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第十六話「追跡者現る」②

 威風堂々たる甲冑の騎士に、威圧感たっぷりの帝国銃士。


 まずは、敵の装備を一瞥する。

 銃士共は、ツノ付きのピッケルハウベと呼ばれる兜に揃いの黒の銃士服。

 

 ……あの兜、重い上に銃弾一発であっさり貫通するから使い物にならないんだよな……。

 

 慣れた兵は、そもそも被らないか……革帽子だの草を巻いた麦わら帽子なんかを被ったりする。

 鉄製の兜なんかもあるんだが……重い上に蒸れるもんで、評判は最悪。

 

 銃の種別は……帝国スザリオ造兵局製……黒色槍騎兵銃シュワルツ・ランツェンレイター

 前装水平二連式のフリントロック式騎兵銃。

 

 銃身を切り詰める事で取り回しの改善と軽量化を狙い、その上で銃身を二連に束ねる事で火力が倍増されている。

 なお、重量は普通の歩兵銃の1.5倍とクソ重い……バランスも悪く暴発事故も多く……その重量のせいで、歩兵用には全く向いておらず、文字通り騎兵用にしか使えないと言われている駄作銃と悪評高い銃だ。

 

 更に装填済みのをもう一丁背中に背負っている……面倒な装填をせずに4発まで連射が可能って訳だ。

 ……どう見ても長距離行軍や機動戦などは考慮していない。

 ワイバーンからの空挺降下戦術や空中からの狙撃を前提にしてるなら、さほど悪い選択肢ではないかもしれないが。

 

 一応、銃剣用の大型のダガーナイフを持っているようだが、腰に挿したまま……。

 白兵戦は想定していないようだ……向こうもあくまで威嚇のつもりなのかもな。


 装備自体は帝国軍銃騎兵の標準装備に近い……兵種としては騎兵に近いのかもしれない。

 その点を考えると黒色槍騎兵銃と言う装備の選択自体は、なかなかに合理的な考えに基づいているようだ。

 

 一方、甲冑姿の騎士の方は、バケツにT字型のスリットの入ったような古臭いデザインの兜を被っていて、武器は両手持ちの長剣を背中に背負って、腰に短剣一本と潔い装備。

 

 帝国騎士の称号を持つ連中は、こう言う酔狂な奴が多いんだが……大戦では、こんな大時代な格好で先陣切って我こそは……なんて名乗りを上げたりしてたもんで、真っ先に標的にされて、銃弾で蜂の巣にされたりと散々だったらしい。

 

 こんなくだらない理由で、貴族尉官や佐官がバタバタ死んで、帝国軍は指揮官不足になり、指揮系統の混乱で多くの犠牲を出したのだから笑えない。


 ある意味、こいつは貴重な生き残りバカと言えよう。

 

 ワイバーンの上には、手綱を握った操士ともう一人ローブ姿の奴と三人ほどの手ぶらの兵が残っているようだが……降りてくるつもりはないらしい。

 

 手ぶらの奴らは、装填手なのかもしれない……だとすれば戦力外、空中からの狙撃を警戒する必要はなさそうだ。

 魔術師が厄介と言えば厄介だが、シロウもいるからあいつに任せる!

 

 それと、かなり上空にもう一匹……いるな。

 雲の隙間から翼が見えた……案の定。

 

「……やぁやぁ、ごきげんよう! どこぞの名のある騎士様とお見受けするが……俺達、冒険者風情にわざわざ何の用だろうか?」


 まずは、朗らかな笑顔と共にシュタッと片手を上げて、挨拶。

 伏兵を配置してやる気満々でこの態度もなんだが……まずは平和的解決の道を探るべく、友好的な態度を見せるのは基本だよな。

 

 「スマイル、スマイル」とロボスとサティを小声で促すと、二人も引きつったような笑顔を浮かべる。

 超不自然だけど、こんなもんでいいか。

 

 狙い通り、銃士達は毒気を抜かれたような顔をしている。

 

「……冒険者だと? こんな樹海をその程度の人数……それも女子供ばかりでうろついているとは、如何にも怪しいな……それに派手な銃声も聞こえたが……いったい何をしていた? 素直に白状したほうがいいぞ!」


