第三十話「帰るべき場所」
一瞬とも、果てしなく長いとも感じられる暗闇と落下感のあと。
急速に喧騒と明るさが戻ってくる。
目を開けると、眠る前と変わらぬ光景。
腕枕をして目を閉じたままのアイシアの寝顔と、心配そうにその手を握るソフィア。
ソフィアと目が合うと、たちまち涙目になり、疲れた顔のプロシアが反対側から覗き込んでくる。
一瞬混乱しつつ、アイシアに向き直るとその瞼がゆっくりと開けられる。
キョロキョロと周囲を伺い……その場の全員の注目を浴びていることに気付くと、真っ赤な顔になってボフッと布団を被ると、もぞもぞと抱きついてくる。
……思った以上に元気そうだった。
「……エドくん、お帰りなさい……気分はどうですか? アイシア様も元気そう……上手く行ったみたいですね!」
「ああ……コレが夢の続きって落ちじゃなきゃな。あれから……どのくらい経ったんだ?」
「ほんの一時間程度ですね……けど、驚きました。……まさか次元の狭間に飛ばされていたなんて……二人共、良く無事で……」
そう言って、感極まったらしいプロシアが飛び込んでくる……と言うより、ベッドにダイブして二人まとめて抱きしめられたと言うのが正しい!
「もぎゃーっ! な、何がぁっ! なんか降ってきたーっ! 動けねーっ!」
布団の中で俺にへばりついてたアイシアがカエルの潰れたような悲鳴をあげる。
「うぉおおっ! プ、プロシアストップッ! 嬉しいのはわかったから! アイシア様がお前の下敷きになってるんだって! せっかく無事に戻ってこれたのに殺す気かっ! うわっぷ! もごわぁっ!」
なお、俺は……と言うとプロシアのメガサイズの双丘に顔が埋まった!
……それはえも言われぬ柔らかさを伴い、俺の顔を覆い尽くし……息が……出来んっ!
ちょっ! これヤバい! まじ死ぬ! 圧殺とか冗談じゃないっ!
「ちょっ! プロシア! 何やってんだ! このバカッ! ソフィア! 外の奴らも呼んでこい! 総掛かりでプロシアを引っぺがすぞ!」
血相を変えた様子のリーザの俺達の救出を指示する声が、遠くの方で聞こえた気がした。
何と言うか……無事の帰還を祝うにしても……実に手荒い歓迎だった。
……うん、巨乳って凶器になるとか俺知らなかったよ。
とにかく……俺は無事、アイシアを連れ帰ることに成功した。
本人の話だと、あの場に居たのは、500年前の魔王戦争の張本人千年魔王と、その配下で、あの場所自体、何処かへ消え去ったと言われている魔王城だったのだと言う話だった。
……うーむ、胡散臭いし訳が判らん。
千年魔王とか、おとぎ話じゃなかったのか?
妙にゆるそうな奴だったし……。
それに、なんか変な銃を渡されたけど、アレ……どうなったんだろ?
そもそも、プロシアから聞いてた話と全然違って、どうなることかと思ってたけど。
あの連中は、少なくとも敵対する意思もなかったようだった。
けど、魔王様とやら……あのゆるさの中に、垣間見えた底の知れない闇……正直、あまり何度も出食わしたくない手合だった。
「……アイシア様も、今後は、我ら一同……あなた方、帝国の民と共に繁栄していきたいと考えておりますので、よろしくお頼み申し上げます」
そう言って、ランドロフィが深々と頭を下げると、その背後に連なる他のエルフたちも一斉に頭を下げる。
「ランドロフィ様もお元気で……ところで、シーリーちゃん、連れて行っちゃっていいの?」
「もちろん、我らとしても皇女殿下とのつながりが欲しいところなので、コヤツを御身の側仕えとして、お役に立ててください。シーリーよ……そう言う事なのでな。殿下への忠義に励むのだぞ……殿下は、我らエルフ族にとって、大恩ある方ゆえ、いざという時は、命を捨ててもお守りするのじゃぞ?」
「解りました! 皇女様には、神樹様に取り込まれてたのを救い出してもらったしね。まぁ、エドお兄ちゃんとも一緒だし、側仕え、全然おっけー! 皇女様もよろしくね!」
要するに、エルフ代表の側近って事なんだよなぁ……。
リーザもだけど、シーリーまで仕えさせるとは……アイシア様の忠臣も確実に増えていってるな。
まぁ、こいつらと言い俺達と言い真っ当とは言い難い連中ばっかりなんだがね。
……そんな事を思う。
「うふふ……こちらこそ、よろしくね!」
「よーっし! そう言う事なら、シーリー! 私はお前の先輩ってことになるから、お前は問答無用で私の言うことを聞く……要するに私の子分って訳だ!」
「ええっ! なんですかそれ! 確かにリーザさんは、私から見て、従姉妹のお姉さんですけど、子分扱いとか横暴です! 私はアイシア様とお兄ちゃんの命令以外聞く気ありませんから!」
「まぁまぁ、ふたりとも仲良くしてよね! と言うか、これからもよろしくね!」
俺をお兄ちゃん呼ばわりするやつが、また増えた……なんか、妹分がドンドン増えていってるぞ。
まぁ、今更一人くらい増えたって、構わんのだけどな。
スラムの100人近いガキども。
あいつらを食わせながら、アイシア様の覇権を手助けする。
うーむ、なんか面白くなってきたな。
色々間違った方向に進んでる帝国を、帝国に捨てられた民でもある俺達の手でまっとうな方向へ進めていく。
アイシアには、新しい時代の旗手として、皆を導く灯火になってもらう……。
いいな……それ! 命をかけたって割に合う仕事だ。
「よし! じゃあ、皆……グランドリアに帰るぞ!」
かくして、俺達は帰るべき場所……グランドリアへの帰途につくのだった。
ホントは、ここまでが第一部の予定だったり……。
ハンパなとこで、エター状態にしてた事にちょっと後悔中。(汗)
章立て、ちょっと変更します。
次回からは、三人称……別の人達主体で話が飛びます。(笑)




