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第十二話「アイシア様とワイバーン」①

「お、お前、そんなの持ってたのか! おいっ! そいつは何処に居るんだ!」


 お兄ちゃんがわたしの肩をガッと掴んで、えらい勢いで食って掛かってきた。


「えっと……お山の方に飛んでってそれっきり……と言うか、顔が近いなぁ……みたいな?」


 どうも無意識だったらしく、お兄ちゃんは手を離すと照れ臭そうに頭をかく。


 と言うか、ホントに目の前に顔……だったんで、もうドキドキだった……壁際だったらきっと壁ドンってヤツになってただろうね……ちょっと惜しかったかも。


「す、すまん……お山? ああ、魔王山脈か……そりゃまた厄介なところへ……呼べば戻ってきたりするのか?」


「さぁ……ご飯とか自主調達して、好きにしてるように命令したけど、戻れーって絶叫とかしたら戻ってくるのかな……と言うか、エドお兄ちゃん……すっごい食いつきっぷりだけど……ワイバーンって、そんな珍しいの?」


「ワイバーン自体はここらじゃ珍しくないけど、騎乗用なんて、激レアだよっ! 卵から孵ったばかりの雛の時から面倒見て人間に懐かせないと言うことなんて聞かない……多分、大陸中からかき集めても100頭もいないと思う……金貨千枚積んだって買えるかどうか解らないとか、そんなんだって! と言うか、ワイバーンって皇都まで一日で着くって本当なの?」


 リーザさんが、他の二人を代弁してくれたようだった。

 

 考えてみれば、音もなく空を自在に舞い、大陸の端から端まで数日でたどり着く……めちゃくちゃ便利だよね。

 

 そもそも、皇都からここまで馬車や馬で、急ぎでも軽く二週間はかかる……徒歩なんかだと一ヶ月だの二ヶ月とか普通にかかる程度の長旅。

 

 それをわずか一日でとか……うん、楽しちゃったけど、歩いて行くとか面倒くさかったんだもん。

 

 そう言えば、共和国の爆撃用飛行機械ですら、皇都の竜騎士団による迎撃に合い皇都爆撃を断念せざるを得なかったほどなんだよね……確かにそんなの私用で持ってるなんて、驚かれるよね……。


「うん、実際は山の中で一晩野宿したから、一日半ってとこだけど……」


 生まれて初めての野宿だったけど、厨房から色々ご飯持ってきてたし、ワイバーンにひっついてれば、山の寒さも気にならなかった……。

 あれは、あれで結構楽しかった。


「なるほど……どおりで皇都の冒険者ギルドも状況を把握してない訳だ……普通に考えて、向こうでは相当な騒ぎになってるはずだし、俺達にも行方を尋ねてくると思ったんだが……今朝の定時連絡でも至って平和だとか呑気に言ってたしな……結局、今日一日なしのつぶてだったって聞いて、おかしな話だと思ってた」


「けど、不自然だよね……それ。皇都から皇女様が出奔とか大事件だし、行き先の可能性が高いとなれば、カマかけくらいあってもおかしくない? あのさ……思ったんだけどもしかして、帝国軍も皇太子連中も皇女殿下の行方を掴めてない……?」


「たぶん、それだな……こっちも帝国内に張り巡らせた情報網があるんだが……どうも本日夕方時点で皇都に戒厳令が発令されたらしい……理由はおそらく皇女殿下の出奔……今頃になって、居なくなった事に気付いて皇都周辺を大慌てで捜索してるんじゃねぇか?」


「確かに……皇太子達にとって、自分達に対抗できるだけの力と同格と言っていい権限を持つパッと出のライバルが出奔して制御不能の状態になるなんて、悪夢みたいな展開だろうからな……。多分国境警備隊にも早馬を飛ばして、国境封鎖……どうやって捕縛するつもりなのか知らんけど、国境警備隊は剣太子の直属だから、それくらいやるだろうな……」


「……ええっ! わたし、割りと堂々とワイバーン厩舎に行って、ワイバーン分捕って来たんだけど……普通にバレてると思うよ……」


「そこら辺は多分アレだ……ワイバーンの面倒見てる連中もまさか皇女殿下に持って行かれたとか報告なんて出来ないんだろうぜ……厳重な管理下に置かれてるって話だし、詳しくは知らんが特殊な言語で命令する必要があるんだろ? なら、普通乗りこなせないって考えるだろ」


