第二十七話「聖域の攻防」④
「……貴様っ! 貴様は……我が力を……喰らい尽くすつもりなのかっ! やめろっ! そんな事をされたら、我が存在が滅びてしまう……我はこの世界の始まりから君臨する神の眷属の一人ぞ! 何故、貴様らのような魔王の眷属に滅ぼされなければならぬのだ!」
神樹はリーザの身体を借りたらしく、その言葉はリーザの口から放たれていた。
リーザがスタンボルトの追撃を振り切って、まっすぐに突っ込んでくる!
スタンボルトが追撃しようしているが、シーリーが立ちはだかり、足止めされている。
マズい! 間には誰もいない! シュタイナが猛烈な量の火炎球を放つが、リーザはその尽くを回避ッ!
あっという間に至近距離に近づいてくる!
とっさに銃を向けるが……さすがにリーザを撃つわけにはいかず、躊躇ってしまう。
一瞬の躊躇を見抜いたように、リーザは恐ろしく身軽な動きで目の前でバク転をすると、俺めがけて大量のクリスタルをばら撒く!
リーザ自慢の攻性クリスタル……その破壊力は、戦車の装甲を軽く撃ち抜くほどのもの……!
「小僧っ! 貴様などには用はない……だが、邪魔だ……死ねっ!」
そして、そのクリスタルから一斉に光条が伸びるッ!
「ふざけんなっ! そんなもの俺に使うやつがあるかっ!」
思わず抗議の罵声を浴びせるのだが、容赦なく放たれる光条!
けれど、その光条の弾道が……見えるッ!
マントを大きく翻し、その光条を防ぐ……こんな布切れで防げるか疑問だったが、光条が逸らされて、明後日の方向へ飛んでいく!
さすがに何発か身体に貰ったが、鎧が防ぎきってくれたようだった。
マントも凄いが鎧も凄いっ! 身に付けていることを忘れるくらいの軽さなのに、この防御力!
すかさず、銃撃を放つ……ハンマーを手首で押さえながら立て続けにトリガーを引くことで、瞬時に6発の銃弾をばら撒く!
さらにもう片手のドラグーンも全弾斉射っ!
立て続けに、攻性クリスタルが一斉に砕け散る!
全弾命中! 銃弾の数と同じく12個のクリスタルを仕留めた。
けれども、攻性クリスタルはまだまだある……残ったクリスタルが一斉にその輝きを増す!
今度は避けきれないかもしれない……そう思った瞬間、すべてのクリスタルが一斉に動きを止め、砕け散った。
振り返るとアイシアと視線が合い、頷かれる……。
今の俺にも、今の攻防でどれだけ凶悪な魔術の応酬があったのか悟ってしまう。
リーザ自慢の攻性クリスタル。
その輝きはそもそも、避けれるような代物じゃない上に、威力も桁違い。
実際何発か直撃したにも関わらず、俺は無傷だった。
いや……アイシアが俺を守ってくれたのだ。
更には、アーティファクト級のリーザの攻性クリスタルを、一瞬でことごとく粉砕してみせた。
もはや桁が違う……リーザも戦車相手に戦えるような人外レベルの使い手なのだが、今のアイシアの力はそれすらも凌駕する!
一瞬迷った末……攻性クリスタルを失い、棒立ちとなっていたリーザにタックルをブチかます!
次の魔道具の準備なんてさせないっ!
傍から見ると押し倒したようにしか見えないのだが……形振りかまっていられる状況じゃない。
リーザの両腕を押さえながら、足も絡めて完全にロックする……。
リーザも凄まじい程の力で抵抗するのだが……今の俺も普段以上の力が出せている。
上に下に転がりながらの、取っ組み合いに近いような争い……。
荒々しく息を吐き、凶悪な目付きで睨みつけるリーザに、思わず気圧されそうになりながらも耐えていると、背後からゆっくりとアイシアが近づいてきて、リーザの額に軽く指を当てる。
すると、リーザも一瞬ビクンと痙攣したと思ったら、ぐったりと動かなくなる。
「……これで大丈夫……今、神樹との繋がりを断ちました……エド、ご苦労でした」
アイシアがそう告げる。
……そう言う事なら、もう安心か?
「おいっ! リーザッ! しっかりしろって!」
頬を軽く叩きながら、呼びかけるとリーザが薄目を開ける。
「おはよ……誰かと思ったら、エドちゃんじゃない……なぁに、お姉さんに欲情しちゃった? 別に構わないけど、こんな明るいうちから押し倒すとかないかなぁ……って、これどんなシチェーション? 何? どうなってんのッ!」
正気に返ったのか、リーザがガバッと起き上がる。
こっちは油断していたのもあってか、あっさりとリーザの身体から転がるように離れると、今更のように大きく息を継ぐ。
アイシアの加護があったとは言え、さすがに今のは死んだかと思った。
……やっぱ、リーザなんか間違っても敵に回していい相手じゃない。
そもそも、俺はこんな風に一騎当千の兵の如く、戦えるようなタイプじゃないんだが……。
だが、そんな俺ですら、リーザと互角以上に戦えてしまった……恐るべきはアイシア様の加護の力。
「まったく、そんなもん知るか……正気に返ったんなら何よりだ! ……アイシア、シーリーの方はどんなもんだ? それと神樹はまだ抵抗を続けているのか?」
「この空間の8割は妾が掌握しました。……現在、シュタイナさんとシロウ君が本体を攻撃中。……眷属については、もうあらかた殲滅したようです。シーリーちゃんは、スタンボルトさんが確保して、もうすぐここへ連れて来てくれます」
スラスラと周りも見ずに答えるアイシア……戦況把握も完璧らしい。
どうもこの様子だと、相互連絡すら思いのままなのか。
一つの生物のような一糸乱れぬ統制。
大魔術を無効化し、銃撃、砲弾すらも止めるであろう無敵の守り。
そして、配下を一騎当千の戦士へと変え、無尽蔵の武器を与える。
……皇帝陛下の率いた僅か千騎程度の騎兵で、連合軍が壊滅したわけだ。
神々の眷属すらも滅する存在。
……そんなものに人が敵う訳がない……始めから、次元が違う。
やがて、アイシアの言葉通り、スタンボルトが軽く100mくらいの距離をジャンプしながら、すぐ隣に着地する。
「シーリーちゃん、大丈夫かね? なかなか手強くて、止む無くぶん殴っちまって気絶させちまったよ」
肩にはシーリーがぐったりと担がれている。
なんとも悲しそうな様子に、余程不本意だったと見受けられる。
スタンボルトからシーリーを受け取ると、アイシアが覗き込む。
「問題ありません……これで」
アイシアがシーリーの額のあたりをそっと触れると、何かが霧散していく。
……これで終わりだった。
エドが主人公っぽい。(笑)




