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第二十六話「神樹様との因縁」②

「……エド、戻ったぞ……状況報告いいか?」


 シュタイナだった……たぶん、樹の反対側にいる。

 どうやら、偵察から戻ってきたらしい。

 

 俺は視線を向けることなく頷く。

 

「神樹様の聖域とやらの場所は把握できた……だが、強固な結界が張られている上に、内部が異空間化しているようで、中への侵入は出来なかった。……それとリーザからのメッセージを受け取る事に成功した」


「リーザはなんと?」


「交渉は決裂、救援を求むと。本人からの直接のメッセージではないのだがな。……交渉の決裂も、俺達が偵察に出向くことも想定して、時限発動式のメッセージを用意していたらしい……さすがだ」


 メッセージの内容は、思った以上に深刻だった。

 

「……交渉にならなかったとか、そんな感じなのか?」


「恐らくは……連絡も付かんから詳細状況も解らん。いずれにせよ俺としては、こんな所で大人しくしている場合ではないと判断している。直ちに行動すべきだと進言させてもらう」


 この場はリーザたちに任せて、状況の好転を待つのが最善と判断していたのだが……。

 リーザ達の交渉が失敗となると、さすがにランドロフィ達の立場も厳しくなるだろう。


 リーザ達が神樹様を説得してくれると言う前提で、日和見連中もランドロフィに同調しているのだ。

 その前提が崩れたとなると、今度はラフィアンナ側に同調してもおかしくない。

 

 アイシアも今のところは問題ないが……身内のギルド側もエルフに好意的じゃない連中を中心に、不満が生じていると、フレドリック卿から報告があった。

 

 なにせ事実上……表敬訪問に向ったギルドマスターを、言いがかりを付けて不当に監禁しているようなものなのだから、反発を招くのは当たり前だ。

 

 冒険者連中もアイシアに対しては、総じて好意的だっただけに、憤懣やる方なしと言ったところなのだろう。

 

 今のところ、プロシアやフレドリック卿が皆を抑えてくれているから、問題無さそうだが……あまり、今の状況が長引くのは良くない。

 

 サティやリッキーのような血の気の多い奴らも、不満をこぼすことが増えてきて、正直いつ爆発するか解らない。

 シュタイナの言うとおり、これはもう大人しくしている場合では無いようだった。


 かくなる上は、アイシアを直接神樹様に会わせて、誤解を解くなり、力づくで言うことを聞かせるなりする……もうそれしか、道はない……。


「解った……そう言う事なら、もう受け身の姿勢は無しだな。だが、シュタイナの旦那が対処できない結界となると……俺達では、どうにもならんような気もするんだが……何か策でもあるのか?」


 シュタイナは凄腕の狙撃手でありながら、腕利きの魔術師でもあり、魔術の専門家でもある。

 その専門家が対処不能と匙を投げるような結界……どうにもならないのではないか。


「……皇女殿下なら、あの程度の結界……苦もなく破壊できるはずだ」


 シュタイナの確信に満ちた言葉……何を根拠に言っているだろう。

 

「……マジか? 相手は神代の怪物なんだろ……そんなのが張った異空間を作るような結界なんて、人の手に負える訳がないだろ」


「エド……認識を改めろ、あのお方の持つ力は桁違いだ。……あの方がその気になれば、大規模儀式魔術や魔王様が各地に残したアーティファクトすら、容易く破壊出来るだろう……そう言うレベルなのだぞ」


「そ……そんなレベルなのか?」


「ああ、エドには解らんだろうが、俺達魔術師の目から見れば、あのお方はまさに伝説に謳われる魔王の使徒……そのものだ。直接お会いして、戦場を共にしたことで俺は確信したのだ……竜の咆哮を物ともしない上に、あの敵の魔術師の魔術を暴発させた際のキャンセラーの規模……あれはもう、人の域を遥かに超えるレベルのものだった。……あのお方こそ、我ら魔族の悲願……魔王の再来、まさに世界を制するに相応しい方なのだ」


 確かに……シロウから、先の戦闘でも敵魔術師の魔術暴発を引き起こしたのは、シロウじゃなくアイシア様だったと報告は受けていたのだが……そこまで凄まじいものだったのか。

 

 本人からは、そんな話……全く聞いてない。

 

 だが、シュタイナがそう言うのなら、恐らく事実と考えるべきだろう。

 それに、直接本人から聞いたのは初めてなのだが、彼は魔王の眷属の末裔と言われる魔族だと言った。

 それほどの男が確信するならば、実際そうなのだろう。

 

 ……と言うか、シュタイナ……アイシアと直接会って以来、やたら好意的だったんだが……。

 魔王の再来とか言い出す辺り、もはや崇拝の域に達してないか?

