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第十六話「追跡者現る」③

「言っとくがやり合うつもりなら……俺達はなんでもやるぜ……伏兵、だまし討も当たり前だ。無警戒にどこの誰とも解らん奴を呑気に出迎えてやるほどアホじゃねぇからな……準備は万端ってとこだ。ちなみに、このチビ助も銃相手の近接戦闘だって軽くこなす程度には腕利きだ。頭のおかしい剣豪の馬鹿げた特訓の賜物で、冗談抜きで銃弾避けるぞ……コイツ。まぁ……お互い、事を荒立てても良いことなんて何ひとつ無い……まずはゆっくり話し合おうじゃないか」


 そう言って、こちらもニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 普通は銃弾なんて避けられないような気もするのだけど……フリントロック式の前装式銃は発射までのタイムラグがあるので、相手が引き金を引いた瞬間を狙って避ければ、当たらないんだそうだ。


 さすがに、雷管式のドラグーンあたりになるとタイムラグもないから、厳しいようなのだけど。

 スタンボルトあたりになると、銃弾を剣ではたき落とすとかやってのけるからな。


 人外のやる事は人智を軽く超えてくる……そんなもんだ。


「ぬけぬけとよく言うな……ならば、聞こうではないか。貴様ら、この辺りで見慣れない者を見かけなかったか? 我々は帝国軍国境監視軍空挺機動竜騎兵団……第ニ中隊第一飛行小隊のものである。そうだな……我らは行方不明になった要人の捜索中なのだ……つまり正当な軍務に基づいた行動である。街の方でも探りを入れているが、どいつもこいつも非協力的でな……如何にも怪しい。お前らも素性の解らぬ者を匿ったりなどしていないだろうな?」


 行方不明になった要人ね……そう来たか。

 こりゃ、アイシアの追手と考えて間違いないな……下がらせて正解だった。

 

 おーおー、当たりも当たり、大当たりだぜお前ら。

 まったく、皇太子共も思った以上に手が早い……昨日の今日でドンピシャじゃねーか。

 

 確かに樹海なんて潜伏するのに打ってつけだものな。

 捜索指令を受けて真っ先にここに目をつけて、空からの捜索中だったと言うことか。

 向こうも半信半疑なのかもしれないが……その実、大当たり……全くあなどれない。

 

 惜しかったな……そのへん、もっとちゃんと探せば見つかったと思うぜ……それに匿ってると言う言い方は少々おかしい。

 なんせそいつは、俺達のボスだからな!


「へぇ……何者なんだそいつは? 犯罪者の類なら俺達も手を貸してやらんでもないが。ひとまず、今ので騎士様とお供の所属と身分は解ったから、次は階級、それと氏名を名乗ってくれないか? ああ、ちゃんと公式記録として残すから、偽名とか名乗るなよ……まずは代表の騎士様から、他の五人も順番にフルネームで頼むわ」


 白々しく横柄なセリフを口にしながら、メモ帳にこいつらの所属を書き記していく。

 なるほど、このバケツ騎士は中隊長クラスくらいかな? 肩の徽章は二重線に一つ星……少佐とはまた……貴重なワイバーン部隊を率いているだけあって、なかなかのお偉いさんだ。

 

 まるで取り調べのようだが、これは取り調べなのだ。

 軍人ならば階級、所属、氏名……捕虜の立場であっても、最低限開示する義務があるとされる情報だ。

 

 普段、一般人相手に強権を奮っていて、逆に取り調べされるとか……さぞ屈辱だろうが。

 ……俺の知ったこっちゃねぇ。

 

「何故……この私が貴様らのような下賤な輩相手に名乗る必要があるのだ? 私は貴族……それも栄えある帝国騎士であるぞ? 貴様らのような雑民ぞうみん風情とは、本来口を利くのもおこがましいくらいなのだ……この痴れ者が」

 

 ああ、こいつそろそろ、マジでムカムカしてきたわ……下賤だの痴れ者だの好き放題言いやがって……雑民ってなんだ? ヒデェ呼び方だな……それ。

 

 こう言うクソみたいな奴が戦場を仕切ってたから、無駄に人が死んだんだ。

 いけしゃあしゃと大戦を生き延びやがったみてぇだが、一体何人を犠牲にして生き延びたんだ?

 

 サティは今にも飛びかからんばかり……温厚なロボスですら、顔を引き攣らせてる……。

 

 もっとも、その辺はお互い様らしく、銃士達は揃って、への字口で肩を震わせていた。

 ……騎士様はそのバケツヘッドで表情は見えないのが残念でならない。


「解ってねぇな……お前らは堂々と自分達が帝国軍人って名乗っちまったんだぞ? ここはお前ら帝国の領土じゃない……軍事的空白地域だって解ってるのか? 当地域での武装した上での軍事行動は明確な休戦協定違反だ……よって、お前らはこの場で全員拘束の上で連行させてもらう! 直ちに武装解除に応じろ! さもなくば……撃つっ!」


 そう言って、スラッと拳銃を抜くと騎士に突きつける。

 

 空を飛んでる分には、明確な規定もない以上、グレーゾーンだったのだが。

 こいつらは、武装した上で地上に降りてきている……であれば、協定違反以外の何物でもない。


「な、何を馬鹿なことを! 我らは正式な軍務で動いているのだぞ! きょ、協定違反なんてそんな訳があるか! 我らの行動には、なんら問題はないはずだ!」


 事のヤバさに今頃気付いたのか、銃士の一人が顔色を変える。


「いやいや、明確な協定違反だな……遊覧飛行でもやってたなら、まだ見逃せたんだが……武装した上で地上に降りたのはマズかったな。国境警備隊なら、休戦協定くらい暗記してろよ……お前らこそ正気なのか? まぁ、いい……貴様らは、これより非合法の武装集団として扱わせてもらう……要は盗賊団なんかと一緒だな……」


「ば、馬鹿な……栄光ある帝国軍国境警備隊の我々を盗賊団などと一緒にするな!」


 三下が喚き散らしているが、無視っ!


