第二十五話「アイシア様の引き篭もり穴蔵生活」①
……そんな訳で、すっかり暇になってしまった。
他の人達は洞窟から出ても大丈夫なんだけど、わたしが出ると神樹様に見つかっちゃうって事で出してもらえない。
あれから、もう三日くらい経つんだけど、状況に変化はない。
とりあえず、暇だったから色々能力研究みたいなことを試してるとこ。
今のところ、出来ることとしては剣とか盾のコピーも出来ることが解った。
棍棒とか木の枝みたいなのは、コピーできないんだけど、少しでも鉄が使われてると、コピー可能らしい。
ソフィアちゃんの果物ナイフとか、サティちゃんの短剣なんかも、木で出来た柄諸共コピー出来た。
でも、見た目が木ってだけで、材質は金属的な何か……触って温かみもあって、木としか思えないんだけど、表面を削ったら全部鉄で出来てた。
しかも、剣とか切れ味とか抜群になってるし、ロボス君の持ってた重防弾盾なんかも、モンスターの外殻を使った特注品なのに、コピー出来た……防弾性能もお兄ちゃんが試し撃ちした感じだと完璧だったらしい。
……しかも、一回コピーしたら、後は作り放題。
銃に至っては、装弾した状態でコピーすると、弾薬入りのままコピーされてしまうと言う事も判明。
これ、地味に超強力……シュタイナさんから借りてきた薬莢式の弾薬に至っては、丸ごとコピーできてしまったくらいで……1個借りたのを100個位にして返却したら、さすがに呆然としてたらしい。
要するに、わたしと行動を共にしている限り、銃火器類の弾薬補給は一切必要ないと言う……。
銃火器のデメリットとして、弾薬の問題と言うのはかなり大きくて……冒険者達が銃を主力武器として使わない大きな理由がそれ。
銃火器は強力だけど、人ひとりが持ち歩ける弾薬なんて限りがある。
だからこそ、補給の当てもなく長距離遠征したり、長時間の連戦なんて珍しくない冒険者達には、銃火器は嫌われる傾向が強い。
実際問題、現代戦では補給がものすごく重要。
かつて、騎兵や歩兵だけだった時代では、お馬さんや人間様のご飯や水の心配をしてれば良かったけど……。
現代の戦において、正面戦闘部隊を1000人動かすとすれば、弾薬や支援物資を輸送、手配する人員だけでも最低でも同数の1000人は必要で、理想を言えば1.5倍の1500人は欲しいと言うのが実際の戦闘で証明された数値だった。
帝国側も大戦の後半になると、対戦車用や対歩兵用に大砲を多用するようになり、銃火器類も試験導入された輪胴式小銃や連発騎兵銃などで弾薬消費も増大し、西方情報軍の執拗な後方撹乱もあって前線では慢性的な弾薬不足が発生。
……いわゆる兵站がメチャクチャになったのも、帝国があそこまで追い詰められた理由の一つ。
鉛玉とか火薬の生産量は間に合ってたんだけど、とにかく問題になったのが輸送力。
帝国軍も共和国に習って、輸送用の機械化車両の導入などで輸送力を補おうとしたけれど、前線でも兵員移動や重砲の移動用に機械化車両が引っ張りだこになって、結局全然足りなくなって、もうグッダグダ。
戦後の研究で、将来的に軍隊の機械化、重武装化が進むと、もっと補給の重要度が上がり、共和国の部隊編成などから推測するに、将来的には後方支援要員だけで正面戦闘要員の5倍くらいになるのではないかと言われている。
もちろん、この辺も資料や戦史から知った知識なんだけど……。
とかく、銃火器や機械化車両は膨大な後方支援なくして、使い物にならない……そういう物なのね。
にも関わらず、わたしの能力はその辺のデメリットをほぼ帳消しにできる。
弾薬補給が要らない軍隊とか、軍関係者にとってはもはや夢のような話だろう。
補給関係者が聞いたら、間違いなく卒倒する。
ランドロフィさんの話だと、クロ様は銃火器のみならず、野戦砲やら戦車。
更には空飛ぶ機械……恐らく飛行機械……そんなものまで、作り出して自在に繰り出していたらしい。
しかもそれらは、操縦者すら必要としなかったと言う……まさに無敵の一人軍隊。
つまり……そこから推論されるのは……わたしも同じような真似が出来る可能性がある。
銃火器のみならず、機械化車両や飛行機械すらも作り出し自在に操る……なんて、恐ろしい能力なんだろう……これは。
問題は、何を代償してるのか良く解らない事なんだけど……。
シロウくんやカティちゃんの話だと、多分魔力を代償にしてると言う話。
なんとわたし……魔力自体がないのかと思ってたけど、ちゃんと魔力器官も魔力回路もあって、それも常人を遥かに凌駕するレベルだったらしい。
結論として、この力は魔術の一種なのは確実。
それは、間違いないのだけど……現存するどの魔術体型と比較しても、明らかに異質のもの……。
まぁ、要するに良く解らない……。
この辺は、古文書なんかにも記載がなかったから余計解らない。
この能力のオリジナルと思わしき、魔王の使徒クロ様本人にでも会えれば、色々教えてもらえるかもしれないけど……過去の人だからねぇ……。
