第十一話「アイシア様のチート能力の片鱗」③
「ところで……結局、ホスロウさんはエドお兄ちゃんのお仲間って考えていいの? なんか、私を拉致するとか物騒なことも言ってたけど……なんとなく、話の流れ的にお兄ちゃんは西方側って感じもするんだけど……どうなの?」
「そ、そうだな……どっちかと言うと利害関係の一致ってとこだな……。戦争の再開阻止と、共和国の作り上げつつある仕組みに風穴を開ける……その点では俺達は同志と言えるだろうな。俺は西方とか東方とか特定の陣営に所属してるつもりはない……強いて言えば、中立の冒険者ギルドの所属で、今はアイシア殿下の保護者ってとこだな」
「なんだよ……エド、そこは熱い友情に裏付けされた同志とでも言って欲しいぜ? 皇女殿下、俺とコイツは互いに命の恩人同士……そう言う関係なんですよ。それにこっちの上層部も皇女殿下のご機嫌を取れとの仰せなんでな……少なくとも俺は殿下に喧嘩売るなんて、絶対やりたくないし、殿下が個人的に何かおっぱじめるつもりなら、協力は惜しまないつもりですぜ?」
「あはは……個人的なお友達って事なんだね……それなら、信用出来るね。それにしても共和国か……なんかがめついと言うか、抜け目ないというか……国自体は小さい島の寄せ集めなのに、ホント色々よくやるわね……休戦条約にも色々口出ししてるし、東西両方に色んな物を自分たちの都合で売りつけてくるし……」
「そうだな……領土的な野心は無いみたいなんだが……金儲けの手段を選ばなさ過ぎる……死の商人みてぇな真似をして、外洋を封鎖して、自分達は高みの見物……ふざけた話だ」
「そう思ってるのは俺達、西方も同様なんだ……ってなわけで、前置きが長くなったが……これがいよいよ本題……だからこそ、最初の一手として、まずはこいつを復活させたい……そうなる訳だ」
そう言って、地図上に樹海を横切る線を描くホスロウさん。
「これって……確かこの辺が魔王に占拠されてた時代に使われてたルートがあるんだっけ……けど、今も使えるの? それ……確かこの道が使われてたのって500年前だよ?」
「やはり知ってたか……その通り……けど、それが割りとしっかり作られてたらしく道自体は残ってるんだな……馬車一台くらいなら余裕で通れる……ただ問題があってな……現状、このルートは使い物にならない」
「お恥ずかしい話ながら、これ……あたしらエルフ族に問題があるのよね……我が同胞達は樹海は自分達の領域だって言い張っててね……それにドライアードやグリーンピクシーみたいな種族も同様。ゴブリンとかオーガなんかも、うじゃうじゃいる……おかげで樹海ルートの密貿易に挑んだ隊商は例外なく連中に襲撃、略奪されて、無事に通過することが出来ないのよ。強行突破しようにも樹海で森の住人に勝つなんて、はっきり言って不可能……四六時中延々神出鬼没で襲撃されてみ? いくら腕利きの護衛を山ほど連れてても無理よねー!」
それまで、黙ってワインをラッパ飲みでチビチビやってたリーザさんが口を挟んでくる。
なんか、いい感じに回ってたみたいに見えたんだけど、顔色が普通に戻ってる……ある意味凄い。
「まぁ、そう言う事だ……それに実はグランドリアからもその樹海ルートにつながる道が伸びてるんだ……だから、もし樹海ルートが通行可能になれば、ここから東方と西方へ自在に出入りできる道が出来るって事にもなってな……そこに多大な利権が生まれるって話な訳だ……だからこそ、俺達はこの樹海ルートを是非とも通行可能にさせたい」
「密貿易……こそこそ秘密の商売って……まるで盗賊とか犯罪組織みたいじゃない? それに利権ってどういう事?」
「確かに公に出来ない後ろ暗い商売かもしれんがな……商売人連中も本来は堂々とこのグランドリア経由で東西を繋げたいと思ってるんだ……何よりそれが必要とされているのがこの大陸の現状なんだ。けど、東方も西方もそれを公に許すことが出来ない……軍事的にも政治的にもな。そこに抜け道を作れば、当然相応の利権が集まってくるって訳だ」
「まぁ、俺達西方にとっては、公然の秘密って奴になるだろうがな……実は、この計画の支援金も西方の各界から相当な額が集まってるんだ……それ位には期待されてるってわけさ」
