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第二十九話「いつかどこかの邂逅」①

 ……夢を見ていた。

 

 長い間……真っ暗な空間を漂っているような感覚。

 それは果てしなく長く続いているような……はたまた瞬きする間のような……。

 

 わたしは……そんな当て所もない漂流を続けていた。

 けど、あまり不安はない。

 

 もう一人のわたしも共にいたから。

 

 彼女は、言葉一つもかけてくれなかったけど。

 

 常にその存在が隣にいることは解った。

 大丈夫……こんな風に、悠久の時を過ごすのだって、わたしは平気だから。

 

 遠い記憶。

 見知らぬ風景。

 

 異国の地。

 ここは、置き去りにされてしまった忘れ物の集う場所。

 

 けど、どこか居心地も良くて……。

 もうずいぶん長いこと、ここにいるような気もしてくる……。


 けど、ちょっと暇だな……お腹は空かないけど、美味しいものが食べたい。

 ここに来る前にちょっと頑張りすぎちゃったらなぁ……。


 そんな事を考えていると、なんかやってられるかー! みたいな気になってきた。

 とりあえず、暴れて見るんだけど……体を動かしてるような感じが全然しない。


 どうなってるんだろう? もしかして……身体がない?

 今更に、その事に気づいて、さすがにちょっと焦ってくる……まさか、これが死後の世界とか?


 冗談じゃないっ!


 そんな風に暴れてたら、不意に地に足の着いたような感覚と共に五感の感覚が急激に戻ってくる。

 

 目を開けると、薄暗く天井の高い部屋の長いテーブルの椅子に座り込んでいる事に気付く。

 

「ふぁ……ここ……どこ?」


 思わず呟く……手のひらをぐーぱーやってみる……うん、ちゃんと身体がある。

 良かった……身体があって、動くってことは、わたしはまだ生きている。


 でも、ここはどこ?

 人の気配もしない……雰囲気的には何処かのお城のような?

 

 よく見ると、火の消えたロウソク立てが並んでいて、椅子がずらりと並んでいる。

 ああ、これってお城の食堂みたいな感じだ。

 

 うん、間違いない……。

 でも、皇城とはちょっと違う感じ……何処だろうここは?

 

 ……そこまで理解した所で、ほど近いの上座の席に誰かが座っていることに気付いた。

 

「……だ、誰?」


「ふむ……気がついたようじゃな……お主、顔を良く見せてみろ」


 見ると、紫の髪の巻き毛ツインテールの私より小さい子がちょこんと椅子に座っていた。

 とりあえず、顔を見せろと言われたのでじっと彼女の顔を見つめ返す。

 

「……なるほど、良い目をしておる……お主、名は?」


 静かな威厳のあふれる声。

 ひと目で分かる……これはただならぬ相手だと。

 

「ア、アイリュシア・ファロ・ザカリテウスと申します……貴女は何者ですか? わたし……何でこんなところへ?」


「ワシか? ワシは……そうじゃのう……千年魔王とも呼ばれていたが、サクラと言う名もあったな……。幾多の世界での幾多もの呼び名があるが、お主とワシは全くの赤の他人と言う訳ではない……いわば縁者といえるからのう。……好きに呼ぶが良い」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 

 千年魔王? まさか、まさか……伝説の魔王その人?!

 

 ……なんで、そんな人がわたしの前にいるのか……。

 

「……あの伝説の千年魔王……その人……なんですか?」


「如何にも……と言っても、あの世界にワシが顕現しておったのは、もう500年も前になるのかのう……もういい加減、忘れ去られた頃かもしれんな……しろがね、その辺どうなっとる?」


「はい、確かにそれくらいは経っているはずです。……それにしても、この者の顔……懐かしいですね……くろがねと実に良く似ております」


 ……いつの間に、そこにいたのか……白と青を基調にしたメイド服姿の銀髪の小さな女の子が、魔王様の隣に佇んでいた。

 

 あれ? この娘の顔……なんか見覚えがあるような。

 