暗殺者を撃退した黒い刃とか、時計塔を消し去った黒い球体についても良く解らない。
あれは、わたしの意識に関係なく発動されており、言わば半ば能力の暴走に近い。
正直、制御できる気が全然しないし、こんな洞窟の中で検証なんて危険すぎる……。
とにかく、あれは……今は触れないことにした。
暇だったから、わたしも二人に色々魔術を教えてもらったんだけど……魔術のたぐいはやっぱり、わたしには使えなかった。
この辺は、皇城に居た頃に、本物の魔術師から色々教わってたから、魔術の基礎理論とかは理解できてるんだけど、実践がまるで駄目だった事から、予想通りだった。
魔術師となる場合に最初に行う、魔力器官覚醒の儀式も、その皇室付きの魔術師の話だと、底の抜けた樽に水を注いでるようなもので、いくらやっても上手く行かないと言われて、早々に諦めたんだけど……。
シロウくんの話だと、単純にわたしの魔力器官の許容量が大きすぎて、その魔術師の全魔力でも届かなかっただけなんじゃないかって話……なんか納得。
その代わり、マジック・キャンセラーと呼ばれる対魔術術式は、何もせずとも自動発動する事が判明。
自分に向けられた場合は、わたしの意志関係なく自動発動、わたしが脅威と認識した場合も同様に即時発動。
元々、マジック・キャンセラー自体がほとんど即時で発動されるもので、しかも、私の場合その出力は桁外れ。
……シロウくんの推測だと、大規模儀式魔術を容易に粉砕するくらいだと言う。
わたしが魔術を使えないのも、このキャンセラーが常時発動してるようなものなので、それが原因だって言われた……。
カティちゃんの「清めの法」とかは、無害だからキャンセルされなかったんだけど。
実は効果がイマイチな上に、カティちゃんも謎の暴発多発で困らせちゃったりしてた。
結局、わたしだけ服全部脱いでから、服だけ綺麗にしてもらってたんだよね……。
もちろん、物陰に隠れたり、テントの中で体拭いたりしながら、奇麗にしてもらうのを待ってたりとかしてたんけど……。
行軍中に転んで、泥まみれになって、森のなかで全裸になる羽目になったのは、なかなか恥ずかしかった。
川で水浴びした時もそうだったけど、普段、服で隠れるようなとこにお日様が当たったり、風が当たるのって、なんとも言えない感じなのよね。
でも……もうこれは慣れるしか無い! カティちゃん、今後もよろしくなのです!
それにしても、有益な魔術も阻害するって、なかなか酷いなぁ……。
これじゃ、わたしが病気になったり、怪我したら治してもらえないかも……と思ったんだけど。
病気については、あれほど病弱だったのが嘘みたいに、健康体になっちゃったし、致死量の毒物摂取してケロッとしてる時点で、人間としておかしいような……。
怪我についてもコケて躓こうが、頭ぶつけようが、かすり傷どころか、たんこぶ一つ出来ない……。
そう言えば、お城で全力疾走して壁にぶつかったら、壁のほうが壊れちゃったもんね……。
怪我や病気もしないんじゃ、聖術も意味がない……実際、清めの法とか生活魔法くらいしか、わたしの役には立ってない……。
いや……もう、気にしないほうがいいかな。
ついでに言うと、先の戦いで敵の魔術師が魔術を暴発させてたんだけど……あれも、実はわたしの仕業だったと言う。
あの時、確かにわたしからも様子は見えてて、危ないって思ってたんだけど……そう思った瞬間、相手の魔術師が爆発した……。
軽く200mは離れてて、呪文唱えたりとか、何もしてなかったから、てっきりシロウ君の仕業か、相手のヘマかと思ってたんだけど……。
実際のところ、あの時、シロウくんも相手の魔術に対抗しようとしてたらしいんだけど。
相手は、魔力結晶と言う一時的に魔力を上乗せする魔道具を使ってたらしく、魔力ブーストした上での力技で超強力な魔術を練り上げようとしてて、シロウくん一人じゃ太刀打ち出来ない状況だったんだって。
……実は、結構危うかった。
わたし、自分でも気付かないうちに超ファインプレー。
なんか、ワイバーンの上では、大惨事が起こってたけど……たぶん、考えたら負けだと思う。
そう言う事なら、確かにわたしのせいなのかも知れないけど。
……そんな、暴発したら仲間諸共吹っ飛ぶような無茶な魔術を使おうとする方が間違ってるし、要は相手の自滅みたいなもんだから、そこまで責任なんて持てない。
何より、それがお兄ちゃん達の頭上で炸裂してたら……なんて、考えただけでもゾッとする。
けど……少なくともわたしも、それなりに役に立つのも解ったし。
能力の秘密が色々解ってきたのは、多分収穫だよねー。
ちなみに、本編中でアイシア様が言ってる戦闘部隊と兵站部隊の比率は普墺戦争時の数値を参考にしてます。
まだまだ騎兵がパカラってた時代で、武器水準的には似たようなもんなんでこんなもんかなーと。




