務の大半を奴が取り仕切っておりますのでな……。皇女殿下は、奴の助言に従い最終決定を下すことと、いざという時の備えとなっていれば、十分……それに皇女殿下も皇太子達と戦うのであれば、いずれ皇帝を目指すのでしょう? ならば、地盤作りにはまさに最適ではないですか」
良く解らないけど、要するにギルドマスターってのは半分お飾りで、実務を取り仕切ってる人達がいるのか……。
そんな人がいるなら、わたしみたいな何も解らないのが元締めになっても問題ないのかな。
それに、確かにわたしなら、普通の人が手に負えないようなドラゴンとか相手にしたって負けないと思う。
いざと言うときの備え……皆を守るだけの力を持つもの……確かにそれならわたしにだって、務まるかもしれない。
実際に、モンスターと戦ったりとかしてないから良く解らないけど……。
けど、冒険者ギルドって国を跨いで活動する一大国際組織じゃなかったっけ?
そんな帝国の皇女なんかが、ギルドマスターなんかになったら、大問題になるんじゃないだろうか。
でも、冒険者ってのも面白そうだよね……。
冒険者から身を立てて、英雄になるとかそんな物語だってあったし……。
このアレクセイさんだって、元々は冒険者だったって話だし。
「ア、アレクセイさんは、わたしに務まると思いますか?」
「ふむ……私は問題ないと判断しておりますが? 皇女殿下は頭も良いし、莫大な知識をお持ちだそうで……皇帝陛下も申しておられましたよ……アレに教えることなど何一つ無いと! なにより私のような赤の他人の忠言を素直に聞き入れてくれるような方だ……。陛下が病床に伏せてからも時々見舞いに行っていたのですが、何かと言うと殿下の事ばかり口にしていらっしゃいましたよ。親バカのたぐいかと思ってはいましたが、実際に会ってみて、確信しました。そうですな……では、ひとまず貴女の補佐を務めるサブマスターを紹介しましょう……エディ……もういいぞ! 入って来い!」
アレクセイ氏がそう言うと、扉が開かれメガネの青年が入ってくる。
わたしはその青年……いや少年に見覚えがあった……。
ついさっき、悪人に誘拐されかけていたわたしを助けてくれた優男さんだった。
ベタな展開ですが。
ヒロインと主人公の再会……。
ちなみに、基本……主人公視点とヒロイン視点で話は進みます。
どっちも主人公ですから、どっちがメインとか考えてません。