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第十二話「アイシア様とワイバーン」②

「警務隊か……よし、そっちは任せろ……警務隊長のトーリアスとは、飲み友達だからな……お願いすりゃ一発だ。むしろ、ギルドの方はどうなんだ? ギルドマスター交代ともなると、他の支部やら総本部にも連絡が必要だろ? いくらなんでも名前で即バレするんじゃないか?」


「そっちは、手続きに素晴らしく時間がかかるからな……冒険者ギルド総本部に書面で通達、これはもう朝一番で送ってある……向こうは各支部の人事に関する権限は一切無いから、無条件で承認が降りるんだが、無駄に時間がかかる……他の支部に交代人事が通達されるのなんて、半年は先だろうな……無線連絡網経由で、皇女殿下の捜索依頼が来たとしても、しらばっくれて終わりだ」


「ふむ、なら帝国諜報局はどうなんだ? お前に接触があったと聞いてるぞ」


「そっちも恐らく問題ないな……連中はあくまで政治的には中立……皇帝陛下に絶対の忠誠を誓ってる。おかげで皇太子派からは非協力的だと冷遇されてる上に、戦争再開なんてそもそも論外って考えらしいからな……心情的には俺達に近い。どうも皇帝陛下から勅令が下ってるらしく皇女殿下への協力は惜しまないそうだ。だからいっそ巻き込むのも手だな」


 ……そんな事があったんだって、改めて驚いた。

 父上もさり気なく援護射撃してくれてるんだ……馬鹿だの意地悪だの、散々ひどいこと言ったんだけど。

 せめて、一回くらいは謝りに行きたいな……。


「ほぅ、素人集団だと馬鹿にしてたが、奴らも情勢ってもんを良く見てるんだな。そうなると、皇太子共が状況把握し、対策を講じるまで……そうだな……皇都からだと早馬でも一週間……さすがに直接人が派遣されたら、誤魔化せないが、この街で妙な探りを入れるような奴は不幸な事故に巻き込まれることも良くあることだからな……事故が無く速やかに情報を持ち帰る事に成功したなら……最速で二週間、長けりゃ2ヶ月位は皇太子派の目を欺けるな」


「不幸な事故ねぇ……お前ら殺しはやらねぇんじゃねぇのか?」


「おいおい……物騒なこと言うなよ……帝国諜報局が皇太子派に協力してないってなると、相手は金で雇ったフリーの密偵あたりか、田舎騎士か何かの仕事だろう? そんな奴らは金掴ませりゃあっさり寝返る……あくまで拒否するような骨のある奴なら、我らが本国にご招待するまでさ」


「やっぱ、お前らタチ悪いわ……お前らの本国に招待なんかされたら、軽く一年は戻れねぇじゃねぇか」


「天国へご招待するよりは心温まる対応だろ? そうだ! 皇女殿下もお前も、もしそのつもりがあれば、いつでも西方へご招待するぞ? まぁ……そうなると東方との戦争は避けられんだろうがな。少なくとも我々は皇女殿下を拒むことだけはあり得ない。なにせ、逆を言えばそうなったら西方は帝国の皇族の力への対抗手段を手に入れるって事になるからな……だが、必然的に皇女殿下は矢面に立たされる羽目になる……そこは少々心苦しい点だな……」


「せ、西方! すごく興味あるんですけど! 未知の土地、不思議な食べ物……東方では失われつつある数々の魔術という名の奇跡! 何と言っても神代の時代から残る神秘の古代遺跡の数々! 浪漫です! 浪漫!」


 思わず立ち上がって、数々の書物で読んだ西方各地の魅力について語ってしまう。

 ホスロウさんは、満更でもない感じで笑ってるんだけど、お兄ちゃんは厳しい顔でわたしの手を取ると首を横に振って、手を引いて座らせる。


「まぁ……アイシアはこう言ってるが、それは最後の手段だな……その場合のシナリオとしてはどうなるんだ?」


「そうだな帝国から亡命してきた帝国の正式な皇位継承者って事で派手に持ち上げて、皇女殿下には皇太子派こそ皇帝陛下の権威を蔑ろにし、国民を顧みない逆賊だと声明を出してもらう事になる」


「なるほどね……そうなると、確かにお前らにとっては美味しい展開だよな。大義名分としては誰が見ても正義の味方だし、上手く勝てれば、安全保障もバッチリだし、貸しが出来るから、色々と有利になるって訳だ」