 騎士の露骨に高圧的な態度に、サティが作り笑いを忘れて、ムッとした顔をする。

 まぁ、一番暴発しそうなのを敢えて手元に置いてたんだが、ある意味正解。

 

 すっとサティの頭を手で抑えながら、ロボスと並んで一歩前に出る。

 

「俺はグランドリアの冒険者ギルドの副長を務めるエドワーズ・ファルナガン。ご覧の通り、初心者冒険者の引率でな……戦闘訓練ついでに、魔物狩りをやってた所だ」


「ふん、もっともな理由だな……続けろ」


「俺達、冒険者はこの樹海での活動をグランドリア自治会、それに原住民のエルフ達からも認められているから、俺達の行動には何の制約もない……だが、そっちはどうなんだ? 少なくとも俺は聞いてないんだが……冒険者ギルドの許可無く樹海へ立ち入ることは禁止されている……もし、許可を得ているなら、許可証を見せてくれないか?」

 

 むしろ、こっちが自分達のなわばりに入り込んだ不審者へ尋問する側なのだ。

 その辺の立場の違いは、解っていただく必要がある……。


「はっ! 何故我ら帝国騎士がこのような未開の地で、貴様らなんぞにお伺いを立てねばらならんのだ!」


 やれやれ、自分から帝国騎士とか言うかね? ここを何だと思ってるんだか……。


「そうだなぁ……お伺いと言うより、許可を取らないで樹海に入る以上、俺達もお前らの命の保証が出来ないって話なんだがな。許可を得ていれば、遭難時にも速やかに対応できるし、必要なら道案内や護衛の依頼も引き受ける……その程度には樹海はヤバイとこなんだぜ? 無許可で勝手に入って勝手に死なれると、こっちも身元確認やら遺体返却やらで、色々面倒なんでな……今度からちゃんと事前に許可申請をするように! いい年こいた大人なんだから、決まりくらい守ろうぜ?」


「貴様ッ! さっきから大人しく聞いていれば……我らを愚弄するのかっ! なんだその無礼な態度は!」


 要するに、勝手に死なれると何かとめんどくせぇから、黙って入ってくるなと言うこちらの主張に、銃士の一人が声を荒げる……テメェにゃ聞いてねぇよ。

 

 こういうのは代表者同士で話し合うのが道理なんだから三下は黙ってろ。

 

 ……と、内心でつぶやくに留めて、雑魚には視線すら送らない。


「で……お前らの用件はなんだ? 何の用もなくこんなとこを飛び回ったりしないと思うんだが……優雅な遊覧飛行の途中だったんなら、無粋な銃声で邪魔して、実にすまんかったと謝罪させてもらおう」


 俺の言い草がツボに入ったのか、サティがたまらず吹き出す。


「……帝国軍って暇人揃いなのね……いやぁ、私も遊覧飛行ならしてみたいなーっ! あははっ!」


 サティ……黄色い声を上げて容赦なく煽る……帝国騎士が息を呑むのが解った。

 背後の銃士達が空に向けていた銃口を一斉に下げようとしたところで、騎士が腕をかざして止める。

 

「止せ! こいつらにはまだ聞きたいことがあるからな。それに、この距離だと銃より剣の方が早いな。子供だけのくせに、倍の人数に相対してその余裕……さては仲間がいるな? 冒険者か……なかなか油断できん奴らだ」


 なかなかいい勘している……さすが酔狂を貫き通して大戦を生き延びた猛者ってとこか。

 まともにやりあったら、少々厳しい相手かもな。

 

 ちなみに、今の一瞬でサティは双剣を抜いて地面に張り付くような姿勢を取り、ロボスも盾を構えて俺の前に出ていた。

 

 樹上のリッキーやシロウも即応体制にあるはずだ……まさに一触即発の状態。

 だが、まだ交渉の余地はある……。

読者の皆様へ

ブクマとか評価は気付いた時がそのタイミングだと思うの!


よろしくお願いします。m(_ _)m

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