 

「い、いずれにしても、時間が無さそうだな。……なら仕方あるまい……今から、3時間後。日暮れと共にアイシア様を脱出させ、聖域へと向かう! あまり、手荒な真似はしたくないんだが……何かいい手はないか?」


「なるほど、薄暮時ならばエルフの夜間視力も発揮出来んからな……仕掛けるタイミングとしては、それが最善だろう。ならば、俺が陽動として、森に火を放って奴らの注意をひくから、その隙に脱出……このプランでどうだ?」


「悪くない……しかし、定期的にやってくる洞窟の見張りはどうする? もぬけの殻だとさすがにバレるだろう……それに、アイシア様が洞窟を出てしまって問題ないのか?」


 ……ラフィアンラ派の奴らも、定期的に洞窟に来ては、アイシアが大人しくしているか確認しに来る。

 

 連中にとっても、アイシアの身柄を確保していると言うのは、かなり重要らしく常に張り付いているわけではないのだが……こまめに様子を見に来ていた。

 アイシアが居なくなってしまったら、ランドロフィ達の立場がなくなるし、後々厄介なことになりそうだった。

 

 それに……元々洞窟に閉じ込めているのは、神樹様の目を誤魔化すのが目的だと言っていたのだが。

 その辺は問題ないのだろうか?

 

「洞窟の結界か? 今現在、あの洞窟に結界の類は張られてない。恐らく、何かの拍子に殿下が破壊してしまったのではないかと思われる……にも関わらず、神樹が手出ししてくる様子はない。そもそも、始めから足止めの為の口実だった可能性もある。どのみち、こちらから神樹の元へ出向く以上、そこはもう気にせずとも問題なかろう」


 ……そう言えば、何やらシロウやカティと3人で色々、実験とかやってたなぁ……その煽りでその結界もぶっ壊れたのかもしれん。

 エルフ達が騒いでない様子から、その辺はまだ気付かれてないのかも知れないが……何と言うか、色々お粗末だな。


「見張りの方は……替え玉を置いていって、エルフ共の目を騙すのが最善であろう。ここはソフィアにその役を担ってもらうべきだな。どのみち、かなり厳しい戦いが予想される……非戦闘員を連れて行くような余裕はない」


 俺も非戦闘員なんだが……と言いかけたが。

 アイシアを危地に追いやって、俺が安全地帯に残るなんてあり得ない。

 その点については文句はなかった。

 

 ……そうなるとソフィアを替え玉にするのは確かに妥当だ。

 状況的に戦闘になる可能性が高いから、戦闘員は全員連れていく必要がある以上、必然的にそうなる。

 

 神代の怪物相手に、ロボス達がどこまで戦力になるか解らないが……森の眷属やらを相手にする可能性もある以上、アイシア様の護衛は一人でも多く必要だ。

 こうなってくると、常駐していた冒険者連中を帰したのは失敗だったかもしれない。

 

 もちろん、ソフィアも決して、安全の保証はできない……。

 ランドロフィにも事情を話して、いざという時はなんとかしてもらうしか無い。

 

 ギルドにも増援を要請して、ソフィアだけでも保護できるように、保険をかけておく必要もありそうだ。

 

「了解した……では、そのようにしよう……スタンボルトは?」


「奴は、聖域に残って状況監視中だ……奴に限って、問題はあるまい」


「ごもっとも……では後ほど、落ち合おう!」


 それだけ言って、俺はその場を離れる。

 懐の懐中時計を取り出して、時間を見る……時刻は午後三時。

 

 可及的速やかに準備を整える必要があった。

 

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