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第二十七話「聖域の攻防」①

 やがて、シュタイナも合流して、樹海の最深部……聖域へと進む。

 火の方も、ちゃんと延焼しないように配慮したそうなので、問題無さそうだった。

 

 何度かの休憩を挟みつつ、シュタイナの案内で明かり一つ無い真っ暗闇の樹海を進む。

 敵や魔物との遭遇を危惧したのだが……シュタイナによると隠蔽結界と広域索敵網を展開しているとかで、それらとの遭遇は尽く回避できているようだった。

 

 月の位置からして、そろそろ日付が変わりかける頃にさしかかる頃。

 

 唐突に植生が変わり、やたら巨大な樹の密集した深い森に入る。

 上を見上げても、星空や月明かりもほとんど見えない……案内もなしに、進むには躊躇うほどの闇、また闇が続く。

 

 ふと気づくと、虫や獣の気配がなくなり、辺りは異様な静けさに包まれている。

 聞こえてくるのは、皆の息遣いだけだった……。

 

「……これが樹海の最深部……なのか?」


 辺りを見渡しつつ、呟く……独特の雰囲気と、墨を塗りたくったかのような暗闇に、本能的な恐怖を刺激される。

 

「そうだ……。この辺りで、スタンボルトが待っているはずなんだが……」


「よぉ……いい加減待ちくたびれてたとこだったぜ」


 ……何の気配もなく、唐突に背後の樹の影からスタンボルトがヌッと現れる。

 どっから湧いたのか……まぁ、こいつらはそんなもんだから、別に驚く程のことでもないか。

 

「スタンボルトさん! どこから出てきたのっ!」

 

 ……何の気配もなく現れたその様子に、さすがにアイシアも驚いたようだった。

 

「へっへっへ……危うく、通り過ぎられちまうかと思っちまったぜ」

 

「状況報告」


 スタンボルトの軽口を叱責するように、シュタイナが短く問う。

 

「やっぱ、この手の奴は、俺にはどうにもならんな。結局、何も出来てねぇ。……それとさっきから、辺りを緑の美女共がうろついてやがるぜ……お前ら、奴らに見つかってないだろうな?」


「俺の隠蔽魔術は完璧だ……ドライアード風情に見破られるはずもない。貴様は言うまでもないと思うが……数は?」


「つかみでざっと百ってとこだ……まぁ、バラけてウロウロしてるだけだから、余り問題にはならんと思うが……サティ、さすがに今回は、相当やばいぜ? お前のお守りまでは出来ん……今のうちに覚悟決めとけよ!」


「お師匠様の手を煩わせるまでもないよっ! 今度こそしっかりやるんだから見ててっ!」


「上出来だ……おめぇも言うようになったな……頭、撫でてやろうか?」


「要らないよっ! と言うか、子供扱いするなっ!」


 子供が子供扱いするなとはこれは如何に?

 師弟の心温まる会話を聞き流しながら、先へ進むと……先頭を行くシュタイナとスタンボルトが立ち止まる。

 

「ここが結界の起点だ……これ以上進むと、いつの間にかUターンさせられるって寸法だ。……恐らく、空間自体が歪んでいるんだろうな……なかなか、厄介な代物だぜ」


「シロウ、君なら結界が見えるだろう……エドも魔術の素養があるから、何となくわからないか?」


 言われて、前方の風景を眺めると、暗闇の中、果てしなく続くような巨木が揺らめいているようにみえる。

 これが……結界なのか?