「ああ、その……なんだ。大人しく武装解除を受け入れるならばぁ……拘束後、帝国側への厳重抗議の上で、お前らは帝国へ強制送還される事になる。帝国での処罰がどうなるかは知らんが……違反者はもれなく首が飛んでるからな……ご愁傷様、遺書を書かんとな。それと西方及び停戦監視委員会にも本件の詳細は通報させてもらう……言い訳を今のうちに考えとけよ」


「馬鹿な……ちょっと待て! そんな一方的な話があるか! それでは国際問題になるではないか!」


「やっと事の重大さを解ってきたか? まったく大問題を起こしてくれたな……俺達はここの治安維持組織の一角でもあるから、非合法の武装集団なんぞ見逃す訳にはいかない……君達はお先真っ暗だ……同情を禁じ得ない。お前らの活動理由や態度次第では情状酌量の余地もない事もないが……どうなんだ?」


 ……はっきり言って、最終通告である。

 俺達冒険者ギルドは警務隊から権限委託をされているので、街の外であれば犯罪者の逮捕権はあるのだ……。


 特に休戦協定違反は、万が一発覚した場合大問題となる。

 その為、重罪中の重罪とされ……これまでの慣例では、お互いへの見せしめの意味もあって、基本的に違反者はもちろん、その命を下した者すらも公開処刑となっている。

 

 ……だから、この場で全員始末しても問題にはならない……。

 問答無用でぶっ殺してもお咎めなしって事では、盗賊団などと何ら変わりない。


 ちなみに、ホスロウ達西方情報軍は、非武装非軍事組織だと言う屁理屈が公式にまかり通っている上に、俺達と警務隊それぞれとなぁなぁの関係を構築することで、問題外とされ割と堂々と活動している。


 ……まさに理不尽な話だが、この辺は奴らが巧妙なだけだ。

 実際問題、武装に見えるものも所持してない上に、西方総括政府の発行した本物の身分証を持っており、西方の一般市民と同じ扱いなので、捕縛のしようもない。


 要は国ぐるみの大掛かりな詐欺って訳だ……ヒデェ奴らだ。


 こいつらみたいに、ここらが未だに帝国の領土だと勘違いしてるようなアホが多いから、むしろ帝国軍関係者のほうがタチが悪い……密出国を試みた奴を深追いして、中立領域へ侵入なんかもしょっちゅうやらかしている。


 後ろの5人の銃士達は自分達の置かれた状況を理解したようで、露骨に狼狽えている……お互い顔を見合わせて不安を隠せないようだ。

 

 けれど、騎士の方は偉そうに腕を組んで、怯んだ様子もなかった。

 それどころか、頭を抱えて高笑いを始める始末。


「はーはっはっは! 馬鹿か貴様は? 我らは剣太子殿下の直属であるぞ! それに銃を向けるのがどう言う意味か解っているのか? 我らは言わば帝国の代理人である……何ら恥じ入るものも無い! 我らを拘束し連行するだと? 出来もしないことを……寝言も休み休み言えっ! やれるものならやってみるがいい! 我が精鋭達よ……何をうろたえている? ここはむしろ笑うところだぞ?」


 騎士がそう言うと、それまで動揺を隠せなかった背後の銃士達も、唐突に吹き出すと腹を抱えてゲラゲラと笑い出す。

 命令ひとつで笑えるとかある意味すげぇな。


 とは言え……こいつの口から剣太子の配下だと聞けたのは僥倖だった。

 

 コイツも馬鹿だねぇ……自分から正体白状しやがった。

 剣太子直属なら、もろにアイシアの敵じゃねぇか……決定、こいつらには全員ここで消えてもらう。

 

 交渉は完全に決裂……向こうを俺達を消したくて、俺達もこいつらを消すのに足る十分な理由がある事が解り合えた。

 こうなれば、これ以上の話し合いは無用……殺し合いあるのみ。

 

 帝国兵の嘲笑を一身に浴びながらも、俺が無言のままで居ると、面白くもなさそうに騎士は剣を抜くと掲げる。

 それを見て、銃士達は笑うのを止めて、すっと無表情になる。

 

「……協定違反? それがどうしたと言うのだ? 目撃者である貴様らをこの場で消せば済む話よ。子供を切るのは忍びないからと、情けをかけてやったのに……実に愚かな話だ……殺せ」


 そう言って、帝国騎士は掲げた剣を振り下ろすッ!

さぁ、帝国軍VS冒険者の戦いの幕開けです。

私の作品で、ここまで戦闘シーンがなかったのは割と前代未聞だったり。(笑)


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