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第二十二話「美味しく焼こうワイバーンステーキ」①

 改めて、シーリーも招いた上で全員で焚き火を囲んで、皆で晩飯を食う。

 スタンボルトもちゃっかりと輪の中に加わって、シーリーに絡んでは素気なくされてしょげていた。

 

 いや、スタンボルトのおっさん。

 あんた……シーリー来る度に変なセクハラ発言しては、ドン引かれてるじゃないか。

 少しは学習しろっての……。

 

 まぁ、徹底してノータッチを貫いてる辺り、何というか……紳士と言えなくもないが。

 

 俺としては、こんな大人にだけはなりたくない。

 

 もう一人の大人……シュタイナは我関せずと言った調子で、今も周囲を警戒してくれているらしい。

 あの人は……普通にカッコイイからな。

 

 経歴も謎、顔すらめったに拝ませてくれないんだけど……そのストイックな雰囲気に憧れてる女性陣も少なくない。

 実は、魔王の眷属と言われる魔族の末裔なんて噂も聞くんだが……魔族と言っても外見は普通の人間と変わりがないらしいし、本人の口からは何も聞いてないので、その辺は良く解らない。

 

 何にせよスタンボルトもそう言う方向性で行けばいいのに……渋い男ってのは背中で語るって、アレクセイも言ってたぜ。

 

 まぁ……あのおっさんは、渋いと言うよりハゲ親父なんだがね。

 あのおっさん、アイシアと入れ替わりで皇都へ喜々として向かっていったんだが……本気で引退するつもりなんだろうか。


 ぜってぇなんか企んでると思うんだが……一応、義理の息子の俺にくらい相談しろってんだ。

 

「はい、アイシア様……お肉焼けましたよ! シーリーちゃんも食べて! エドお兄ちゃんも! みんなの分もどんどん切り分けてくからちゃんと待つのよっ!」


 取り皿に分厚い肉が乗せられて手渡された。

 

 ちなみに、ソフィアはこの手の焼肉だの鍋をやると、そりゃあもう仕切る!


 鍋奉行ならぬ、網奉行とでも言うのだろうか? なお、焼き加減はもれなく、よく火を通したウェルダンになる。


 なお、逆らう権限はない……。

 我々は大人しく雛鳥が親鳥の餌をもらうが如く、口を開けて順番を待つ事だけが許されている。


 ああ、網奉行。


 網奉行とはかくも偉大なる存在か……。


「ありがとう……けど、なんでソフィア……お前までお兄ちゃん呼ばわり?」


 どうでもいい思案に耽って、思わず聞き流すところだったが……確かに、エドお兄ちゃんって言った。

 久しぶりに、その呼び名を聞いた気がした。


「あ、なんか……アイシア様と話してたら伝染っちゃったみたい……あはは、さすがにもう、お兄ちゃんはないかー」


 照れくさそうにソフィアが返す……確かにちょっと前までそうだったな。

 アイシアにお兄ちゃん呼ばわりされても、あんまり違和感ないのは、それもあるのかも知れない。


「私達、戦災孤児の子達は皆、エドさんのことはお兄ちゃんとか兄貴とか呼んでますよ? 小さい子は皆そうですし、リッキーさんもエドの兄貴っていつも言ってますもんね」


 カティが得意そうにそう言う……そういや、リッキーやシロウもエドの兄貴呼ばわりだしな……。

 ソフィアもちょっと前まで、俺のことをお兄ちゃんとか言って付き纏ってたしなぁ……今やすっかり、リトルマムなメイドなんだが。

 

 そう言えば、宿舎の連中はソフィア抜きで大丈夫だろうか?

