第十一話「アイシア様のチート能力の片鱗」②
……うん、この黒い霧……要するにわたしの意志で操れる砂鉄みたいなもんなんだ。
イメージと重ね合わせることで、銃だの戦車……要は鉄で出来てるようなものならなんでも再現、操作する。
暗殺者を撃退したり、銃弾を止めた力。
あれはただの片鱗に過ぎない……最低限の自動防御。
わたしの意志やイメージが優先されるのは、なんとなく解ってきた。
父上はなんて言ってたかな……黒鉄の女王と呼ばれた魔王の使徒より授かりし力……だったかな。
今はもうこの世界のどこにも居ない彼女が残していった残滓のようなもの。
……けど、いつ……どの段階でわたしはこの力を手に入れたんだろう?
「まぁ……命中精度云々はおめぇの腕がへっぽこだからだろ? しかし、それで帝国の最新鋭とはなぁ……共和国製のと比べるとお粗末なのは否めんな……まぁ、うちはもっと酷いけどな……戦争が始まるまでは、火縄式と火打ち石式どちらがいいか……なんて論争やってたくらいだ。どうにも共和国の技術力は飛び抜けてるな」
ホスロウさんも気づかなかったみたいで、話が続いていて、ハッと我に返る……。
色々物思いに耽ってしまっていた……どうも、考え出すと周りが見えなくなるのは悪い癖だよねぇ……。
うん、何が起きたとか聞かれたら、答えに困るところだから、気づかれてないならセーフ。
お兄ちゃんには……能力の応用も含めて、後で話とこうっと。
と言うか、帰ったら色々実験しないと……なんか……こう。
知識の探求者としての血が騒いできたよっ!
「大陸と比べて、100年は進んでるってのが共和国の技術レベルの総評だからな……噂だと異世界からの漂流船を鹵獲して手に入れた技術って話も聞くが……実際、どうなんだ?」
お兄ちゃんの言葉にホスロウさんは、曖昧な笑みを浮かべるに留めたようだった。
……当たらずも遠からず……けど、多分お兄ちゃんの推測は当たってる。
「共和国の技術かぁ……鹵獲品とかで色々実物も見たけど、500年前の帝国の技術とは明らかに別系統だけど、根っこが同じって感じだったね」
共和国の技術の話がでたので、わたしなりの補足説明をすることにした。
「そ、そうなのか? すまん……俺も専門的な話になるとそこまで詳しくないんだが」
お兄ちゃんが何とも申し訳なさそうにしてる……まぁ、実際専門的な話だもんね。
「技術の進化ってのは、例えれば……樹木の枝葉みたいな感じなのよね。大きな根本技術があって、そこから複雑に分岐して、相互に絡み合って進化していく……例えばAからCへ進歩するのにBの技術が必要、Bの技術開発にはAから派生したDと言う別の技術が……とかそんな感じ……でも、大元を辿っていくと根っこは同じ技術に行き着いたりするわけ。その根っこ自体は「文明」とも呼ぶんだけどね。500年前の帝国の技術と共和国の技術って、両方を知ってるとその根っこに共通のものが見えてくるのよ……これは大陸に本来あった技術……例えば魔術なんかとは全くの別の文明のもの……まぁ、両方を知って比較できる立場の人なんて、多分わたしくらいだと思うけど」
「つまり……だ。元々帝国には潜在的に共和国並の技術を再現するだけの基盤があって、その出処は同じ可能性があるってことか……ちょっとコイツはヤバ過ぎて他言は出来ねぇなぁ……そもそも証明も出来んしな……そんな話」
まぁ、確かに西方としてはおっかない話だろうね。
と言うか、西方自体元々パクリ文化みたいなところがあって、東方の技術を一周遅れみたいな感じで模倣して、数歩後を付いてくる……大体そんな感じなんだよね。
そのパクリも、東方の軍事技術に対抗する為と言う一点のみに集約されてるので、良くも悪くもかなり雑。
それでもなんだかんだ上手くやってるのが西方の特異性。
何でもかんでも貧欲に取り込んで、自分達なりの最適解を出す。
西方の街では、獣人やら亜人やらが当たり前のように闊歩してるって言うし……まさに異世界。
帝国じゃすっかり廃れた魔術だって、西方の亜人たちを中心に未だに現役。