 

 呆然とみていると、アイシアが一歩前に出ると手をかざす。

 

 ……シュタイナが無言で頷く。

 

 アイシアが目を閉じると、その手から黒い霧のようなものが滲み出て、塊になる。

 

 それがある程度の大きさにまでなると、じわりと蠢きながら前方の空間に散らばっていく。

 

 一拍ほどの間を置いて、パキッと音がすると、前方の風景そのものが蜘蛛の巣のようなひび割れに満たされ、生ぬるい風が前方から吹き込んでくる。

 

 ーー次の瞬間、風景が激変した。

 

 唐突に暗闇から、まばゆいばかりの光に包まれた空間へと変わる。

 

 赤や黄色……青と言った原色が入り交じったサイケデリックな色使いの樹の根っこが絡み合い、異様な風景を形作っていた。

 

 前方には、天辺が霞んで見えないほどの巨木が佇んでいる。

 その幹の太さも凄まじく、おそらく3-40mくらいはある……。

 

 けれど、よく見るとその幹の半分辺りで大きく幹がえぐれていて、あちこちに焼け焦げた跡が残っていた。

 これが……500年前の帝国の皇族と魔王の使徒と、神樹の戦いの痕跡なのだろうか?

 

「ま、まさか……あれが? なんなんだ……この大きさは……」


 途方もない大きさに思わず言葉を失う……こんな存在にどう立ち向かえば良いのか?

 

「……あれが神樹とやらだな。さすが、アイリュシア様……思った通り、この程度の結界……物の数ではなかったようですな……素晴らしい」


「……いやはや……とんでもねぇ規模のキャンセラーだったな……さすがに、あんなもん食らったら、神代の化物が作った結界ですら、ひとたまりもねぇ……ここまでとは、思っても居なかったぜ」


 スタンボルトが冷や汗をかきながら、驚嘆の言葉を放つ。

 

 人外級の力を持つこの二人ですら、驚愕するようなレベルの魔力。

 シロウやカティはもはや呆然としているどころか、もはや開いた口が塞がらないと言った様子。

 

「これが神樹様……ねぇ、リーザやシーリーちゃんはどこなんだろ?」


 神代の怪物の作り上げた結界を、無造作に破壊した張本人は至って涼しい顔。

 桁違いの魔力を放ったにも関わらず、微塵にも消耗した様子は見えない。

 

 正確には、一瞬だけ疲れたような様子を見せていたのだけど、一瞬で回復した……そんな感じだった。

 

 ひとまず辺りを見渡すのだけど、スケール感のおかしな巨木と絡み合ったその根以外に、人影も何も見当たらない。

 そもそも、こんなものを相手に……どうやってコミュニケーションを取れば良いのやら。

 

 と言うか、こんなバカげた世界……俺は間違いなく場違いだ。

 こんなものは神代の英雄たちの戦い……神話の世界だ……ただびとたる俺達の手には余る……分不相応だ。

 

 ……早くも着いてきたことを後悔し始める。

 

「……我が結界を破壊し、あまつさえ我が領域を土足で踏みにじるとは、甚だ許しがたい所業である! ……貴様、間違いない……あの時の魔王の使徒であるな?」


 不意に女の声が聞こえたと思ったら、目の前の神樹の枝がグネグネと動き出し、複雑に絡み合いながら人型を形取り始める。

 

 無言でスタンボルトが前に出ると、サティとロボス、リッキーも続く。

 シュタイナが片手を伸ばし、アイシアと俺の前に立ち、カティとシロウも俺たちの両脇を固める。

 

 人型は見る間に、緑色の女の姿になると、俺達の前に立ちはだかる。

 

「えっと……貴女が……神樹様?」


「如何にも……貴様のその魔力をかき消す異様な魔術……覚えているぞ? 魔王の使徒……そう、黒の節制とか言ったな! よくも再び我が前に現れたものだ……我が依代をああも無残に引き裂いた罪は重い……もはや、死は免れぬと思え……」


 最初の一言がこれだった。


 ……ああ、ダメだコイツ。

神樹様の結界のイメージは、ゆゆゆの神樹様の結界の中みたいな感じです。

ちなみに、力づくでブチ破られたのはこれで二回目……トホホな感じ。


神樹様の見た感じは「気になる木」を上に引き伸ばして、高さを100m位にして、幹をゴン太にした感じです。

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