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第十話「アイシア殿下の御前会議」⑥

「それにしても、エド……この皇女殿下って、実は相当なやり手なんじゃねぇか? 情勢への理解度が半端じゃねぇぞ……なんで、こんな傑物が今まで埋もれてたんだ?」


 ホスロウさんにやり手呼ばわりされてる……何か照れくさいね。

 

「……皇帝陛下も、次期皇帝候補としてイチオシしてたって話を聞いてるぜ……まぁ、他がヒデェのもあるんだろうけど……俺としてもその辺は改めて納得がいった」


 何このヨイショぶり! うーん……何か無性に逃げ出したくなってきたんだけどっ!


「え、えっとさ! こ、国内情勢なんてのは色々な情報や資料を見て、複合的、多角的な視点で考えれば大体解るよ? わたしは皇室書庫って言う帝国の情報が集まるところに自由に出入り出来たから、その辺の情報を人より多く知ってたってだけの話……さすがに最新情報は皇都に行かないと解らないから、今後はあまり期待しないで欲しいな」


「なるほど……要するに帝国の情報の中心を抑えてたってことか……俺達、情報軍がやってることと一緒じゃねぇか……なら納得だ……大いに納得だな。そう言う事なら、わかる範囲で構わんから、帝国の情報も色々教えてくれないか? 例えば共和国への鉱物資源輸出でどの程度帝国が儲かってるのとか軍備の増強状況とか解るか? 要は皇太子連中の資金源やら戦争の準備状況ってとこだな」


 ホスロウさんが興味津々と言った様子で問いかけてきた。

 

 エドお兄ちゃんが、何か言いたげな様子だったけど……。

 目を合わせるとこくりと頷かれる……ん……好きに話していいって事かな?


「共和国への鉱物資源の輸出については……引き換えに共和国製の武器装備を大量に輸入してるから、儲けなんて無いも同然だと思う。この辺は財務報告書に書かれてたから間違いない。わたしが思うに、共和国は大陸から手を引く代わりに東西相打たせて、両方に武器を売りながら、双方の交易を牛耳って漁夫の利を得るつもりね。その為に兄様達も利用されてるだけなんじゃないかな……けど、なんでこんな事に気付かないんだろ……」


 ホスロウさんもお兄ちゃんも驚いたような顔をしている……あれ? これって話してよかったのかな?

 

「その……なんだ……そんな財務報告書なんかに堂々と書いてあるのか? 例えば共和国製小銃何丁とか、戦車何両とか……」


「さすがに、そこまで堂々と書いてないけど、一台金貨120枚もする馬車とか、金貨一枚の物干し竿とか、普通に考えてあり得ないでしょ……しかも、そんなのを共和国から買ってるとなると、実際は戦車とか銃なんじゃないかなー」


 まぁ……あくまで推測ってとこなんだけどね。

 いくらなんでも、品目と価格が合ってない……最初、何かの間違いかと思って、詳しく調べたくらいなので、このへんはよく覚えてる。

 

 別にそんな書類どうでも良かったんだけど、顔見知りの財務官が是非御一読をとか言って置いていったんだよね……わたしに何を期待してたんだか……。


「なるほど……ホスロウ、今の話の裏付けは取れそうか?」


「共和国の武器が帝国に流れてるってのは、こちらでも噂レベルながらかねがね言われてた事だな。なんせ、さっきも言ったが西方じゃ共和国製の武器はダブつき気味だ……西方諸国も休戦と共に軍備は縮小化傾向にある。そんな状況じゃ、誰も武器なんて買おうとしない。それに、いくら共和国の優秀な武器があっても帝国には勝てねぇ……西方は戦場でそれを思い知ってるからな。その割には共和国の武器生産量はほとんど変わってねぇ……何処に消えてるのか謎だったが……なるほどな。……共和国製兵器の価格相場の面からも皇女殿下の言った額でほぼ合ってる……だから、その話は確定だな……他に何か気付いたことはないかな? 些細な事でいいから聞かせてくれ」


 なんか、ホスロウさんの目付きが変わってきた。

 

 さっきまで人のいいおじちゃんって雰囲気だったのに、なんとも張り詰めた空気をまとってる。

 