「そうだ。俺達西方は殿下を正当な皇位継承者として皇帝の座につけるために、正義の名において戦争を遂行する……まぁ、そんな感じだ……。少なくとも西方情報軍の上層部は、皇女殿下が亡命を希望したケースとして、このシナリオを想定してる」


「出来れば、もうちょいスマートにやりたいもんだな……アイシアも血塗られた玉座とか嫌だろ?」


「めっちゃ嫌、すごく嫌だ……わたしとしては、別に皇帝なんて飾りでいいって思ってるの……出来れば、兄様達も皇族の権威とか帝国の覇権とか忘れちゃって、平和にのんびり生きて欲しいと思う……」


 これはわたしの本音だった。

 

 と言うか、随分前から皇族なんて飾りだったのに、大戦が始まって、戦況の悪化で父上が力を振るわざるを得なくなって……。

 

 皇族なんてお飾りをこれ幸いと最高権力者に持ち上げてしまったのは、他ならぬ帝国の国民。


 兄上達はもともと政治に携わる予定なんかなかったし、本来ちょっと贅沢が許された没落貴族なんかと大差なかったはずのだ。


 ……滅びかけた騎士の誇りとか貴族の矜持とか……そんなカビの生えかけた物を愛し、過ぎ去った時代を懐かしむ。

 時代遅れの甲冑を着て、剣を振るい……過去の英雄に憧れる……そんな少年の夢を持ち続ける……。


 それが剣太子ルキウルス・ファロ・ザカリテウス。


 私人としてなら、許されたそれも、下手に権力なんかとセットになってしまうと、貴族の復権……民衆や議会の軽視と悪い方へ悪い方へと傾けてしまった。


 皇帝になり、英雄と呼ばれる為に、剣を振るい……大陸を統一する戦争を起こす……。

 それが今の兄上の夢であり、目的でもある……その過程や結果的にどうなるかなんて、理解の外。


 姉上もそのあたりは概ね一緒……兄上の暴走を危惧した者達により、対抗馬として持ち上げられちゃったんだけど。


 ……元々はちょっとわがままで、誰よりも綺麗になって、大好きな人の為になんでもしようって……そんな女の子の夢を持ち続けてるだけの優しい人。


 けど、今は自分の子供を皇帝にするとか変な目的に執着して……周りが全然見えなくなってるみたい。

 母親の愛情の暴走……わたしには、まだ解らない気持ちなんだけど……。  


 兄上や姉上の立場からすると、わたしは邪魔者以外の何物でもなかった。

 

 逃げようが隠れようが、向こうにとっては関係ない。

 いつ立ち塞がるか解らない敵……絶対そう思われてる上に、父上がわたしをやたら高く評価してた事は二人もよく知ってるのだ……。


 だからこそ、二人は必ずわたしを排除すべく動くだろう。


 そうなると、必然的にわたしも皇帝なんて立場を目指さざるをえない……そうしないと、わたしに安寧の日々なんて絶対来ない……。


 けど……もし、わたしが皇帝なんかになったら……どうしよう?

 

 まずは、帝国の復興が最優先だよね……アグレッサダムを修復して、農村の復興。


 機能停止してる各地の鉱山や焼かれた港湾も復興……外海や内海の海運網も復旧させないと。


 西方とも和平を結んで、しばらく戦争はなしって方向で……この辺はホスロウさんと言うパイプが出来た以上、現実的になってきた。


 共和国の押し付けた各種条約も西方とタッグを組んで、共謀すれば破棄だって出来る。


 そう……独自の共和国抜きで、和平条約を締結すればいいんだ。

 もちろん、軍備も早急に整えなければならない……騎兵偏重なんて、時代遅れの編成は即刻見直し。

 共和国の機甲兵力や航空兵力に対抗出来るだけの装備も必要。


 海に関しては、共和国に依存してる部分が大きすぎるから、海軍戦力も復旧が必要。


 戦争をするための力じゃない……外圧を跳ね返すためにも軍備は必要なの。

 外洋の海の魔物は強力だから、まずは武装商船……穏便にこの辺から始めるのがいいかも。

 