 シシリアおばさんが面倒は任せろとか言ってたけど、どうなってることやら。

 あの人、とにかく口うるさいから、きっと宿舎の大掃除とか始まってそうだ。


 ちなみに、シシリアおばさんはメシマズで有名。

 

 旦那で冒険者やってるモンテカルロさんがいつも嘆いてるんだけど……猫のエサの方がまだマシとの事。

 

 ……宿舎の連中が飢えてませんように……。


「お、俺は別に……そう言うつもりじゃっ! ゲヘッ! ゴホッ!」


 自分の名前が出たことで、リッキーが何やら言い訳をしようとして、むせ始めた……ソフィアが慌ててその背中を擦る。

 

「もうっ! 口の中に物を入れながら喋るからそうなるのよっ! ホント、世話が焼けるわねっ!」

 

 さすが、実姉……リッキーも戦闘じゃ滅法頼りになるけど、ソフィアにはからっきし弱いからな。

 

「ええっ! そうなの? エドお兄ちゃんはわたしだけの特権だと思ってたのに……」


 アイシアが不満そうに声をあげる……別に特権でもなんでもないのだけど……どうやら、特権のつもりだったらしい。


「僕らがこうして冒険者なんてやってられるのも、エドさんのお陰ですからね。それに僕らは皆、兄弟分みたいなもんですから……アイシア様には申し訳ないけど、僕らにとってはエドさんは皆の兄貴って感じなんですよ」


 ロボスが感慨深そうにそう言う……まぁ、俺としてもこいつらは全然他人じゃないからな。

 

 戦乱で帰る家もなく家族も皆居なくなって……グランドリアの路地裏で、身を寄せ合って震えてたこいつらを見た時、自分と同じだって思ったら、居ても立っても居られなくなったから……。

 

 つい、「俺がお前らの兄貴になってやる!」なんて言っちまったんだよな。

 

 おかげで、100人近い弟、妹分を抱え込んじまった訳だが……別に後悔なんかしちゃいない。

 

 そんな俺にアレクセイの親父も何も言わず、色々手回しとかしてくれたんだがな。

 何だかんだで、あの野郎もいい親父してたんだよな……まったく。


「そ、そうだな……俺もついついエドの兄貴って呼んじまう……な」


 リッキーが何とも照れくさそうに呟く。


「ああ、そっか……そう言えば皆、戦争で……」


 アイシアが伏し目がちで申し訳なさそうに呟く。

 彼女は確かに、こいつらに比べたら恵まれてるからな……。


 皇帝陛下なんて、物凄い父親がいて……関係はともかく兄弟は大勢いて、何不自由なく……とは言いがたかったにせよ、少なくとも食うのに困ったり、寝床の心配をするような事はなかっただろう。

 それに帝国と言うこいつらにとっての加害者の代表と言ってもいい立場。


 けど、そんな事で引け目を感じて欲しくない。

 

「……気にするな……こいつらだって、気にしてない……だろ?」


 俺がそう言うと、全員が一斉に頷く。

 

「はいはーいッ! 私、そもそもエルフで、アイシア様は命の恩人なんで全く気にしませーん! それに私にとってもエドはお兄ちゃんみたいなもんなんで……私もエドお兄ちゃんって呼ばせてもらいまーす!」


 この場の最年長者がそうのたまう。

 ……見た目だけ子供だけど、年齢的には立派に年寄り……精神的には子供同然なのだけど。


「年下にお兄ちゃんはまだ許せるが、自分の年齢の数倍の奴にお兄ちゃん呼ばわりされる筋合いはないぞ?」


 まさに道理である……どう考えてもおかしい。


「あうあう……ね、年齢で差別するなんて、良くないのっ! 亜人差別ってヤツです! けど、そんなクールなお兄ちゃんの意地悪も愛情の裏返しだと思えば……もうっ! 照れ屋さんなんだからっ!」


 そんなセリフと共に、肘で小突かれる……わざとなのか知らんが、体重を載せた的確な一撃なので結構痛い。

 

 冷たくしようが、拒絶の言葉を投げかけようが、何を言ってもポシティブ解釈されて、これっぽっちも怯まない……それがシーリーッ!

 

 もうやだ、このポンコツエルフ……もう好きにしてください。

 

 思わず、アイシアと目が合うと苦笑される。

 さすが、そろそろ色々解ってきたらしい。

戦い終わって、つかの間の平和って感じです。

ソフィアちゃんみたいなコって、リアルにいますよねー。


火加減、焼き加減、取り分に至るまで全部一人で仕切っちゃう。(笑)

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