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第十五話「アイシア様と樹海の進軍」②

「まぁ、銃の件は解った……ところで、アイシア様……そろそろ疲れてないか? ここらで小休止しようと思うのだけど」


 と言っときながら、俺がそろそろ限界なのだから笑えないぞ。

 

「うん! わたしはまだまだ全然イケる! さすがに、ちょっと歩きにくいけど、カティちゃん達もちゃんと道選んで歩いてくれてるから、そこまで大変じゃないかな」


 つくづく元気な皇女様だ……病弱って聞いてたのに、病気とか何処行ったの? 君。

 

 ……俺には、こんな道なき道……どこも一緒に見える……藪の薄いところを通っていってるのは解るが、本当に道なのか?


 現在地も良く解らない……もし、この場で一人置いていかれたら、ほぼ確実に遭難して野垂れ死ぬ。

 ……やっぱ俺、使えねぇ。

 

「ねぇ、殿下……エド……顔色悪いし、基本インドア派なんだから、察してあげてね……皆、小休止しましょーっ!」


 ソフィアが俺の代わりに皆に小休止の合図を送る。

 まぁ、この手の行軍は一番体力のない者に合わせるのが基本ではあるのだが。

 

 ソフィアにすら劣ってる辺り、正直鈍りを痛感する……少しは身体を鍛え直さないと駄目だな。

 

 この調子だとアイシア様と二人で逃亡とかなっても、こっちが真っ先に脱落する……それではあまりにカッコ悪い!

 

「んじゃ、俺は周辺警戒してるから、ゆっくり休んどけよ……けど、ペースがありえねぇ位遅いから、もうちょっと頑張ってくれ……つぅか、なんで、兄貴が着いてきたんだよ……お守りする方の身にもなれっての……」


 リッキーがボヤきながら、するすると木に登ると警戒位置につく。

 ロボスやシロウも全然余裕な感じで、近くに戻ってきてはいるのだが、座ろうともせず周辺警戒に余念がない。

 

 サティとカティは休憩なしでガンガン先行して、露払いをしてくれるらしい。

 

 無線魔道具からは、現在交戦中とかなんとか報告があったけど……ゴブリンの斥候あたりだろうな。

 まぁ、その程度の相手ならあの二人なら余裕だろう。

 

「アイシア様、意外とタフなんですね……私も久々に樹海来たんですけど、なかなかハードで……それに慣れてるみたいに見えるんですけど! 服装もちゃんと長袖長ズボン……私なんかこんな格好で来ちゃって、大失敗! すっごい気に入ったんでアイシア様にお見せしないと! って思ったんだけど、草負けするわ、太もも虫にさされちゃうわで……」


 ……メイド女子にも劣る大の男がここにいるぜ!

 そんな事を思いながら、大の字になってひっくり返りながら、ソフィアを見ると……。

 

 メイド服姿でスカートをめくって虫刺され跡を気にしてる様子なんだが……俺の視点からは色々チラチラ見えてる訳でして……。

 

 とりあえず、ガバッと起き上がってソフィアを見ると思い切り目が合った。

 ……色々悟ったらしく真っ赤な顔をして、目を逸らすと、しずしずとスカートを戻す……。

 

 気まずい! 物凄く気まずいっ!

 

 そこはまだ……怒るとかノーリアクションが良かった……俺も……なんか困る。

 いかん、こんなことで動揺すんな! 俺! 


「ふふん……山歩き読本ってのを読んでたから、こう言うとこの服装とかもバッチリなのよ! けど、わたしも、昔だったらもうヘトヘトだったと思うな……道もカティちゃん達が作ってくれてるし、割と平坦だからこれなら、なんとかなるよ! でも、そのかっこ……可愛いね! 今度、わたしも着てみようかな……」


 空気を読まないアイシア様が得意そうに続ける……それ軍事教本かなんかじゃないのか? 山歩きで被視認性を考慮とか絶対一般向けじゃないだろ……。

 

 けど、一瞬流れた俺とソフィアの何とも気まずい空気もアイシアのおかげで掻き消えた! 助かった。


「アイシア様もきっと似合うと思いますよ! メイド服! あ、木苺でも食べます? さっき見つけたんで……」


 ソフィアが何事も無かったかのように続ける。

 

 まぁ、俺とソフィアは言わば、兄妹分みたいなもんだし、変に意識とかしたくない……。


 部屋だって、ずかずかと上がってくるし、飯なんかもしょっちゅう作ってくれる。

 休みの日に、寮にいるといつの間にか仕事してるとかで、お泊りセット持参で俺の部屋へ押しかけてくる事だってある……考えてみれば、妙な関係なんだが……。

 

 改めて、ソフィアを見る。

 斬新なメイド服と言うのもあって、コイツこんな可愛かったっけ? なんて思ってしまう。


 と言うか……メイド服……凄いな。

 ……その……なんだ! 似合いすぎだろ! ばっきゃろーっ!