「……下位竜族語レッサードラゴンズロアーだっけ? そんなもん、普通は知らないんだろうけど……我らが皇女殿下だから……ひょっとするとひょっとする?」


 言いながら、リーザさんが期待に満ちた目で見つめる。


「うん、知ってた……伝説の竜騎士ヘルマンティス卿の著書「我が人生は飛竜と共に急降下、なれど一片の悔いなし」って本に解説付きで書いてあった。発声にコツがあるんだけど、上昇とか右へ曲がれとか10個くらいの単語覚えるだけだから割りと簡単……ただ最初にマスターと認識させる為に下位竜族語で真名を呼ぶ必要があって、それが解らないと絶対言う事聞かないんだけど……その辺は父上愛用のワイバーンだったから父上から直接教えてもらったの……だから、盗んだんじゃなくて、一応正式に譲り受けたって事にはなると思う」


 まぁ、ワイバーン厩舎の人達はポカーン状態だったけど……あれは飛ばせる訳がないって完全にタカをくくってたね。

 あのあと、どうなったとかは……知ったこっちゃないんだけど。


「簡単じゃねぇっての! なんだその頭の悪いタイトルの本は! そんなもん読んでぶっつけ本番でワイバーン乗りこなすなんて、誰が予想できるかっての! なんか……俺、皇太子達が可哀想になってきたぞ……ホスロウ、お前はどう分析する? 奴らの現状把握と動向についてだ」


「ま、まぁ……そうだな……連中が恐れるとすれば、まず東方の属国に亡命されるケースだろうな。それか中立を表明してる諸侯をまとめ上げる旗印になるってのもな……普通に考えるとそんなもんだろ? たぶん、属国や諸侯へ皇女殿下を匿ったり接触するなと脅しをかけながら、行きそうな所へ手当たり次第に追手を放つってところだろうな。こんな緩衝地帯なんて手出ししにくい厄介な場所へ一足飛びに逃げ込んで、中立の冒険者ギルドのマスターになってるなんて、予想の斜め上どころか想像の埒外かもしれんな」


 ……普通はそうなのか……。

 でも確かに、わたしの立場なら属国とか有力諸侯に助力を請うってのが物語なんかでも定番だよね……。

 

 けど、そうしてたら最終的にやっぱり、暗殺攻勢に晒されてた気もするし……わたしが内戦の火種になるとかそんな感じになってたと思う。

 

「なにそれ? 皇太子達ってバカなの? 要はまるで見当違いのところを捜索して、関係ない人達を脅して回ってるって事? あたしから見ても、バカ丸出しって奴よ?」


「馬鹿というより、自分達の常識の枠から抜けきれていないんだ……まさかワイバーンを操って、一足飛びにグランドリアに来てるなんて思いもしないんだろうよ。本来だったら、ガチガチにお供やら兵隊を付けてアイシアを堂々と中立地帯へ進駐させるとか考えてたはずだ。……その上でアイシアの独断での休戦協定違反とかイチャモンを付けて討伐軍を出すとか、西方に脅しをかけてけしかけさせるとか……そんなとこだろ」


「ああ、そうだろうな……俺達も休戦協定違反を堂々とやられて、脅しまでかけられたら討伐軍を出さざるをえないからな……そうなってたら割とどうしょうもなかったな……」


「だが、その辺の企みは全部台無しだ! くっくっく……バカどもが……おまけに完全に出遅れてやがるじゃねぇか! 皇女殿下は完全に奴らの思惑の斜め上を行った……いや、痛快、痛快!」


 そう言って、笑うエドお兄ちゃんは今まで見たこともない凶悪そのものな顔だった。

 一言で言うと、悪人……なんだけど、少しくらい悪ぶってた方が男の子もカッコイイと思う。


「うわぁ……エドちゃん……凄い悪い顔してるよ……」


 リーザさんもむしろ嬉しそうにツッコミを入れる。

 やっぱ、むしろ頼もしいって思うよねー女子的には。


「これが笑わずにいられるものかよ……アイシア……お前すごいぞ! 完全に連中を出し抜いて手玉に取ってるじゃないか……そうなると後は皇都との無線連絡網を持ってる警務隊に鼻薬を嗅がせて、口止めすれば、アイシアの行方をかなり長期間誤魔化せるな……」


 ……結果的に……だと思うけど。

 

 ほとんど思いつきで誰にも相談せず、父上に文句つけに行った程度だったんだけど……。

 父上が黙っててくれれば、兄上たちだとわたしの行動パターンすら読めないって事になるのか。

思いつき無駄設定。


ヘルマンティス卿……ワイバーンの急降下爆撃戦術の生みの親。


皇城を目標に見立てた急降下爆撃の訓練中に調子に乗って、うっかり本当に爆撃を敢行。


爵位剥奪の上で軍をクビになり、他の誰にも懐かず止むを得ず下賜されたワイバーンと共にヘルマンティス運輸を設立。


空中高速輸送便の先駆けとなったが、騎乗用ワイバーン自体がレアすぎて誰も後には続かなかった。


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