第二十八話「凱旋、戦いのあとで」①
「……いやはや、なかなか爽快な眺めだな……さしずめファイヤーツリーってとこだな」
スタンボルトに言われて、神樹を見るともはや超巨大な松明状態になっていた。
どうやら、シュタイナも神樹への直接攻撃に参加したらしい。
無尽蔵に呼び出された火の玉が次から次へと神樹に当たり、火が燃え広がっている。
「アイシア様……降伏を呼びかけてみてはどうだ? さすがに、ここまでやられたら、あちらさんも詰みだろう……そもそも、神樹を完全に滅ぼして良いのかどうか……エーリカ姫様達もそこまではしなかったんだ。何か理由があったのかもしれない」
アイシアへ、助言をしてみる。
実際、彼女としては、平和的解決を望んでいたのだ……その存在を完全に滅ぼすような理由もないはずだった。
「そうですね……そうしてみます。神樹よ……これ以上の抵抗は無意味です……直ちに降伏してください」
「……き、貴様、ここまで……やっておきながら、い……今更降伏しろ……だ……と?」
どこからともなく、途切れがちな声が脳裏に響く。
酷く弱々しく今にも消えてしまいそうだった。
「我が友は無事に取り戻せました……もとより、それが目的。ですが、もはや……そなたの存在は風前の灯。神代の世より、この森を見守ってきたそなたへの敬意を表し、助命の機会を与えます……。このまま滅びたいのであれば、それもよし。再び、森を見守るだけの存在となると誓うのであれば、我はそなたの降伏を受け入れます」
「……是非もなし、降伏する……無へと還されるより遥かにマシだ……貴様の言うとおりにしよう。……だから、これ以上は……やめてくれ」
「畏まりました……皆の者、神樹への攻撃を中止し、我もとへ集え!」
アイシアがそう言って神樹に手をかざした瞬間、燃え盛っていた神樹を包んでいた炎が一瞬で霧散する。
「……これで……終わり……かな」
アイシアの足元がふらつくのが見えた。
気を失ったシーリーを抱えたままだったのだが、リーザがシーリーを抱きかかえてくれる
「……早く行ってあげなよ! この色男っ!」
半ばリーザに蹴飛ばされるようにアイシアの隣に行くと、そっとその細い腰に腕を回して、抱きかかえる。
「悪いな……もうちょっとだけ、がんばれ」
そう言うと、嬉しそうに微笑まれる。
良かった……いつものアイシアだった。
やがて、仲間達が全員集まってくる……誰一人、怪我もなく欠けたものもいない。
全員、跪いてアイシアの言葉を待っている。
「皆の者、ご苦労だった……神樹との戦いは終わった。後のことは、エドに任せるが故……妾は少し……休ませてもらう」
それだけ言うと、アイシアは目を閉じると脱力する。
お姫様抱っこで抱きかかえると、優しく頬を撫でる。
規則正しく胸が上下している様子から、眠ってしまったらしかった。
無理もない……こんな凄まじい力を酷使したのだ。
後のことを託された以上、俺も己が役割に徹するとしよう。
「……アイシア様は問題ない……少々お疲れになったようだ。皆もご苦労だった! 神樹は降伏した……恐らくこの有様では、もう何も出来まい。リーザとシーリーも無事だ……よって、速やかにこの場を撤収する!」
そう言って、振り返ると……入ってきた時の結界の穴がそのままになっていた。
向こう側は夜の森……皆は無言で、俺達の周囲を固めると整然と行進する。
「……我々の勝利だ! 我らの力は神々の眷属すらも圧倒した……神狩の勇者として、威風堂々と凱旋しようではないか!」
高らかにシュタイナがそう言うと、皆……何とも誇らしい顔をしていた。
……本気のアイシア様に率いられ、神代の怪物と戦い勝利。
誰もが英雄と呼ばれるもの達と比肩するような戦いをこなしたのだ。
堂々たる武勲、誇る以外の何が出来ようか。
かくして、俺達はエルフの村へと凱旋した。
村に戻ると、状況が一変していた。
ランドロフィを先頭に、村のエルフ達が総出で出迎えてくれた。
……ラフィアンナの婆様は……自分達の後ろ盾にして、心の拠り所だった神樹が、アイシアと俺達の手によって、完膚なきまでに叩き潰され、屈服した事を知るやいなや、完全に引き篭もり状態になってしまったらしい。
権限も責任も何もかもかなぐり捨ててしまって、事実上の引退……との事だった。
急遽、ラフィアンナの一族から、代役の長老が選出されたようなのだが。
ランドロフィ達から見たら、小僧呼ばわりされるような若輩……それでも500歳くらいは行ってるらしいのだけど。
所詮はナンバー2……若者連合と日和見組を味方に付けて、同調を迫るランドロフィにあっさり屈服。
かくして、エルフの村の意志は完全に統一され、アイシアに至っては、樹海の王として認められてしまった。
すでに、他の森の眷属達の元へエルフの使者が立てられ、例の樹海のルートの件も認めさせる方針との事だった。
なにせ、アイシアは、樹海の支配者たる神樹をも屈服させた存在であり、大恩もあるのだ……多少の不満も棚上げせざるを得ないだろう。
まぁ、ゴブリンだのオーガだの、その他の知性のない魔獣の脅威は残るのだけど……森の眷属共やエルフに比べたら、可愛いものだ。
ひとまず、すべての問題が解決し……あとは街へ凱旋するのみ。
そう思っていたのだけど……。
肝心のアイシアが……眠ったまま目覚めないと言う少々困った事態に陥ってしまっていた。
お察しでしょうが、現状隔日連載となっています。
圧倒的、リソース不足。