 うーん、さすが情報軍の将校……わたしを有用な情報源と認めてくれたって訳だね。

 でも、わたしだって雰囲気に飲まれるほど、甘くないよ……たぶん。


「ほ、他……? そうね……輸出品の名目には火薬の原料の硝石なんかも含まれてるんだけどね。それの使いみちが良く解らない……。共和国の銃って、金属薬莢式でしかも無煙火薬仕様だから硝石なんて使ってない。無煙火薬なんて、綿に硫酸と硝酸混ぜた混酸かけて出来上がるニトロセルロースを合成すれば、基剤としては十分、後はニトロセルロースを8-9割、残りを緩燃剤、焼食抑制剤、安定剤を10:5:1の割合で混ぜた混合物として添加すればほぼ完成……帝国の化学技術なら十分大量生産も可能なんだけどねぇ……実際、素材揃えるのは難しくなかったし……まぁ、実際作っても今度は銃火器の無煙火薬仕様化って技術的なハードルがあるから、宝の持ち腐れになるのがオチなんだろうけど」


 お兄ちゃんとホスロウさんが、またしてもポカーンとした顔でわたしを見ていた。

 リーザさんに至っては、そもそもとっくの昔に置いてけぼりで一人手酌で赤ら顔だった。

 

 しまった……色々専門用語とか混ぜすぎたかも……。


「ちょっと待てっ! 無煙火薬の合成方法なんて、共和国の国家最重要機密だろ! そんなもんなんで、知ってるんだ!」


 ホスロウさんが血相を変える……あれ? これってそんな重要情報だったの?


「こ、国家機密も何も……無煙火薬自体は、500年前にすでに一度帝国は開発に成功してるの……魔王戦争のドサクサで失われたって言われてるんだけど、調合式や精製方法なんかはとある皇族の一人が日記の覚え書って形で残してたの。それに帝国軍も戦場で共和国製銃火器の現物を鹵獲してたんで、それを入手して、実験を重ねれば、再現なんて楽勝って訳!」


 500年前の帝国って技術レベルとしてはかなり進んでて、今の技術水準からすると100年位は進んでいた。

 要するに帝国は、とっくの昔に共和国の同等レベルの技術を手に入れていた……それが当時の数少ない資料と共和国の技術を比較した上での結論だった。

 

 もっとも、その辺についても実際に共和国の兵器を目にして、初めて理解が追いついたと言う類のもので、すぐに同じような物が作れると言うわけではなかった。

 

 そもそも、わたし一人が理解してたからって、帝国自体の技術水準を引き上げるとかそんなの無理だ。

 

 なにより、そこに至るまでは、幾つもの技術的なハードルを超えないといけない……まぁ、仮にわたしが帝国の技術院へ資料を持ち込んで、直接協力したとしても、確実にあと10年どころか、もっとそれ以上はかかる。

 技術革新なんてのは一朝一夕でなんとかなるような甘いものじゃないのだ。

 

 もっとも、当時の帝国の技術進歩についても不可解な部分があって、記録によると魔王戦争が起こるほんの数年前に、初歩的なフリントロック式の銃の開発に成功していたのだけど。

 

 そのわずか数年後の魔王戦争直前には、金属薬莢方式の小銃を実用化し、ほぼ全軍に配備していた……つまり、一足飛びに本来十年単位で起こるべき飛躍的な技術進化が起こった形跡があった。

 

 何があったのかは良く解らないのだけど……その間に、何らかのパラダイムシフトがあったのは間違いなかった。


 北壁なんて呼ばれてた属国のひとつがまるまる一個消滅するとか、凄まじい戦乱……ほぼ同時期に魔王軍と抗争、和解となんだか派手にやったみたいなんだけど……例によって、同時代の詳細な資料が消失しているので良く解らない。

 

 当時の技術的遺産とも言える高度な機械類や建造物や魔道具……そんなものは割と帝国のあちこちに残されている。

 

 当然ながら、使途が分からず放置され朽ち果てたものも多いのだけど……幾つかは、その原型を留めていたし、原理も解らないまま、手探り状態で使われていて未だ稼働中の機械類も珍しくない。

 グラムマン大製鉄所の機械式採掘施設群なんかもそうだし、アグレッサダムなんかもいい例。

 

 そして、近年になって、技術の進歩に伴いその正体が明らかになって、技術者達を驚愕させる……そんな事例が続出していた。

 

 今の帝国の技術はゆっくりと、かつて培われた技術の痕跡をなぞるように分相応に進歩してきている。

 ……余り知られていないのだけど、それが帝国の知られざる技術立国としての一面だった。

すみません……御前会議はまだまだ続きます。(汗)

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