 共和国の技術的優位も……帝国の過去の遺産を使えば、追いつくまでは出来なくとも向こうが脅威を感じる程度までは引き上げられる。

 そうなったら、わたしの皇族の力もある以上、共和国だって強気には出れない……。


 と言うか、共和国……市街地爆撃だのアグレッサダムの破壊だの色々やらかしてるから、戦時賠償の請求とかだってやっていいんじゃないだろうか。


 ……ああ、権力があると言う前提だと、やれる事なんかいくらでも思いついてしまうなぁ。


 権力ってのはそう言うもんなんだね……権力も道具や手段と割り切れば、たしかに便利なもの……そう考えると、皇帝の座ってのはそんなに悪いもんじゃない。


 何より、どれも必須なのに誰もやろうとしない今の状況……誰かがなんとかしないといけないのだ。


 ……そうなると……気付いちゃったわたしがやるしか無い……何と言うか……時代が必要としてる……そう言う事なのかもしれない。


 でも、ある程度道筋を作ったら、権力なんてポイって返上しちゃって、元の引きこもり生活に戻る! それならやってもいいかな……。

 

 なんなら、お兄ちゃんと帝国各地を旅して回りながら、色々手を付けていくのもいいかもね。


 ……元々身体が弱いから引き篭もってたんであって、本当は色んなところを見て回ったりしたかったんだ。

 

 美味しいものも食べたいし、書物で憧れてた観光地や遺跡とか……やりたいことは盛りだくさん!


 せっかくお兄ちゃんみたいなカッコイイ男の子と知り合ったんだし、お兄ちゃんのことだって色々知りたいっ!

 西方だって行ってみたいし、海の向こうの世界とかだって見てみたいなー。


 うん……わたしってば欲張りだね。

 それも物凄く俗な欲望ばかり……。


 でも、今まで我慢ばっかりだったから、ちょっとくらいならいいよね?


 けど……兄上達がわたしをこのままにしておくはずがないし……共和国だって何か仕掛けてくると思う。


 このままの流れに乗ると……戦いは避けられないだろうし、犠牲も少なからず出る。


 人死は嫌だし、兄上達とだって出来れば和解したい……姉上のところの皇子様だって、わたしから見れば甥っ子……赤ちゃんの頃に抱っこしてあげた記憶だってある。


 ……出来れば皆、仲良くしたい……家族で囲んだ晩餐……あの頃に……帰りたい。


 ううっ……前途多難すぎて、泣きたくなってきたし、逃げだしたいっ! 

 ……思わず、深い溜め息を吐いてしまう。


 けれども、わたしのそんな逡巡を見抜いたかのようにお兄ちゃんは微笑むと、きっぱりとこう告げた。

 

「アイシア……何を考えてるか大体想像付く。けどな……お前は自分の理想を貫き通してみろ……いいじゃないか……平和主義を掲げながら、覇道を突き進むのだってさ……なぁに、困ったら俺達に任せておけば良いんだ」


「そうそう……皇女殿下は色々持っていらっしゃる……余人には不可能な事だって、殿下なら出来るかもしれない……そう思わせるだけのものがある。こんな状況だ……どうやっても血を見るのは確実だが……案外、うまくやるかもしれん。平和主義覇道……いいじゃんねぇか?」


 そう言って、ホスロウさんも微笑む。


「いいねぇ……絶対無敵の皇女様による無血覇道、平和主義を超えた平和主義! 名付けて超平和主義! 皇女殿下が皇帝様なんてなったら、あたしは右将軍だっけ? それがいいな!」


 リーザさんに後ろから抱きつかれて、ほっぺにキスなんかされる。

 わわわっ! けど……こんな風に抱きしめられるとか何年ぶりだろ? なんだか、とっても嬉しい。

 

 ……そか。

 わたしは一人じゃないんだね……一人で、全部背負い込まなくたっていいんだ。

 

 そう思ったら、肩の重みがすっと軽くなったような気がしてきた。


「ん、がんばってみる! 皆、ありがと!」


 そう言って、わたしもリーザさんのほっぺにお返しのチュッ!

 お兄ちゃんにもしてあげてもいいけど、それはしばらくお預けかな……結構、照れ屋さんだし。

  

 けど……平和主義を超えた超平和主義って何だろそれ? 

 ……まぁ、それくらいお気楽にやるのもひとつの手かもね!


 わたしも……皆の期待に応えれるように……頑張る!

すみません。

ホスロウとの会談編……ここまで長くなるとは。


でも、ここは超重要な場面なんです。


次からはエド編、冒険パートですね。


新キャラもどんどん出ますし、そろそろエドの軍師として本領発揮とかもしたりします。

乞うご期待っ!(笑)


あと、さり気なくタイトル回収!(笑)

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