第十八話「慢心のツケ」
「確実にっと……了解、了解。どっちみちコイツはあたしの獲物だからね……言われずともやっちゃうよっ!」
俺の言葉に軽い調子でサティがそう返すと戦闘を再開する。
……殺せ! なんて、意趣返しとばかりにカッコよく言ったものの……帝国騎士。
思ったより腕が立つようで、相対するサティも決め手にかけるような様子。
獣人の血を引くサティのあれだけの連撃を的確に受け流し、虎視眈々と反撃のチャンスを伺っているようだ。
援護しようにも、白兵戦で切り結んでる最中に援護射撃とか、味方撃ちの危険のほうが大きい。
バケツ騎士も巧妙に立ち回っているので、リッキーやロボスもなかなか間合いに入れないようだった。
木々や灌木をうまく使って、常に動き回る事で死角をなくしている……思った以上に実戦慣れしてる……それに多人数相手の戦いにも慣れてる様子だった。
今もサティの剣を弾きながら、背後に回り込もうとしたリッキーを回し蹴りで追い払っている……。
それにその甲冑も多層複合素材装甲の耐弾仕様の物のようだ。
……複数枚の装甲板で松脂を挟み込む事で弾丸を絡め取り衝撃を分散する事を意図した物……だったかな。
もっとも、そんなもんで銃弾を止められたら誰も苦労しない……。
最前線の貴族将校の損耗率の高さに、軍管部が音を上げて作ったのはいいものの……運が良ければ、役に立つとか……そんな程度の気休め程度の代物だったと言う話だった。
こちらの防弾盾だって、規格外のモンスター素材なんぞ使って初めて、携帯出来る防弾盾を実現出来たのだ……その程度には銃弾対策というのは難しい。
とは言っても実際にあれで大戦を生き延びているのも事実。
案外一発位なら耐えるのかもしれない……。
何より妙に丸みを帯びた形状をしてるので跳弾して、味方撃ちとか最悪だ。
それを考えると、やはり下手に手は出せない……時代錯誤に剣一本だけを頼りにしているだけのことはある。
散々コケにしておいてなんだが、腕利きなのは認めよう。
コイツを仕留めるには、計略にハメるか、もっと強いカードをぶつけることだな。
「ったくしぶといなぁ! ごめんね……バケツさん! 大人しくあたしの手柄首になってね! 必殺! 双連撃っ!」
軽口と共にサティは、くるりと回転しながら、双剣を揃えて騎士の首筋を狙う!
一の剣をあえて防がせておいて、続けざまの二の剣で仕留める連続技……それ自体は悪くないが、ここで勝負決めると言うのは、さすがに侮りすぎだ!
バケツ頭の闘気は全く衰えていない! これはマズい!
「ふ、ふっざけるなぁあああっ! この小娘がぁあああっ!」
……怒り狂った騎士の渾身の一撃は凄まじく……とっさに双剣を交差し、まともに受け止めたサティがパワー差に押され、俺めがけて、すっ飛んでくる。
「うわっ! きゃああああっ!」
思わずとっさにサティを受け止めたせいで、諸共に吹っ飛ぶ!
「いってぇ……サティ……遊んでんなって言っただろ……ったく、大丈夫か?」
一応、頭は抱きかかえてガードしてやったから大丈夫だろうけど……こっちが無事じゃない……肘とかあっちこっち擦りむいてるし、思い切り腰打った!
「ごめんごめん! 助かった! いやぁ……あのバケツ頭、結構強いわぁ……まぁ、師匠ほどじゃないけど! よっしゃぁっ! 燃えてきたっ! ぜってー殺すっ!」
悪びれた様子もなく、サティが起き上がろうとする……。
「ったく……熱くなってんじゃねぇよ……もっと冷静にやれって、言ってんだろ?」
思わず、目の前にあったケツひっぱたいてやったら「ひゃぁん」……なんて言われて、ふくれっ面で睨まれる。
とにかく、バケツ頭との体格とリーチの差は歴然だからな……むしろ、タイマンでここまで時間を稼いでくれただけでも上出来。
戦術パターンを変更して、ここは足止めに徹して、スタンボルトあたりの到着を待つ……これで行こう。
余計な怪我人も死人も御免こうむる……強いやつにはより強いやつをぶつける……当然だ。
まだまだやる気のサティに、無理するな……と声をかけようとする。
「#$$&&&$! ワイバーン! こいつらを踏み潰せ!」
まるで獣の咆哮のような騎士の声と共に、火傷の痛みでのたうち回っていたワイバーンが、弾かれたように起き上がると、こちらに向かって突撃してくる!
下位竜族語……アイシアの言っていた強制命令用の特殊言語か!
あの様子だと、傷の痛みを忘れさせるほどの強制力があるようだった。
どうやら俺とサティ……共々に轢き潰すつもりだっ! 思わずワイバーンと目が合う!
「くそっ! やられてたまるかっ! サティっ! ここは逃げの一手だっ! 急げっ!」
慌てて立ち上がると、サティを促して、ワイバーンの突撃コースから逃れようとする。
このタイミングと距離ならギリギリ避けられる……けれど、次の瞬間、耳をつんざくような盛大な咆哮が轟くっ!
……その時点で、身体の力が抜けきっていることに気付いた。
竜の咆哮……まともにそれを耳にしたものは暫くの間、身体が硬直してしまうという話だったが……まるで糸の切れた操り人形のように、俺はその場に崩れ落ちた。
リッキーやロボスも完全に棒立ちになって座り込む……たぶん、シロウも同様……味方の援護は期待できない!
サティも俺同様、くたりと脱力した様子で俺の方へ倒れ込んでくる……これは……極めてヤバイ!
(……死ぬ? こんなところで……この俺が?)
冗談じゃない……けれど、突撃してくるワイバーンと言う確実な死はもはや止めるすべもない。
単純ながら、絶望的な壁。
倒れ込みそうになったサティを抱きとめ、何とか逃げ延びようと必死で身体を動かそうとするのだが……まるで身体が鉛にでもなったかのように、這いずるのがやっとだった……。
「ちっきしょぉおおおおっ!」
思わず、悪態が漏れる……けれど、次の瞬間……!
背後から立て続けの銃声が響き渡ったッ!
むしろ、このタイミングだからこその引き。




