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第二十三話「囚われのアイシア様」③

 背中の曲がったかなり年のいったエルフが、洞窟の入り口の方からゆっくりとこちらへ歩いて来る。

 

 エルフ族って、500年くらい生きないと老け込まないって話なんだけど……ここまでの年寄り風となると、長老格とか相当長生きしてるエルフなんだと解る……貫禄もあって、まさに長老って雰囲気。

 

「リドルくん、見張りのお勤め、実にご苦労じゃのう……。悪いが、少しだけ席を外してくれんかな? もし、誰かに咎められたら、ワシからそう命じられたと答えればよいぞ」


「解りました! では、仰せのままに!」


 牢番のリドルさん、わたしと目が合うと、もう大丈夫! とでも言いたげに微笑むと、早足で洞窟を出ていってしまった。


 長老風のエルフだから、てっきりわたし達を監禁するように指示したエルフだと思ってたのだけど……。

 やっと話になりそうな人が出てきたようだった。

 

「いやはや、エドワーズ君! 久しぶりじゃのう……こんな形で会うことになって、誠に心苦しい限りじゃ……」

 

「ランドロフィ様……お久しぶりです……リーザには、いつもお世話になりっぱなしです」


 お兄ちゃんがやけに丁寧に対応している。

 どうも、顔見知りとかそんな感じみたいだけど……相当偉い人のようだ。

 

「あの人知ってますよ……確かリーザお姉ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃん、そのまたお爺ちゃんくらいの方で、700年くらい前から生きてる長老様らしいです」


 カティちゃんが説明してくれる……エルフは長命で100年も掛けて成熟する上に、子供も滅多に生まれないらしいのだけど、えっと……?

 

 6代くらい前……でいいのかな? なんかもう……訳が解らない。

 

「ほほほ……そちらのお嬢様方も、此度は大変申し訳ない事をした……このような扱いワシらも不本意でな。……ちょっと下がってくださらんかな?」


 そう言うと、ランドロフィさんは、両手をパンっと合わせて、呪文を唱える。

 牢を形作っていた太い蔓がスルスルと地面に引っ込んでいき、フルオープンな感じになった。

 

 ……一応、牢屋から出てもいいって意味かな?

 

「これで少しは風通しがよくなったであろう。客人を牢に閉じ込めるなんぞ、エルフ族の恥であるからのう……。出来ればこんな所ではなく我が家にでも招待し、宴の一つでも開いて歓待したいところじゃが……ちと色々訳ありでな。今はまだ、この洞窟から出してやれんのじゃよ。ワシでも、これくらいが精一杯なんじゃ……すまんのう。エドワーズ殿もこちらにいらっしゃるといい……ロクな説明もなしにこのような扱い……大変、申し訳なかった」


 そう言いながら、ランドロフィさんはわたし達のいる牢屋の中に入ってくるなり、ペコリと頭を下げる。


「いえいえ……何か複雑な事情がおありなのは解りますから、ランドロフィさん……顔を上げてください」


 この人は悪くないって事は何となく解るので、さすがに申し訳なく、慌てて止める。

 エドお兄ちゃんもわたし達のいる牢屋の方へ入ってきた。

 

 思わず、抱きつきに行きたくなったけど……そこら辺は……まぁ、自重。


「ランドロフィ様、まずはご紹介させていただきます。この御方こそ、帝国皇位第三継承者のアイリュシア様です……端的に言えば、我が主君と言ったところですね」


 そう言って、わたしの隣に立つと、大袈裟な感じで膝をつきながら胸の前に片手を当てて、紹介してくれる。


 お兄ちゃんの仕草は芝居がかって、なんとなくカッコイイんだけど。

 ……何て、大袈裟な紹介なんだろう……ちょっとわたし、偉い人になった気分。

 

「おお、貴女様がアイリュシア様でございましたか! うちのリーザが大変お世話になっているそうで……それにあの絶滅種のメリオラ草をこの世界に蘇らせてくれたと聞き及んでおります! おかげ様で我が一族カルルシュワ家の者達も数多く救われました……。全く感謝の言葉もありませぬ!」


 そう言って、今度はひれ伏すランドロフィさん。

 ……さすがに、いきなりこんな調子じゃ、こっちも困惑せざるを得ないよ?

