第二十八話「凱旋、戦いのあとで」②
「……問題はないと思うのですが……膨大な魔力を取り込まれたようなので、それがどのような影響が出るかは……。普通は魔力器官の上限を超えるような魔力を取り込むと命取りになるのですが……この方はそうでもないようで……正直、人間のことは解りかねてしまいますので、私に出来ることは何もありません」
アイシアの容態を見ていたエルフの薬師が困惑しつつ、申し訳なさそうに首を振る。
「まぁ、そうだろうな……カティ……お前はどう見ている?」
「……うーん、身体の方は問題ないと言うのは同意見なんですけどね。まる二日も目を覚まさないとなると……やはり、ただ事じゃないと思いますよ……やっぱり。……私もこれ以上は何とも言えません。プロシア様辺りなら、もう少し解るかもしれませんけど……」
顔色自体は悪くないし、呼吸も落ち着いている。
脈も正常で、苦しそうな様子もない……普通に寝ているようにしか見えないのだけど。
一向に目を覚ます様子がない。
とりあえず、カティやエルフの薬師の手には負えないらしい。
頼りになりそうだったシュタイナは、大陸中の魔族にアイシアの事を伝えてくると言い出して、一足先に西方へ向かってしまった。
シュタイナが言うには、神樹から奪い取り込んだ魔力の最適化が行われているとかで、しばらくしたら目を覚ますだろうから、心配いらないと言っていたが……。
この状態では、迂闊に動かすわけに行かず、完全に足止め状態。
まさに手をこまねいている状態だと言えた。
そんな風に途方にくれていると、どうやらギルドの送った増援が到着したらしく、外が騒々しくなり、扉が開き見知った顔が顔を見せた。
「失礼します! クロウ以下、5名! 増援として参りました! それと約一名……同行者がおります」
シロウの兄貴、クロウ……Bクラスの腕利き孤児冒険者だ。
メンバーは、このハーフエルフの弓師クロウ、流れの剣士のジーナ姉さん、魔術師のラトリフ、教会組の聖術師ラナと聖騎士ソダックの5人。
なかなかの連中を差し向けてくれたらしい……俺から見ると全員年上なんだが、クロウなんかは良い兄貴分でもあった。
「……お疲れ! クロウ達が来るとは思わなかった! それに昨日の今日でもう到着とはえらく早いな……かなり無理したんじゃないのか?」
「……実は、増援要請の連絡を受けるより早く、出立しててなぁ……ちと訳ありでな」
何とも言いにくそうな感じで、外を見やるクロウ。
その視線を追っていくと……メイド服に戻ったソフィアが大柄な女に抱きつかれているところだった。
「ソフィアちゃん! なにこれっ! 可愛すぎるわぁっ!」
「……プ、プロシア様っ! 解りましたっ! 解りましたから、放してください! 私はおっぱいで圧死したくないので! だ、誰かぁっ! 助けてーっ!」
ソフィアの悲鳴……お相手はプロシア様だった。
ちょっと待て……なぜ、貴女がここにいる?
……クロウをジッと睨みつける。
「……お、俺は悪くないぞ! プロシア様がアイシア様をエルフから解放すべく、自ら話し合いに出向くと言い出したんだ……俺達は護衛として、随伴……と言う訳だ」
「フレドリック卿は……?」
「ああ、伝言を預かってるよ……読みあげるぞ! 『エド、すまん……止められなかった……迷惑かけるだろうが、よろしく頼む』」
フレドリック卿……真面目なんだけど、プロシア様を御しえているかと言えば正直疑問だった。
けれども、その伝言にはなんとも言えない苦渋が込められているようでもあった。
「ま、まぁ……フレドリック卿も色々頑張ってたんだ……察してあげてくれ」
クロウの言うとおり、問題なのは、どう見てもプロシア様……。
留守役の代表を頼んでいたのに、この始末……どうしてくれよう。
独断専行もいいトコなのだが、プロシア様は思い立ったが吉日の人。
有言実行、やると言ったら必ずやる。
皆の不満を受け止める形で、留守番代表として自ら話し合いに出向く……プロシアなら、そう考えるか……。
そうだよな……それがプロシア様だもんな。
フレドリック卿……最近、髪の毛薄くなってきてるのは、きっと気のせいじゃない。
貴方は十分やってくれたんだ……。
「エド? 大丈夫か?」
「あ……ああ、フレドリック卿の苦労を慮っていた……クロウさんもご苦労様……道中、大変だったろう?」
「まぁ、ジーナやラナがいたからな……俺らは逃げた! アレは天国と地獄が同居している……そういう物だからな……解るだろ?」
そう言って、遠い目をするクロウ。
色々大変だったらしい……露出癖&抱き付き癖があって、大の男を三人くらいまとめて担げるようなパワフルな方と行動を共にしていると、色々と大変なのだ……色々と!
とりあえず、クロウの肩をポンと叩く。
でも、来てもらったのは良いけど……エルフとの交渉は終わって、後はもう帰るだけだから、別にやってもらう事もないんだがなぁ……。
完全に無駄足なんだが……来ちゃったからには、立場上労いの言葉くらいはかけないといけない。
とりあえず、アイシアを寝かせているランドロフィの家から外に出ると……。
ソフィアの身代わりにでもなったのか、リッキーが祝福されていた。
……すでに落とされたらしく、抱きしめられながら、ぐったりと力なく振り回されている……。
「やぁ、プロシア! ご苦労っ! クロウから話は聞いた……皆を代表して、様子を見に来たそうだが……すまないな。問題はすでに解決しているんだ」
「あら……そうなんですか? アイシア様が囚われの身になっていると聞き、わたくしが身代わりとなるべく馳せ参じましたのに……」
……おかしいな。
無線越しながら、事情も状況もちゃんと順を追って説明したのに、この人……人の話を聞いてたのかな?
別に人質に囚われてた訳でもないし、アイシア様の身の安全とエルフ側との衝突を避けるために、拘束を受け入れているって説明したんだけどな……。
プロシア様が身代わりになっても、何の解決にもならないんだが……どうしてそうなった訳?
でも、お留守番も満足に出来ない人なんだから仕方がない。
うちのギルドには、こう言う格言がある!
『プロシア様なんだから、仕方がない』
プロシア様には、マイワールドがあって、その中で勝手な物語が展開されてしまう事は、稀によくある。
だから、しょうがないのだ。
二ヶ月以上に渡って連載してきたアイシア様。
別企画の関係で、次話にて一旦第一部完とします。
再開は未定ですが、続きはある程度書いてあるので、エター化はしません。




