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第二十六話「神樹様との因縁」④

 ……30分後。

 準備が出来たらしいので、洞窟に戻るとアイシアの服を来て、黒髪を下ろしたソフィアと、メイド服を着たアイシアがいた。


「……どうして、こうなった?」


 思わず、呆然と呟く。

 

「姉ちゃん……まさか、髪染めちまったのか……?」


 黒髪になったソフィアを見つめて、リッキーが呆然と呟く。

 

「あはは……そこまでしてないよ……あり合わせで炭の粉を髪の毛にまぶしてみたんだけど……暗がりなら大丈夫だよね?」


 なるほど、よく見ると黒髪というより、黒と紫の斑模様だ……でも、後ろ向いて、暗がりに座ってれば大丈夫だろう。

 幸い髪の長さも、ソフィアも長めだから、ポニーテールを解いただけでほぼ問題なし……影武者としては十分だろう。

 

 そもそも、アイシア自身書物を読みふけりだすと、たまにトイレに行く以外では全く動かなくなる。

 見張りも色々悟ってきたらしく、別に声をかけたりもしない……夜中に寝込みを起こして、確かめるような野暮な真似もしない。

 

 俺達が一斉に居なくなることについては、ランドロフィと口裏を合わせればいいだろう。

 そもそも、俺達については、連中も帰りたければいつでもどうぞ……みたいな調子だったからな。

 

「どう? エドお兄ちゃん……わたしもメイドさんだよ?」


 メイド服姿でポニーテールにしたアイシア様が嬉しそうにクルクル回る……。

 

 別に入れ替われと言ったつもりはなかったのだけど……絶対、確信犯だろ……これ。


 実際、可愛いっ! それは認める!

 

 ……と言うか、メイド服って女の子を3割増しくらいで可愛くさせるような気がする……いや、そうじゃないだろっ!

 

 だが、もう着替えさせるような時間がない……。

 あと10分もすればシュタイナが騒ぎを起こす……ええいっ! ままよっ!

 

「……まぁ、確かに可愛いし、悪くないんだが……そのかっこで行くのは……ちょっと」


「ええっ! せっかく憧れのメイド服着れたのに、駄目なの?」


 まぁ……コケても怪我一つしないような奴に、草負けだの虫刺されの心配を説いても無駄か。

 もう、どうでも良くなってきた。


「もういい……そのかっこで行くなら、もう止めんっ! じゃあ、ランドロフィ……すまんが、なるべく穏便に済ますようにするから、ソフィアの事を頼む」


「やれやれ、これではワシも共犯ではないか……まぁ、こっちは何とか誤魔化してやるし、最悪神樹様なんぞ、燃やしちまっても構わんぞ!」


 吹っ切れたような言葉を放つランドロフィ……おいおい、一転して随分過激な事言いだしたなぁ……。


「……いいのかよ……それで……」


 ランドロフィの言葉に半ば呆れつつ返す。


「ああ、全く構わんぞ……実はワシも、エーリカ姫様とクロ様には感謝しとるクチでな! あのお二人が神樹様を真っ二つにしてくれたおかげで、ワシらエルフは解放されたんじゃ! もうあんな神樹様の奴隷のような生活、御免こうむる……。アイシア様、神樹様はクロ様とエーリカ姫様が説得しようとして、さじを投げたような相手ですからの……。話し合いなんぞ、そこそこに……いっそ、聖域に火でも放ってくれんかのう……神樹様が居なくなれば、他の森の住人共や反対派も大人しくなりますから、例の件も滞りなく進められましょうぞ」


 ……なるほどな……結局、神樹様の存在も例のルート開発を阻む原因だったってとこか。

 だとすれば、むしろ神樹様と戦う事を想定するべきだな……。

 

 でも……勝てるのか? そんな化物に。

 

「あ、あの……わたしは、あくまで話し合いで平和的解決を……ですね?」


 アイシアはあくまで、平和主義で行きたいらしい……。

 考えてみれば、これで、彼女が過激思想の持ち主だったら、世界を滅ぼしかねないからな……。

 だからこそ、アイシア様はそれでいい。


 道を誤りそうになったら、俺が正す……それでいいじゃないか。

 

 考えてみれば、先の戦闘でも俺の独断で相手を皆殺しにしてしまったからな。

 ここはアイシアの意を組んで、気の済むようにやらせてみよう。


「まぁ、平和的に解決出来るなら、それに越したことはない……アイシア様がそう望むのなら俺達も従うまでだ。だが、話し合いにならなかったら、そのエーリカ姫様に習って、景気良く燃やしちまおうぜ。正直、リーザ達が駄目だった時点で、交渉にならん可能性が高いと見てる。……神代の化物共なんて、俺達下賤の民の事情なんて知る由もない……大方虫けら同然に思ってるんだろうさ……神様なんて、得てしてそんなもんだろ?」


 俺がそう言うと、アイシアも少し考えて、複雑な顔をしてる。

 そう言う神話を挙げれば、枚挙に暇がない……俺が知る限り、神様って奴らはどいつもこいつも人には優しくない。


 とは言え、問答無用でそんな化物と戦うなんて、無茶はしたくないから、話し合えればそれに越したことはないんだがな。

 

「それでも……わたし、がんばってみるよ!」


 ……どのみち、交渉はアイシア次第……俺達は決裂した場合に備えるのみ。

 全員を見渡す……誰もが緊張は隠せないようだけど……ここは、アイシアを信じてみよう。

 

 やがて、森の方から煙が立ち上り、エルフ達が騒ぎ始める。

 

「じゃあ、皆行くぞ! ソフィア……後を頼む!」


「……うん、エドも無事で戻ってきて! もちろん皆も……アイシア様、皆をお願いします!」


「ソフィアちゃんも! 危なくなったら、すぐ逃げてねっ!」


 ソフィアとランドロフィに見送られながら、俺達は樹海へと向かった。


 エルフたちは、森の火災を消し止めるのに躍起になっているらしく、誰にも見咎められなかった。

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