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第二十七話「聖域の攻防」③

「くくくっ……我が血が告げている! アイリュシア様、貴女こそ……我ら魔族の王! さぁ、どうか我にご命令を……敵を殲滅せよとお命じくださいっ! スタンボルト……貴様、この程度の雑魚相手に臆したのか? ここは我らの腕の見せどころぞ?」


 あの冷徹なシュタイナとは思えないような言葉に、驚きを禁じ得なかった。

 まさに、魔王の下僕のような言葉……。

 

 と言うか……これがシュタイナの本性だったのかも……。

 今まで、人間のふりをして大人しくしてたとか?


 ……とにかく、俺のシュタイナのイメージが大きく変わったのは事実だった。


「なんだよ……旦那……珍しくテンションタケぇなっ! ……バカ言うなよ? 俺は女は斬らねぇ主義なんだが、こいつらみてぇな化け物なら話は別だ……むしろ、選り取りみどりで困っちまうな。ワリィがアイシア様の守りは任せたっ! お先、行くぜっ!」


 そう言って、スタンボルトが突っ込んでいくと次々と緑人共を薙ぎ払っていく……。

 

「シュタイナ殿、あの二人はどのような状態なのでしょうか……我が力で、助けられるのですか?」


 凛とした声と口調……アイシアも明らかにいつもと様子が違う。

 このままで良いのか判断に迷う所だが……焚き付けたのは俺だし、これも彼女の一面だと言える。

 

 ……こうしている今も、俺自身得体の知れない高揚感に包まれ鳥肌が立っている。


「恐らくは眷属として、自我を失い操られている状態であるかと……今の殿下の力ならば、逆にあの二人を支配下に置くことで取り戻せるでしょう……我らのことは構わず、まずはあの二人を取り戻すことに全力を傾けていただきたい」


 跪き、頭を垂れてじっとアイシアの命が下るのを待つシュタイナ。

 その言葉や理由はともかく、アイシアへ絶対の忠誠を誓うことにしたらしい……。

 

「では、シュタイナ殿……改めて汝に命じよう! ……我が敵を……討ち滅ぼすがよいっ!」


「御意ッ!」


 今回は、銃を使わず魔術で行くつもりらしく、立ち上がったシュタイナは背負っていた長銃を下ろすと、呪文の詠唱を開始する。


「久しぶりにこっちで行くとするか……」


 シュタイナがそう呟くと同時に、その身体のあちこちから淡い光と共に魔法陣が浮かび上がり、幾重のもの詠唱が重なり始める!

 ……多重魔術詠唱っ! 一体いくつの魔術を同時発動する気なんだ!


「エドワーズ卿……少し集中したいので、邪魔が入らんようにしてもらってよいか? いわば、ここはヤツの腹の中も同然……まずは、この空間自体を、我が領域として掌握する! すまんが、時間を稼いでくれると助かる。皆も……ここはひとつ、妾にその命……預けて欲しい」


 空間の掌握……なんだそれは? それに明らかにアイシア自体の様子がいつもと違う……。

 全くの別人と話してるような気がしてくる。

 

 だが、こんな神の眷属を名乗るような奴と戦う以上……アイシアを当てにするしか無い……信じるのみだ!


「……任せろ! 総員に命ずっ! 我らが主……アイシア殿下を守り抜け! いいな? 絶対死守だ! 立ち向かって来るものは、すべて殲滅せよっ! 指一本触れさせるな!」


「「「「応ッ!」」」」


 全員の勇ましい掛け声が重なり、俺もドラグーン・ドライを抜くと、遠慮なく神樹の人型めがけてブッ放す!

 交渉は端から決裂するのは、解っていた……躊躇いなど何一つ無い。

 

 それどころか、アイシアの言葉で不思議な高揚感に包まれていた……皆も同じようだった。


 あの冷徹なシュタイナですら、熱狂しているようだし、温厚なカティやロボスですら、目を爛々と輝かせてまるで別人のようだった。

 

 俺の放った弾は全弾命中……人型の頭が木っ端微塵に砕け散り、胴体に大穴が空く。


 隣の緑の人間モドキも同じように、銃弾を浴びバラバラになって吹っ飛ぶ。


 血の一滴も流れない……要は木の枝が人の形をしていると言うだけの事のようだった。


 見かけだけ人に似せて、こんな動く木の枝が眷属? ……実に、実に……くだらない。

 相手が人間じゃないと判れば、気楽なものだ……要はモンスターども大差ない。


 更に銃撃を放つ……次々と倒れていく緑人達。


 ……どう言う訳かやたらと弾がよく当たる。


 更に連射……面白いように当たっていき、俺の正面は緑人達の残骸で死屍累々と言った体を為す。


 いや、違う? これは相手の動きが手に取るように読めるんだ!