……兄様も姉様も揃って何やってるんだろうね……戦争は終わってて、西方も戦争なんてする気ない、帝国だって未だにグッダグダで戦争どころじゃないのに……次の皇帝が自分こそ相応しいとかなんとか。
「……父上が元気だったら、わたしから色々助言して、もうちょっとマシな方向へ誘導だって出来るんだけど……帝国の実権は兄上達が握ってるから、今のわたしじゃ何も出来やしない……ホント、名前だけの継承者候補って感じね」
思わず自嘲する。
色々、考えてみて……今のわたしじゃ何も出来ないと言う結論にたどり着く。
今のわたしには、何の実績もないし、有力な後ろ盾も居ない……強いて言えば父上くらい……。
お兄ちゃん達と言う味方が出来たのは頼もしいんだけど……何と言っても兄上達と戦うだけの覚悟がわたしには無かった。
……お兄ちゃん達の計画はちゃんと皆のことを考えての私利私欲何かのためじゃなく、皆の為の事業のようだし、わたしの名前がその為に役に立つなら、その程度ならお安い御用……。
「……そうだ! いっそお前が皇太子共を蹴散らして、皇帝になればいいんじゃないか? 元々その資格も有るんだし、政治的な才覚だって、今の一連の話だけで、十分過ぎるって解る……」
お兄ちゃんはわたしの予想を超えた無茶振りを振ってきた。
いやいや……ないない……ありえないから。
「ええっ! そんな……わたしなんて、ただの引き篭もりだよ……人に頼らないと何も出来ないし……独りじゃホント、どうしょうもなかった……父上の跡を継いで……なんて無理無理っ!」
「それ言ったら……俺だって、独りじゃ何も出来ない青二才だ。だが、頼りになる仲間もいるし、国の垣根を超えて信頼できる奴だって居る……。独りじゃ何も出来ないって解ってる奴こそ、人の上に立つ資格がある……俺はそう思う……ホスロウはどうだ? お前はアイシア殿下をどう評価した?」
「ははっ! それをこの俺に聞くのか? そうだな……今の皇太子共より遥かにマシだろ。語学、化学、軍事、政治……多岐にわたる分野に精通してて、幅広い見地を持つ……政治的判断力もこっちが舌を巻くレベルだ。守護者の力と言う規格外の武力を抜きにしても十分以上な傑物だ……どっちにせよ皇女殿下は間違っても敵に回して良いような相手じゃないってのは確信してるぞ。出来るだけ貸しを作って、むしろ末永くよろしくやりたい相手だ。なにせ俺達西方は戦争はもう懲り懲りって思ってるからな……もし殿下が帝国の皇帝陛下になりおおせたら、向こう50年位は平和な世の中が続くんじゃねぇかな……?」
「そいつはいいねぇ……50年も平和が続いたなんて、大陸史上の快挙になるな……しかし、いっそのこと恒久平和の道筋とか、大陸の統一って訳にはいかないもんかな?」
「はっ! てめぇが死んだ後の事まで知るかよ……そもそも東西関係なんてもう千年来の関係だからな……良くも悪くもなりようがない……成り行きに任せるのが一番だ……無理したってろくな事にはならねぇよ」
「まぁ……そうだな……そんなもんか」
何とも残念そうにお兄ちゃんがそう締めくくる。
と言うか、恒久的世界平和の実現とか……そんな事まで考えてたの?
「それにしても、ひとつ気になってたんだが……。皇女殿下はどうやって、この街まで来たんだ? 俺達だって、帝国の国境線には監視要員を配置して、入ってくる奴はちゃんとチェックしてんだ……それに引っかかってないってのもおかしな話だ。そもそも皇族の来訪なんて国境警備隊の連中にとっては一大イベント……その割にはここ数日至って平常運転だったからな……どっかに秘密の抜け道があるんじゃないかって聞いたのは、その辺もあったんだが……実際、どうなんだ?」
「そういやそうだな……陸路で歩いてきたにしては、えらく軽装だったし、そもそもこんな大物の出奔や皇都脱出の経緯からも、色々噂も届いていてもおかしくないんだが……その辺は何の前触れもなかったな」
色々思案に入り込みそうなところを引き戻される。
ああ……そう言えば、どうやって来たかって、お兄ちゃんにも話してなかったっけ。
「えっと……そりゃあまぁ……ワイバーンに乗せてもらって、ビューンって飛んできちゃったからね。……そういや、国境警備の人達に挨拶とかしてなかった……あはは、ひょっとしてわたし、密出国しちゃった?」
「「「ワ、ワイバーン?!」」」
その場にいた三人が一斉にハモった。
そ、そんなに驚く事?




