第二十一話「異文化コミュニケーション」①
「ああっ! この匂いたまらないっ! ……エドが来るなんて聞いてなかったけど、私に会いに来てくれたの? 嬉しいっ!」
好意を隠そうともしないシーリーの様子に、ホスロウもやれやれと言った調子で肩を竦める。
「ああ、お前か……なんだ、ずいぶん遅かったじゃねぇか」
予定では昼間のうちに俺達と合流する手はずだったのだが……。
ちなみに、こいつとは色々あってめちゃくちゃ懐かれているので、会うたび毎回こんな調子だ。
エルフ族の中でも若手で、背丈はアイシアとどっこいどっこい……つまり、子供サイズ。
……なんだが、エルフ族は長命な上に体の成長も遅いので、実際は俺より遥かに年上らしい。
「いやぁ……リーザ姉さんがいきなり戻ってきて、長老達と色々やりあっててさ! こっちもなかなか動けなかったんだよっ! これでも急いだんだからねーっ!」
「そっか……まぁ、別に心配はしてなかったがな」
「……にしても、何事? こんな人数で樹海におしかけて……聞いてないし、それに銃声が何発もしてたけど、何があったの……?」
ひとまず、シーリーに樹海での一件を説明する。
帝国騎士共については、むしろこいつらが見つけてた方がややこしい事になってたのは確実。
俺達が始末したことについては、当然ながら文句の一つもない……むしろ手間が省けたとでも言わんばかりだった。
今でこそ、リーザ達のおかげで、俺達冒険者ギルドの許可を受けたものであれば、樹海への侵入が許可されているのだが……かつては、人間が入っただけで問答無用で殺されてたのだ。
もっとも、立ち入ることが許されているのは精々10km程度の樹海の入り口と言える範囲で、入れる人数も制限されている。
木の実やらきのこ拾い、薪拾いなどは許されているが、ある程度の大きさの木々の伐採は許可が必要。
獣を狩る場合についても、エルフ独自の狩っていい動物と、狩ってはいけない動物やら、子持ちを狙わず年寄りを狙えだの……連中の細かい掟に準拠するよう取り決めがあり、その辺なかなかうるさい。
うちの冒険者連中もそんな細々とした決まりごとには辟易してるし、別に巡回しててイチイチ咎めに来たりする訳でもなく、罰則規定なども設けられていないのだが。
その辺は、樹海へ入る時のルールとして、徹底させている……違反者に対しては、シンプルに許可証の没収と言うかたちでの、事実上の出禁とさせてもらっている。
要するに、向こうの流儀にこちらが合わせているのだが……そう言う姿勢が大事なんだよな。
この樹海関係の仕事は、俺達グランドリア冒険者ギルドの主要な仕事と言っても過言じゃない。
……食材採取に薪集め、材木の伐採……そんな用件で樹海に入る街の人々の護衛やら、定期的な魔物狩り……エルフ族の村で商売をする商人の護衛も良くある依頼だ。
なお、今回のように、大勢で樹海に立ち入る事は本来許可されていないのだが、何事にも例外という物がある……後日詫びの品でも持っていけば事後承諾と言う形で問題視はされない。
ここまでの友好関係に持っていくのに、それなりの時間や金もかけているのだが。
アイシアの功績を喧伝することで、さらに関係を前進させていただきたいものだ。
「……まぁ、そんな訳で、帝国軍と一戦交えて、後始末の真っ最中って訳だ……ワイバーンの素材で良ければ、迷惑料代わりに持っていって構わんぞ」
「おおおっ! ワイバーンいいねぇっ! あいつらって、なかなか空から降りてこないから、私らもなかなか仕留められないの……牙と骨があまってたら、ちょうだいっ! 村の守りに新しい竜牙兵作りたいねって、自警団の皆と話してたところだったんだぁ! あとお肉とかもらえるかな? あれ美味しいんだよねー! こんがり焼けたお肉食べたーいっ!」
ちなみに、エルフの村の守り手として、冒険者を定期的に派遣しているし、若手エルフの何人かも冒険者登録しており、実はこのシーリーもそんな冒険者の肩書を持つエルフのひとり。
なので、割と気楽に街へとやってこれたりする……こいつらは若い分、好奇心も旺盛でむしろ外に出たがっている。
保守的で頑迷な長老連中も少しは見習えと言いたい。
こう言う地道な活動が異種族、異文化との友好への近道なのだ……まぁ、この辺はホスロウに教わったやり方なんだがね。
あっちじゃ、全うな人間のほうが少数派……獣人との混血やら、エルフだのドワーフのような亜人だって当たり前……しかも、その上……魔王の眷属の末裔と言われる魔族なんて種族すらもいる。
一方、帝国は古来から人間至上主義を掲げており、もはやそれは国是となっている。
そして、帝国に追いやられた人々が手を組んだのが西方同盟の始まりとあれば……どうやっても相容れない関係にもなるだろう。
「ワイバーンの肉なら、向こうで焼いてるはずだな……よし、せっかくだからアイシア様に紹介してやるよ! 一緒に飯でも食ってけ! 話は聞いてるんだろ?」
「リーザ姐さんから一通りの話を聞いてるよっ! お恥ずかしながら、私も緑班病で死にかけたクチでさ……是非、お礼を言わねばって思ってたの……と言うか、ご本人様来てるの?!」
「あれ? 言ってなかったか? まぁ、そう言う事ならなおさら、挨拶しとかないとな……ホスロウ、すまんがここは任せていいか?」
「ああ、構わんぞ……そうだな、あんまりほっとくと殿下が拗ねるんじゃないかって、内心心配してたんだ……むしろ、さっとと行ってやれ!」
現場の仕切りを快諾してくれたホスロウに見送られて、シーリーと共に死体処理現場を後にする。
うちの冒険者連中は西方系の者も多いので、西方系の連中の顔役とも言えるホスロウとは顔見知りも多い……ホスロウの部下たちも手伝ってくれているので、問題はないだろう。
「ふふん、人間の出迎えとか気が進まなかったけど、エドなら全然オッケー! ねぇ、夜の森って冷え込むからさ……野営するなら、一緒の毛布に包まって寝ようよっ! うふふ……エド、だーいすきっ!」
ドスンと体当たりをされながら、腕を組まれる……ほんと、何がしたいんだ……コイツ。
と思っていると、腕まくりをしていた二の腕に何とも異様な感触。
見ると、シーリーが俺の腕をペロリと舐めていた。
「うぉおおっ! 鳥肌立つだろうか……お前は犬猫か! いきなり人を舐めるなっ!」
「ああんっ! 怒らないでっ! 夜まで我慢できなかったのぉっ!」
……何言ってんだコイツ? そのうち、俺食われるんじゃないのか?
繰り返しになるが、コイツは俺より年上で推定年齢五〇歳くらい。
そこんとこ、よろしく。
新キャラ、ロリエルフことシーリーですね。
超アグレッシブです。(笑)