「ああ、やはりお前もそう思うか? しっかり、くろがねの面影があるわい……あやつが帝国の存続とその将来のために、作り上げ残していった人形……あれが人と交わり、世代を重ねるうちにこうなったのやもしれんな……。実に興味深い……何ひとつ人と変わらぬ、子を為し、命を繋いでいく存在を作り上げると言っておったが……成功させたのじゃな。……あれもなかなかどうして、大したもんじゃなぁ」


「あの……何を言っているのでしょう? くろがねって……わたしは何でここにいるのでしょうか?」


「さてなぁ、一体、何があったのかは知らんが、お主……魂だけが、次元の狭間なんぞに飛ばされておったからのう……。一度、直接顔でも見たいと思ってはおったからな……。ちょうどいいとばかりに、お主をワシのもとに召喚したのじゃよ」


「しょ、召喚って? 次元の狭間って……どう言うこと? わたし、疲れたから寝ちゃっただけだったのに……」


「ふむ……お主、神の眷属か何かと戦わんかったか?」


「あ、あります……その……神樹様……エルフや森の眷属達の造物主とかそんな風に呼ばれていた巨大樹と……」


「ほほぅ……そりゃ、ワシも知っとるぞ? 確か、前にエーリカ姫とくろがねが打ち倒したはずなんじゃが……復活でも遂げたのかのう……。まったく、奴らも詰めが甘いのぅ……未来を生きる者達へ厄介事を押し付けるとはな……」


「あ、あの……わたし……どうなってしまったのです?」


「安心せい、お主は特別製じゃからな……神樹程度の相手にどうこう出来るはずもない。お主の本体は……今頃はぐっすり眠っておるよ……今のお主は夢を見ておるようなものじゃ」


「夢……? でも、今のわたし……ちゃんと感覚がありますよ? ここまでリアルな夢なんて、ありえません」


「そりゃ、ワシが仮初の義体を用意したからな。実際、危うい状態であったのも事実なんじゃぞ? あのまま放っておいたら、体感で数百年の時を過ごす羽目になっていたであろうな……。そうなれば、流石に正気なんぞ、とても保てんぞ? お主も退屈しておったのだろう……我が召喚にわらをもすがるような調子であっさり、すっ飛んできよったぞ。まぁ、時間はいくらでもある……茶でも付き合えっていけ」


「は、はわわ……いくらなんでも数百年もあんなフワフワが続くなんて……。けど、仮初の義体って……何なんです?」


「お主、全然解っとらんな……要はお主は魂だけを抜かれて、次元の狭間へ迷い込んでおったのじゃよ……それをワシが拾い上げて、仮初の身体に宿らせた……感謝くらいして欲しいものじゃ」


「そ、そうなんですか! ありがとうございます……でも、仮初の身体って……全然違和感ないし、この胸元のほくろだって……」


 そう言って、服の隙間から胸元のほくろを見る。

 ……隣のしろがねさんが、無言でその様子を見つめていた。

 

 はしたないですよ……そう言われた気がして、慌てて取り繕う。


「そうじゃな……その義体を作り上げておるのは、お主自身じゃからな……。ワシは軽く手伝ってやっただけじゃ……元々お主自身、自分の身体を作り変える程度のことはやってのけておるのじゃぞ? ……しろがね、まずは茶と茶菓子でも用意致せ」


 魔王様がそう言うと、どこからともなくティーセットが乗ったお盆がしろがねさんの手に現れる。

 丁寧な手付きで、お茶が淹れると、目の前に湯気の立つティーカップと砂糖壺が丁寧な手つきで置かれる。

 

 どうしようかと、躊躇っていると、魔王様が優雅な仕草で紅茶を飲むと、微笑む。

 傍らに立つ、しろがねさんを見やると、どうぞと言う仕草で促される。

 

 一口飲むと……普通に美味しい!

 沸き立つ香りと上品でコクの有る深い味……。

 

 この味にわたしは覚えがあった。

長らく放置状態でしたが。

せっかくなので、再開……投稿ペースは控えめですけど。


何気に、最近のなろうのヒット作同様、追放モノでもあるので、便乗してやれって事で再開してみました。(笑)

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