 相手はまるで、自分から俺の放った銃弾に飛び込んでくるような……そんな錯覚すら覚える。

 

 あっという間に弾薬が空になるのだけど、銃を手放すと新しい銃が手の中に出現していると行った調子で、弾薬すらも無尽蔵……しかも、片手打ちでも余裕で反動をいなせる……明らかに腕力が上がってる。

 

 空いたもう片手にも、気がつくとドラグーン・ドライがもう一丁握られていた……。

 

 ……俺、こんな真似出来たっけ? なんなんだこれは?

 

 リッキー達も尋常ならざる速度で動き回って、緑人共を当たるを幸い薙ぎ払っている……シロウが超特大の火炎球を神樹の幹に向かって放ち、凄まじい大爆発と共に神樹が大きく揺れる。

  

 少なくともシロウはここまで高出力の火炎球なんて扱えない……一体、どうなっているんだ?

 

 ロボスがどこから持ち出したのか、恐ろしくバカでかい剣を振り回し、カティとサティも獣のような雄叫びを上げながら、縦横無尽に飛び回りながら、絶妙なコンビネーションで素手で緑人達を蹴散らしている……。

 

 皆、いつのまにか異形の黒い鎧を身に着けている……どこから湧いたんだ? あれ。

 

 その鎧も恐ろしく防御力が高いらしく、ロボスが大振りした隙に槍の一突きを浴びたのだが……。

 痛痒にすら感じていないらしく、返す刀であっさりと切り捨てていた。

 

 全員、普段以上どころか、人外級の動きを見せている……。

 

 これは……俺を含め、全員の身体能力、魔力……すべての能力が劇的に跳ね上がっている!

 

 おまけに、武器や防具すらも恐ろしく強力な物が具現化されている……俺も、気がつくと黒い胸甲とドス黒い闇色と血のような赤のグラデーションの禍々しい雰囲気のマントを身にまとっていた。


 何が! 一体、何が起きているんだっ?

 

「エド、これが皇族……いや、魔王様の使徒の真の力だ! 今、我らは魔王様の眷属としての強大な力と武具を授かっているのだ……己が配下を一騎当千の戦士へと変える! 帝国の皇帝が数十万の軍勢を滅ぼした力……まさか、本当にこんな日が訪れようとは……俺は自分の運命に感謝を禁じ得ない! 我が力……全能をアイリュシア様に捧げると俺は誓おう! 変幻自在のフレキシブル燃え盛る火の弾丸フレイムバレット! エクストリームッ!」


 淡々とそう言いながら、両手の指から火の玉を立て続けに放つシュタイナ。

 それは複雑な軌道で方向を変え、空中で分裂し、アイシア様に近づこうとしていた緑人共へと降り注ぐ!

 

 まさに地獄絵図……緑人共がダース単位で灰になっていく。

 

 仲間達も獅子奮迅の勢いで、まるで草刈りでもしているように、近寄る敵を薙ぎ払っていく!

 巨大な根が大蛇の如く暴れまわり、襲いかかって来ているのだが、それすらも切り刻まれ、打ち砕かれ、灰になっていく!

 

 ……誰もが超常の力を発揮し、巨大な神樹と凄まじい数の眷属を相手に互角以上に戦っていた!

 

「こ、これが皇族の力だと言うのか? ……こ、こんな凄まじい力……何か代償があるんじゃないのか?」


「そうだな……大戦の時、皇帝は己と配下の騎士達の命を代償にこの力を奮っていた……だが、アイリュシア様はあのような紛い物とは訳が違う。見るが良い……アイリュシア様は、この神樹の持つ莫大な魔力を喰らい我が物としているのだ……」


 シュタイナの言葉に、アイシアを見ると、大きく両手を広げて、聞いたこともない言葉で歌を歌っているようだった。

 透明な線が辺りからアイシアに向かって伸びていき……吸い込まれていく。


「あれは? 歌……なのか? 一体何を?」


「……我が一族の伝承として伝わる滅びの歌と呼ばれ伝わる秘術だな。奴ら神性存在と呼ばれる……言わば神々の眷属と戦うべく、魔王様が作り上げた御業のひとつだ! 神性存在と言えど、その魔力を食い尽くされたら滅ぶしか無い……まさに神殺しの御業だ」


 アイシアの力が更に増大していくのと引き換えに、神樹の根は枯れ果てていき、青々と茂っていたその枝葉は、赤茶けた色に変わり果て、バラバラと枯れ葉がいつ果てぬともなく舞い散っている。

 

 この世界を構成している神樹の枝も、徐々に微動だにしなくなり朽ち果てていき、次から次へと湧いていた緑人共もその数を減らし始めていた。

第一部クライマックス戦!

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