 

「えっと……エドお兄ちゃん……わたしどうすれば?」


「……こう言う場ではどうするんだったかな? 彼の名はランドロフィ……エルフの村の代表格、齢700歳の最長命エルフの一人……権威的には、王侯貴族にも匹敵するようなお方だぞ?」


 なるほど……つまり、ここは気合い入れて、皇女様を演じろと言うことね?


 よしっ! わたしの本気見せてやる!

 

(……わたしは、偉い人……わたしはカリスマ……民達よ跪くのだっ! ん……なんか、来たよ! 来たよーっ!)


 瞬間……世界が変わった……ような気がした。


 自分が一回り大きくなったような……。

 全能感とでも言うのだろうか……今なら何でも出来そうな気がしてくる。

 

 普段はユルいわたしだけど、本気になれば王侯貴族のような所作だって、造作も無いのだ。

 

「お顔を……お上げください……ランドロフィ殿」


 静かに、厳かな口調で告げる。

 何故か、その瞬間ランドロフィさんや他の皆が息を呑むのが解った。

 

 お兄ちゃんが膝をついたまま、頭を下げて臣下の礼を取ると、それまで好きなようにしていた男の子たちや、ソフィアちゃんやサティちゃんや達まで、同じように跪いていた。

 

 凄いな……皆、打ち合わせもなく合わせてくれるなんて、ここはちょっと頑張りどころ!


「ははっ! アイリュシア様……お会い出来て、光栄の極みでございます! この度は大変、誠に無礼な真似を……平に平に……ご容赦願います!」


 ランドロフィさんはもう、地面に額を擦り付けんばかりだった……。

 と、とりあえず、こう言うのって苦手だから止めてもらおう。


「……その方らにも事情があるのは、妾も理解しております故……まずは頭を上げてください。皆の者も、彼を責めることのなきようお願いします。……これは、些細な行き違い……誰も悪くない……そうですね?」


 そう言って、自分も跪いてランドロフィさんに手を伸ばす。

 

 ちらりとお兄ちゃんを見ると、拳を握りしめて頑張れって言ってくれてるようだった。

 うん、わたしだって皇族なんだから、こう言う場面では役目をやり遂げなきゃね!

  

「あ、ありがたきお言葉……ワシのような老骨には勿体なきお言葉……」


 そう言って、ランドロフィさんは感涙を隠せずに、わたしの手を取ると再び、跪いた。

 

「よしなに……エドワーズ卿、ちょっとよいかな? 側に……手を……」


 なんとなく、立ちくらみがしてきたので、お兄ちゃんに助けを求めてみる。

 ……うう、やっぱ……これ疲れる。


「……総員、アイリュシア殿下へ敬礼っ!」


 お兄ちゃんがそれだけ言うと全員がお兄ちゃんに倣って、一斉に立ち上がると揃った帝国式の敬礼を決める。

 

 ゆっくりとお兄ちゃんがわたしの隣に来ると、そっと肩を抱きかかえてくれる。

 フニャフニャと脱力しそうになったところで、倒れないようにと抱き寄せて支えてくれた。


 うわぁ……かつて無いほどに距離が近いっ! 体温が伝わって来るくらいの超至近距離!

 

 わ、わたしのドキドキ、バレませんようにっ! ……でも、ここは甘えていところだよね。

 

「……お疲れ様、良く頑張った」


 小声でボソリと言われたので、ちょっと疲れたんだけど、応えるようにニッコリと笑った。


 今回は、途中で終了しなかったよ?

 ……この調子で、次は10分位頑張って、演説くらい出来るようならないといけない。

 

 うん、なんか課題ができたね!

 

アイシア様、カリスマモードです。(笑)


地味に、これ……彼女の持つチートの一つだったりします。

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