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第二話「皇女殿下のはじめてのおつかい」②

 お金の使い方も解らない……地図も読めない……孤立無援で誰にも頼れない。

 

 お城を出る時は割りと、自信満々だったけど、実際はこの体たらく……。

 

 こんな時は……もう神様にでもお祈りをしよう……と思ったけど、わたし達皇族には、そんないるのかどうか解らない神様に祈るような習慣なんて無い。


『祈ってる隙があるなら、動け!』


 ……それが我が家の家訓だ……ご先祖様の誰かの言葉らしいけど。


 とは言え、現実的に自力でどうにもならない以上、ここはもう誰かに助けを求めるしかない。

 けど、頼みのアレクセイ氏のところに辿り着けないので、困っているわけで……。

 

 ……その辺の一般市民にいきなり話しかけるとか……さすがにハードル高すぎた。

 いっそ金貨押し付けて、串焼き屋のおっちゃんをガイドにとか思ったけど、めっちゃ忙しそうだし、目が合ってすごい形相で睨まれたんで止めた。

 

 わたしは元々インドア派の引っ込み思案……本の中の世界で空想に浸るとか、夢見る乙女だったのだ。

 

 困ってるアピールでもしてれば、誰か声かけてくれるかなーと思って、地図と人混みを交互に見てみたりするのだけど、誰もこっちを見ようともしない。


 それどころか、むしろ目をそらされる始末……あまりにも酷い仕打ちに、また涙が出た。

 立ったまんま泣くとか、アレなので座り込んで膝を抱えて泣いてみた。

 

 物語なんかじゃ、ここで救いの手が差し伸べられる……そんな事を期待したんだけど……結果は総スルー。


 ふざけんな……話が違う。

 紳士を名乗る以上、泣いてる女の子を見たら、手を差し伸べるべきだろ。


 けど……一瞬、視線を感じて、顔を上げるとメガネをかけたダークグレーの長髪をゆるく縛った優男さんと目が合った。


 歳も見た感じだと、わたしと大差ない……少し子供っぽい雰囲気が残ってるから、16とか17とかそんなもん……20代じゃなさそう。

 

 通りの向こう側のカフェテラスで、新聞片手に優雅に紅茶を飲んで、興味深げにこちらを見ていた。

 

 これだけ人がいて、誰もわたしを見ようとしない中、唯一反応してくれたのだ……ここは勇気を出して、道に迷ったから助けて……と言えば助けてくれるかもしれない。

 

 でも……知らない男の子に話しかけるとか……当たり前だけど、そんな経験ない。

 

 それに……目が合った瞬間、ドキッとしてしまったから余計に……だ。

 と言うか、男の人と話なんて、兄上や弟……父上……ほぼ身内だけのような気がする。

 

 近衛兵とか庭師の人達なんかとかは、挨拶程度……向こうも恐れ多いと言った様子なので、まともに話なんかしなかった。

 

 いっその事こっちまで来て、話しかけてくれないかなーとか思ったりするのだけど……。

 偶然目があっただけで、そこまで期待するとか夢見すぎ。


 そろそろ、現実を見ようか……わたし。

 

 そんなわたしのささやかな願いも虚しく、彼は周囲を見渡して、ため息をつくと紅茶を一口飲んで、また新聞に目を戻してしまう。

 

 はは……まぁ、そんなもんだよね……。

 物語みたいに都合よく白馬の騎士様が助けてくれるなんてなるはずもない。

 

 ヤバい……なんか、泣きたくなってきた。

 

「お嬢ちゃん、どうしたんだね? 道にでも迷ったのかい?」


「は、はいぃいいっ!」


 思わず上ずった声をあげてしまった……不意に声をかけられたから超驚いたけど、見ると人の良さそうな小太り気味のおじさんだった。

 

 むしろ、待望の助け舟だった。

 

 幸い守護者の力は発動しなかった……親切心で声をかけてくれた人を、問答無用で消し飛ばしたりしたら、わたしはもう立ち直れない。

 

 と言うか、今も一瞬……発動仕掛けたような気がしたんだけど……多分、わたしの意志で止めれた。

 

 ……セーフ!!

 

 声かけられたくらいで、ぶっ殺しとかやめてください……。

 と言うか、わたしの感情の起伏にも反応するのね……なんかおっかない……これ。

 

「おっと、すまないね……何やら驚かせてしまったようだ。なぁに、子供が一人で途方にくれてたみたいだからね。ちょっとした親切心だよ……どこから来たんだね? 割りといいとこのお嬢さんのようだけど」


 おじさんが慌てたようにしゃがみ込みながら、顔を覗き込んでいた。

 

 いけない、いけない……せっかくの待望の声かけなんだ!

 ……このピンチを脱出するんだ! わたし!

 

 それにしても、服装だけで身分とか解るものなのか……と改めて思う。

 

 適当に持ち出したお気に入りの黒いドレスに空騎兵用の軍用コートを羽織った姿なのだけど……。

 考えてみれば、仮にも皇族の着るものだ……素材の時点で一般人の着るものとは訳がちがう。

 

 そうなると、こんなのが当てども無く突っ立ってる時点で色々おかしい。

 

 無視されてたわけじゃなくて、関わりたくない。

 

 ……そんな風に思われてたのかと、今更ながら気付く。


 なにせ、貴族は平民を気まぐれで殺してもお咎めなしなのだ……残念ながら帝国はそう言う国。

 それがおかしいと誰も言えない程度には、この国は病んでいる……。

 

 チラッと先程の優男を見ると、何故か難しい顔をしながら、こっちを見ていた。

 

 途方に暮れてるいたいけな少女を見てるだけだった日和見野郎……お前なんかもう知らないっ!

 

 確かに、見た目もちょっといい感じだし、目が合ってドキドキしたのは事実だけど……わたしはそんなにチョロくない!

 

 軍権を掌握して、正式に要塞司令官に就任したら、就任パレードくらいするつもりだから、その時になってあの時、声かければよかったとか後悔するといいんだ……。

 

 とりあえず、優男のことは頭から追い出して、地図を見せながら、アレクセイ氏の名前を出してみると、おじさんは優しい笑顔を浮かべると、知り合いだから道案内してくれると言い出した。

 

 ……これが人の世の情けというものか……とまたしても泣きそうになりながら、わたしは大人しくおじさんの後を着いていくことにしたのだった。

やっと主人公登場!


と言うか、皇女殿下……結構、ポンコツ。(笑)

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