表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/82

第二十九話「いつかどこかの邂逅」②

「美味しいです!」


 うん、私が好きだった皇室御用達の紅茶の味。

 けど、門外不出とされたこれがなんで、こんなところで? それに、私の知ってるのより、明らかに美味しい……なんで?


「そうか、そうか……確かその紅茶は、エーリカ姫がワシへの贈り物として、献上していったものと同じもののはずじゃ……なかなか良いものだったのでな……。我が城の一角に茶畑を作り、育てておるのじゃ……まさに、時代を超えた逸品と言うやつじゃな」


「ブラウン・ロゼ……ですよね? 古来から帝室御用達とされていた最高級品ですよ。……けど、一度原産地が大寒波で駄目になっちゃって、銘柄としては無くなってしまったんですよ」


「そうか……それは何とも寂しい話じゃのう……じゃが、それを何でお主は知っておるのだ?」


「何代か前の皇族が復活させたって話で、わたしも飲んだことあるんですよ。というか、私の愛用品! けど、これはそれよりも断然、美味しい!」


「なるほど……ワシの作った方が美味いと言われると少し照れるのう。こういう物は単純に原種を再生した程度では駄目なんじゃ……産地の気象条件やら育成条件にも、左右されるからのう……要するに一筋縄でいかないんじゃよ。じゃが、帝国関係者のお墨付きがもらえたのは、素直に喜んでおこうかの」


 そう言って、魔王様は優雅な仕草で一口飲むと、何とも幸せそうな顔をする。


「そうですね……わたしも何も考えずに、絶滅種を復活させて、大騒ぎ起こしちゃった事もありますし……」


「ふはは……なんじゃ、お主もエーリカ姫に負けず劣らずヤンチャなんじゃのう……。帝国の皇族と言うのは、そんなのばかりじゃな」


「あのっ! あの魔王様と言うことなら、色々教えてほしいんですけど!」


「何を聞きたいのじゃ? 答えられることと答えられんことは当然あるぞ? 歴史の闇に葬られたような事でも聞きたいのかのぅ……じゃが、それは相応の理由があるはずじゃぞ?」


 遠回しに釘を刺されてしまった。

 500年前に何があったのかとか……わたし達皇族とは何なのか?

 

 さっきの魔王様の言葉を思い出す。

 

『帝国の存続とその将来のために、作り上げ残していった人形』

 

 ……その言葉が真実ならば、わたし達は……人ならざるものの末裔……そう言う事になる。


「先程、お伺いしたくろがねと言う方と……その方の作り上げた人形については? ザカリテウス帝国初代皇帝ルエリアル様とは何者だったのです?」


「ああ、そうか……思わず、口にしてしまったが……それも葬られた歴史のひとつだったか。そうじゃな……まずは我が配下だった者、くろがねについて話そうか」


 魔王の使徒、クロとも呼ばれていたくろがねさんの昔話。

 

 それは、とても長い物語だった。

 

 謀略により、東西の緩衝地帯に出現した魔王城。

 魔王と戦うべく集った連合軍と魔王軍の戦い。

 

 そして、帝国最強のエーリカ姫と魔王軍のエース格くろがねの熾烈極まる戦い。

 

 勇者を名乗る強敵や、戦車や戦闘機を繰り出す軍勢、神々の眷属との幾多の死闘。

 

 それは……黒の節制と呼ばれる最強の戦士の物語だった。

  

「……多重次元存在……ですか?」


「そうじゃ。つまり、幾多の世界にまたがって存在し、火消しに励む……多重世界の秩序の番人と言ったところかな。……あやつは最終的にそんな存在……「使徒」となった。だからもう、あれはお主のいた世界の何処にも存在しないのじゃよ……もちろん、ワシのもとからもな」


 とても長い話を話し終えた魔王様は、寂しそうに話を締めくくる。

 

「そのくろがねさんが、エーリカ姫の最後の願いに応える形で、帝国の守護者としてルエリアル様を作り出したと?」


「まぁ、そう言う事になるな……あれは、いわばくろがねの劣化コピーのようなもんじゃったがな……。あれの能力と人を支配する力を兼ね揃えた強力な守護者。ワシらの戦いの煽りで滅びかけた帝国の最後の希望……それがお主の先祖なんじゃ……。しかし、お主の話だと身内同士でくだらん争いを始めているそうではないか……まったく、嘆かわしいのう……」


「な、なんかすみません……」


「気にするな……人とは得てしてそんなものじゃ。して、お主はこれからどうするつもりじゃ? お主の力は強大じゃ……使いよう次第で、魔王にも救世主にもなれる……。神の眷属ですら一蹴するほどの力……それで一体何を為す?」


 何を為す……か。

 何でも出来ると言われても、思いつかないなぁ……。

 

 世界を支配して、我こそ魔王なりーとかだって、きっと不可能じゃないんだろうけど。

 世界を支配なんて言ったら、それは一人で世界を支えるのと同義だ……そんなもん全力で辞退……だよねぇ……。

  

「……私は、世の中が平和になって、誰もが笑って暮らせる世界にしたいな。その上でわたしも人生を楽しみたい。美味しいものを食べて、色んな所に行って……色んな人にあって……。あ、お兄ちゃんと一緒がいいな。いつだって、どこだって……」


 それだけ言って、魔王様に向かって微笑んで見る。

 

 一瞬、呆然とするのだけど、次の瞬間、魔王様はお腹を抱えて、笑い出す。

 

「ううっ……お、おかしいですか? 言っときますけど、私は世界を支配するとか、興味ないです。そんな世界中の人の面倒見るとか面倒くさいのやってられないです」


「ふははははっ! すまんな……うむ、お主はいいな。実に……面白い。なんじゃ、お主……我と気が合うのう。ワシもその気になれば、世界征服なんぞお手の物じゃが……そんなもんやってられんわい。それに、世界征服とは世界中の人々の命運を一手に引き受けるようなものじゃ……そこら辺、皆、解ってるようで解っとらんのじゃがな」


「ですよねーっ! と言うか、魔王様……まさか、この世界にちょっかい出そうとか思ってないですよね? 今、私達の世界はとってもややこしいことになってるんで、出来ればこれ以上、ややこしくするとか止めてほしいんですが……」


「いや……ワシらが必要以上にあの世界に干渉しては、またつまらん厄災を運んでしまうからのう……。わしらは傍観者に徹するつもりじゃよ」


「ならいいんですけど……。ところで、わたし……いつまでこうしてればいいんですか?」


「ふむ、別にゆっくりしていっても構わんのじゃが、どうやら迎えも来たようじゃな。……お主らのとこには大した術者がおるのじゃのう……お主の身体と魂の繋がりを頼りに、迎えのものを魂だけの存在にして、我が居城まで送り込むとはな……実に興味深い」


 魔王様がそう言うと、隣に控えていたしろがねと呼ばれた少女が自分の身の丈ほどの長銃を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