第二十五話「アイシア様の引き篭もり穴蔵生活」②
次の日……洞窟生活4日目突入っ!
いい加減、暇ーっ! って騒いでたら、エルフの語り部の人からエルフの史書とか記録書を貸してもらえた。
アルブヘルム公用語の書物は、あまりないと言う事だったのだけど。
エルフ文字も普通に読めるって言ったら、帝国の皇女様には是非エルフ族について、理解を深めて行って欲しいとかで、物凄い量の記録書や書物を快く貸してくれた。
……500年前の事も少しは分かるかなって思ったんだけど。
いくつかの伝承が事実だったと補完出来たくらいで、あまり収穫はなかった。
いかんせん、エルフ族って閉鎖的なんで、外の世界の出来事は全然解ってなかったみたいなんだよねー。
その内容もこの100年何もなくて、取り立てて書くことはないとか平気で書いてあったり、複雑すぎて良く解らない家族関係についてとか、森の樹の実で一番美味しいのはこれだ! とかそんな記録ばかりで……エルフって良く解かんない。
エルフ独自の精霊魔術やら、精霊を使った魔道具の作り方とかの記録書もあったんだけど、そもそも精霊は人間の魔術師にも見えないって話なんで、これも意味がなかった。
わたしもそんなもん見えない……エルフでも特別の才能が無いと精霊は見えないと言うことで、なかなか敷居が高い。
ただ……魔術の才覚のある人間だと、魔力の偏在でそこにいることは解るらしい。
わたしも精霊がそこにいると言う感覚……それだけは解った!
わたし、世界の不思議に触れちゃいましたっ!
ちなみに、シーリーちゃんとリーザさんは、実は従兄弟くらいの関係だった。
そもそもここのエルフ族自体、4氏族くらいにグループ分け出来ちゃって、それぞれの家の長老が集まって長老会を作って統治してる……そんな感じだってことが解った。
ランドロフィさん達の一族は、皆そろって開明派で、街に出てきたり、ギルドで冒険者登録してるのは、大体この人達だった。
そもそもの長老のランドロフィさんからして、若い頃は大陸各地を渡り歩いてた自由人だったんで、他の森のエルフなんかにも顔が利くような外交上の顔役って感じで発言力も強く……他の血縁者の人達も割とフリーダム。
もっとも、森を出ていって外の世界で商売やってたり、旅を続けて全然帰ってこなかったり、不慮の事故で死んじゃう人も少なからずいて、実は意外と少数派……人口比だと15%くらい。
逆に保守派は、ラフィアンナさんを筆頭とする一族で、この人達は徹底して頑固な保守一辺倒。
森からもまず出ないし、他の森のエルフはもちろん、人間ともほとんど交流しようとしない。
実は、この村の住民の40%がこのラフィアンナさんの血を引く一族で最多数派でもある事が話をややこしくしてた。
他の二氏族はどっち付かずの日和見中立派みたいな調子なんだけど、両氏族を足すと最多数派になるらしい……何とも微妙なパワーバランス。
今回に限っては、中立派の二氏族がランドロフィさんに同調してくれてるらしく、そのおかげでラフィアンナさん派の主張が押さえられてるらしい。
状況としては、長老は3:1で圧倒的多数の反対って状況なんだけど、それでも長老ひとりひとりの意志は尊重されるので、他の三人が頑張って説得しようとしてるんだけど、議論自体は平行線らしい。
住民の方も、別に長老がカラスが白いと言えば、皆白いと言うほど統率されている訳じゃないみたい。
特に、若い人達は割と氏族問わずみんな仲良しで、お酒飲んで騒いだり、焼肉パーティとかやってたり、皆で集まって演奏会やってたりだの……人間の若者達とやってることは大差なかったり……なんとも、面白い話だよね。
若い人達は、当然ながらもっと刺激が欲しいとか言ってるんで、開明派が多い。
この辺は、ラフィアンナさんの一族の人達も同じで、表立って言わないだけの話なんだって!
神樹様については、エルフたちの造物主のような存在らしいんだけど。
500年前にクロ様たちが打ち倒す前は……何と言うか……暴君?