まぁ、聖術も魔術の一種なんだけど……あれは医療技術と対になって進歩してきた独自技術と言える。
いずれにせよ、帝国側の一足飛びの技術的ブレークスルーなんて勘弁して欲しい……そんなところだろうね。
「あはは……どうせ、帝国書庫の……それも禁書指定書物なんて、私くらいしか閲覧しないから誰も理解は出来ないと思うよ。けど、もしそうなら共和国が硝石を帝国から大量に輸入する意味がますます良く解かんないね……銃火器の弾薬に使ってないとなると、大砲とかかなぁ……あとは、食べ物の保存料とか魔術の触媒なんかにも使えるらしいけど……そんな理由にしては量が多いんだよね……」
「そうだな……おおかた輸出用の弾薬に使ってんじゃねぇか? 輸出用の共和国製銃火器にはこちらと同じ黒色火薬が使われてる……いや、敢えて無煙火薬は使わせないつもりなんだろう。なにせ性能が段違いだからな! エド達は知らんだろうけど、共和国の正規軍と俺達西方軍に出回ってる装備……同じ共和国製でも全然別物なんだぜ……」
なるほど、さすがホスロウさん……あっさりと答えを出してくれた。
けど、必然的に共和国の思惑と言うべきものが見えてくる……。
「確かにどう言うルートで入手したのかは知らんが、シュタイナの使ってる狙撃銃なんて、はっきり言って法外な性能の代物だったな……竜火槍二式とか言うのをベースに旦那が色々カスタマイズした代物らしい」
「思い切り共和国の最新鋭狙撃銃じゃねぇか……お前んとのシュタイナってヤツの噂は知ってるけど、なにもんなんだ? 俺達の情報網でも野郎の顔すら解ってないんだぜ……」
「さぁな……余計な詮索はしないってのが俺達冒険者のルールだからな。当然、所属メンバーの情報だってお前らにだって絶対渡さん。勝手に自力で探る分には文句は言わんがね。そういや、旦那も弾薬の入手性に難があるってボヤいてたからな……アイシアなら現物あれば、弾薬とか銃自体の複製とか出来たりは……流石に本格的な設備もいるだろうからそこまでは無理か」
銃の独自開発? それってとっても面白そう!
わたしの能力って、さっきの謎現象からすると、銃火器と相性が良さそうだし……ここは前向きに検討してみてもいいかもっ!
「む、無理じゃないかも! ……とりあえず、シュタイナさんに、現物見せるように頼んでみてくれないかな? すっごい興味出てきた!」
何というか……現物を見たいと、わたしの中の何かがそう求めてる気がした。
「よく解らんが、えらい食いつきようだな……でも、頼むも何も……お前自分の立場忘れたのか? 俺達のリーダー……ギルドマスターだぞ? 弾薬の当てが出来るなら、シュタイナの旦那もすぐ協力してくれると思うぞ」
「少なくとも弾薬なら、この街なら素材揃いそうだから、きっとなんとかなるよ! そっか、じゃあ早速頼んじゃおっと!」
「なんとかなる……か。やれやれ、本気で軽く言ってやがるけど、とんでもねぇ話なんだぜ? 俺達には現物があっても解析すら出来なかった共和国の機密情報も皇女殿下には既知情報だったと……ひどい話もあったもんだな? おい」
「まぁ、そう言うな……どうせ秘密なんて、いつかは漏れるもんだろ……秘密をかっぱらうのが商売のお前らの言うセリフじゃないな」
「まぁな……しっかし、改めて思うが……皇女殿下だけは絶対に敵に回したくないぜ……」
「そう言う事なら、精々誠実なお付き合いをするんだな……」
「なんだよ……現に誠実に情報提供してやってるだろ……俺は今んとこ嘘なんて言ってねぇぞ?」
「たしかに嘘は言ってねぇが、どうせ隠し事はてんこ盛りなんだろ? 今に始まった事じゃねぇけどな」
「解ってんなら、わざわざ確認するなよ! ったく、テメェも言うようになってきたな……」
「まぁ、俺にはホスロウ兄貴という見本がいるんでな……兄貴分を見習ったまでだな」
「おう? ここは笑うとこか? ナマ言ってんじゃねぇよ! はっはっはっ!」
半ば罵り合いながら、笑い合ってるんだから、この二人は心から信頼しあってるんだろうね。
なんかいいなぁ……男の友情って奴?




