第十七話「帝国軍を殲滅せよッ!」②
さて……雑兵共は早くも全滅。
……地上の敵は、騎士を残すのみ……酷く一方的な戦いになっているが。
強カードを軒並み伏せた上で、包囲陣をしき、準備万端だった俺達と、わずか三人の女子供相手と舐めてかかっていた奴らとでは、戦う前から勝負なんて見えていた……。
上空でドンッと言う爆発音が轟く……籠の上で何やら爆発が起こったようだった。
シロウのやつが上手くやったらしい……上から爆発系魔法を放とうとした所へ、シロウの魔術干渉で暴発した……そんなところだろう。
現代の魔術師同士の戦闘は、如何に相手の魔術を解除無効化、或いは暴発させるかと言った勝負となる。
500年前の魔王戦争時代に、魔王の使徒よりもたらされたと言われる「魔術師殺し」とも呼ばれる「マジックキャンセラー」と言う魔術が広まったことで、魔術師の戦いの方向性は大きく変わってしまった。
魔術とは、何もない全くの無の状態から、意志の力と魔力を使って、様々な物理現象を引き起こす条理の外側にある力だ。
現代の物理科学では、その原理はほとんど解明できていないのだが、所定の手順を踏み、自らの持つ魔力を練り上げ、魔術触媒と呼ばれるその物理現象の元となる火種のようなものを使い、望んだ物理現象を引き起こす。
1000年もの時をかけ、培われた技術の一つであることは間違いない。
その破壊力は近代火器に匹敵するほどなのだが、その発動にはとかく時間が掛かると言う難点がある。
そのクセ、マジックキャンセラーはほぼ瞬時に発動し、同程度の実力の魔術師であれば、ほぼ確実にその魔術を打ち消す。
発動直前の魔力が臨界になった状態で喰らえば、高確率で暴発すると言う……魔術師にとっては、まさに恐るべき脅威と言えるものだ。
つまり、魔術師同士の戦いでは、後出しが圧倒的に有利なのだ。
その為、魔術戦では、相手が全く気づいていない状況を作り出し、不意打ちで一方的に撃破するのが理想とされている。
……だからこそ、敵を先に見つける探索魔術や、敵の目から味方を隠す隠蔽魔術などが発展しているのだ。
魔術師同士が戦う場合、潰されたり暴発させられるリスクがある以上、正面切った1対1の状況で無闇に大技は使ってはならない……それが魔術師戦闘の基本中の基本。
何も考えずに、軽はずみに大火力魔術を使うと、こうなる……どうもシロウの存在に気づいていなかったか、その魔力量を見誤ったか……いずれにせよ対魔術師戦闘の経験が浅いヤツだったようだ。
グラリと姿勢を傾かせて、火だるまになった籠の中の乗員をばら撒き、木々をへし折りながらワイバーンが墜落してくる! 予備の火薬に引火したのか、立て続けに派手な爆発が起き、ワイバーンが絶叫をあげる!
続けて、遠くから銃声が響く……遙か上空で待機していたもう一匹のワイバーンが……頭部に氷柱を何本も生やして、力なく真っ逆さまに落ちていくのが見えた。
あの様子からすると、氷結弾でのヘッドショットを決めたらしい……油断して停止状態だったのかもしれないが……。
空飛ぶ目標にピンポイント射撃とか……。
さすがシュタイナ……一番厄介そうだった敵をたったの一撃で仕留めてくれた。
錐揉みを始めたワイバーンの背中から、ゴマ粒のような何かが空中にばら撒かれているのが見える……恐らく籠に乗っていた兵士たちだろう。
あの高さじゃ、全員助かるまい……籠に乗ってた10人が一個小隊だとすれば、同数の敵が戦わずして消滅。
予備兵力のつもりだったか、俺達を侮って戦力の出し惜しみをしたか……いずれにせよ甘くみて安全地帯で余裕ぶっていたツケは高く付いたと言う話だ……馬鹿共が。
流石に先に落とされたワイバーンはまだ生きているらしく、ジタバタと暴れている様子だが、予備兵力を仕留めた以上、敵はもはやサティと切り結んでいる騎士のみ。
ワイバーンに残っていた奴らも、操手はワイバーンの下敷きにでもなったらしくワイバーンの背中の染みと化しているし、魔術師らしき方は木の枝に突き刺さったボロ雑巾のような状態で、ぶら下がっている……。
装填手は、地面に叩きつけられて即死したり、火だるまになりながら、暴れるワイバーンに潰されたらしかった。
ワイバーンも翼が折れており、もはや飛ぶこともままならないだろう……。
敵も総勢20人はいたはずだったが、蓋を開けてみれば10分と持たずにほぼ全滅……。
盗賊団のほうがまだ手強いような気がするが……。
俺達にとっては、ホームグラウンドとも言える樹海、銃撃戦を想定しながらも近接戦に特化した装備。
万全とも言える準備の上での奇襲……圧倒的に有利な状況での戦いである以上、負ける要素なんてなかった。
向こうは装備からして陸戦向けではなく、指揮官も指揮統制を放棄して予備戦力を有効活用すら出来なかった。
これは明らかに指揮官の判断ミス……いや、もはやここまで来ると無能としか言いようがない……。
「ば、馬鹿な……一瞬で我が隊が全滅し、第二小隊までも落とされた……だと! 我が精鋭たちがいとも簡単に……あり得ん! 貴様! どれだけ伏兵を伏せていたのだ! おのれっ! 謀りおって! 何が協定違反だ! こんな暴挙が許されるはずがない! 貴様らは帝国に弓引いたのだ! その報いを受けろ!」
ようやっと、周囲の惨状に気付いたらしく騎士が喚き散らす。
今更、気付くとかバカじゃねぇの? 慢心の挙句、相手の過小評価……酔狂としか言いようのない装備。
まさに無能……むしろ、今まで良く後ろから撃たれなかったものだ。
……俺だったら、こんな無能な上官とっくに後ろからドタマぶち抜いてるぜ。
「やれやれ……お前らが大人しく引き下がれば、穏便に済ませてやったんだがな……お前らこそ、初めから俺達を殺す気満々だったろ? いくらなんでも地上に降りたらマズイって事くらいは解ってただろうに……。安心しろ……お前らの死体と遺品は責任を持って国境警備隊にお届けしてやる……野生のワイバーンに襲われたとか、野営中にゴブリンに襲われたとか、それっぽい理由は考えておいてやるさ……」
「貴様っ! 戦って散った我が部下達の名誉すらも愚弄する気か! 貴様だけはっ! 貴様だけは断じて許さんっ!」
「テメェらの名誉なんぞ知るかボケ……お前らのお仲間も樹海で拾ったなんつって、死体届けられちまったら、さすがに強気には出れねぇよな? いやぁ、残念無念……まさに犬死だなっ! そんな訳だから、サティ……遊んでないで、さっさとソイツを始末しろ……いいな? 確実に殺せ」
俺はそう冷たく言い放った。
まさに、瞬殺。