森に住む、眷属たちが一定数以上に増えないように間引きでもするように、眷属同士を殺しあわせたり……。
強い魔力を持つものを贄として、定期的に要求したり……本当に、神話の邪神とかと大差ない。
それが破壊され、解放されたのを心の底から喜んだ……記述からも、それは見て取れた。
如何に造物主だからって……作られた者達の命を弄ぶような事はあってはいけない……。
これだから、神様って奴は……。
他に興味を引く記述としては、魔王が戦ったと言う黒い太陽の記述は、エルフの史書にははっきり残されてて、あれが伝承のひとつじゃなくて、事実らしいと言うことは解った。
実際、ランドロフィさんもその黒い太陽の事は知ってた。
……エルフ族の記録は、極めて信憑性の高い情報だと言える。
なにせ、その時代を生きていた人達がまだ生きているのだから。
これで、多角的な視点での記録だったら言うことなし……なんだけど。
あくまで、森に篭ってた人達が残した記録だから、視点が超狭いのが難点。
黒い太陽の件についても、黒い月が太陽と重なる位置に居座って、日がまともに差さなくなって、冬のような寒さが一年以上続いて……訳の解らないうちに、黒い太陽が墜落して、なくなって、同時に空から黒い月も消えていた……とか、そんな調子。
それまであった、月の一つが消えるなんてのは、想像以上の環境変化をもたらしたようで、その影響がなくなるまでは、何年もかかり、その間は昼でも曇り空の日のように薄暗くて、冷夏や厳冬が続いて、本来雪なんて降らないはずの樹海が雪景色になったりとかもしたそうな。
動植物なんかも寒さに強い動植物ばかりが残って、寒さに弱い動植物はほぼ全滅……その中にメリオラ草も含まれていたのも、ちゃんと記述されてて、著者は未来において緑斑病が再来しない事を祈る……なんて締めくくってた。
実際、この著者の懸念どおりになって、ランドロフィさんの話だとこの記録を残したエルフも緑班病の犠牲になったと言う話だった。
「凄いな……この話。俺、黒い太陽と黒の月なんて、お伽話だと思ってたぜ」
隣で同じようにエルフの書物を読んでいたはずのシロウくんが、いつのまに隣に来ていて呟く。
ちなみに、シロウくんはリーザさんの弟子なのでエルフ文字も読めるんで、史書の整理を手伝ってもらってる。
言葉使いとかガラ悪いんだけど、これでもハーフエルフで割りと頭脳派。
エルフ文字については、難しいのは読めないって言ってたんだけど、わたしが教えてあげたら、完璧に読めるようになったらしい……頭いい子です。
それに魔術師としての実力は、なかなかのものらしい。
でも、わたし相手となると、奇襲攻撃も通じない時点で勝ち目ゼロだってボヤいてた。
「そうだねぇ……少なくとも、500年前に大寒波が起こったのは、その時期に大陸中で動植物の大規模絶滅が発生した事から間違いなかったからね……他にも北方平原の大型魔獣とかが南下したりで、大変だったんだよ。それと、500年前を境に黒い月が消滅したのも事実……ほら、この絵見て……」
そう言って、エルフたちの書き残した一枚の絵をシロウくんに見せる。
そこには、農作業らしきことをしてるエルフと、空に黒い月のようなものが描かれていた……日付から推測するに凡そ600年位前に描かれたらしい。
常に空の同じ位置にいて、昼間もはっきりと見えていて、夜になっても星空を穿つように、輪郭だけは見えていたと伝えられている黒い月。
魔王はそこからやって来て、黒い月とともに星の世界へ帰っていった……そんな言い伝えもある。
そもそも、黒い月自体が諸悪の根源だった……なんて話もある。
諸説ありすぎて、もうどれが本当でどれが嘘かも解らないんだけど……。
うーん、ラックスさんも歴史とか色々詳しいし、この手の話の第一人者って話だから、連れてくればよかったなぁ……。
「黒い月……か、今はもうそんなもん何処にもない……なんとも、途方も無い話だな」
帝国は500年も前にすでに写真機なんかも実用化してたから、当時の写真もいくつか残ってるんだけど。
写真でも空にぽっかり開いた黒い穴みたいに、その月は写ってて……この天体が実在していたことは証明されていた。
「アイシア様、お茶もらってきましたよ……って、うわぁっ! 巻物や書物だらけで、足の踏み場がないじゃないですかっ! もうっ! シロウくん、早いとこ片付けなさーいっ!」
ソフィアちゃんに言われて、元牢獄だった洞窟の一室を見渡すと、いくつもの巻物が広げっぱなしで、書物も無造作に置かれていて、もう散らかし放題の凄いことになってた。
いけない、いけない……すっかり片付け忘れてた。
わたしはこのお片付けと言うのがどうにも苦手で、書庫に引きこもってると、夜になる頃には、グッチャグッチャ。
お部屋も油断してると、グッチャグチャになって大変な事になってた。
お付きのメイドさんや書庫の管理人さんは、いつもの事とばかりに文句一つ言わず、片付けてくれてたけど……。
メイドソフィアちゃんは、しっかり小言みたいなのを言ってくる。
そう言えば、メイドリーダーのロゼさん……ちょうど、共和国へ書物の調達に出張させちゃってて、難を逃れたと思うんだけど……。
結局、お別れも言えなくて……元気にやってるかなぁ。
わたしの関係者って事で捕縛されてたりしなければいいんだけど。
そんな事を考えてたら、ソフィアちゃんが乗り込んできて、シロウくんが慌てて、バタバタと片付け始める……。
……はい、この惨状を作り出したのはわたしです!
でも……下手に手を出すと、きっともっと酷くする自信があるので、このまま二人を見守りたいと思います。
わたしが全面的に悪いのはよく解ってます!
……シロウくんとばっちり! ごめんね!
他の作家仲間さんから、長い後書き不評って話を聞いたので、
長めの与太話系やら設定のコメント削除してます。
そのうち、設定資料を適当なとこにぶっこむと思います。