「わーっ! なにそれっ! いただきまーす! なにこれっ! おいし~い!」


 ……俺のもやもやなんて、どこ吹く風……アイシア様はマイペースに元気だ。


「でしょっ! ジャムにしたりっ! クッキーにアクセントとして乗せるとか……もっといい感じなんですよぉ!」


「おおっ! ソフィアちゃんお菓子作りも出来るんだ! 今度作ってよっ!」


「お砂糖とか貴重なんでなかなか手に入らないんですけどね……アイシア様の頼みとあれば! お任せくださいな」


「わたしも手伝うよーっ! お城のメイドさんに教わったからレシピとか、色々知ってるしっ! ……作れはしないんだけどね」


「あ、それは是非教えてください! ほら、私……見ての通りメイドですから! アイシア様のメイドになるべく頑張りますよ!」


「うんうん、実は本職のメイドさんって、メイド道ってのを習得してるんだって! ソフィアちゃんもメイド道を極めて、本職を目指すのだーッ!」


「メ、メイド道? 良く解らないけど、がんばりますっ!」


 ……キャイキャイと何とものんきな女子二名。

 

 メイド道って……なんだろう?

 

 でも、ソフィアを連れてきたのはたぶん正解……本来、こんな討伐任務、割と殺伐とした雰囲気になるのだけど。

 こいつらのせいで、まるでピクニック気分……決して安全とは言えないのだから、気を引き締めないといけないのだけど、こう言う雰囲気も悪くはない。

 

 ロボスあたりは、実に穏やかな顔で二人を見つめてるし、リッキーもソフィアに熱い視線を送っている。


 こいつシスコンだからなぁ……なんせ、冒険者になるのと引き換えに出してきた条件ってのが「お前、姉ちゃんのことを一生面倒みろ!」……だったからな。

 

 にしても……やっぱ俺は要らなかったかもしれない。

 ものの見事に足手まといだ……情けない……一応、これでも元軍人なのに。

 

 もっとも軍人と言っても今じゃ完全アウトな強制徴用少年兵としてだったからな……まともな軍事教練なんて受けちゃいない……教わったのは人殺しの方法だけだ。

 

「……そんな屈んで歩くからだろう? そんな姿勢じゃ、そりゃ腰に来るだろうさ」


 腰を伸ばしていると、シロウくんが不思議そうに聞いてくる……。


「お前らは図体が小さいから、気にならんかもしれんが、俺やロボスは顔の位置に枝葉やら何やらが来るから、ずっと屈んで歩くんだぞ……ったく、いいな……ガキは……ロボスもいつもこんなじゃ大変だろ?」


 実際、カティ達も獣道を選んで、ナタで後続が歩きやすいように道を作ってくれているのだけど、獣やゴブリンはせいぜい1m程度の高さだから、自然と獣道はトンネル状になる……おまけに、カティ達も自分達に邪魔にならない高さの枝葉は手が届かないからそのまま。

 

 この手の樹海だの山林では、こいつらみたいなガキ共の独壇場と言っても過言じゃない。

 俺なんかだと、木登りすら怪しい。

 

「僕は問題ありません……いつもの事なので……エドさんは、僕の跡を着いてくればいいと思いますよ」


 平然と答えるロボス……一際デカい苦労人だけにその辺りの事情は解るらしい。

 けど……そうか、その手があったか。

 こっからは、そうさせてもらうとしよう……少しでも足手まといにならないようにせねば!

 

 そんな風に談笑してると、シュタイナからコール。

 

 シュタイナから呼び出し……それはつまり、緊急事態の発生を意味していた。


 俺は手を掲げて、皆に静かにするように伝えると……続く言葉を待った。

続き気になったり、面白いと思ったら、気楽にブクマ、感想なんかもあれば是非っ!

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