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第一話「グッバイ、引き篭もりデイズ」③

 絶対なる黒き守護者の力。

 

 わたしにそんなものは縁がないと思ってたのに、いつのまにか、わたしはそれを使いこなせていた。

 

 それにともなって、人外レベルな強靭な身体も手に入れてしまった……。

 あれだけ色々不自由していたのに、もはや生まれ変わったようなものだった。

  

 力試しとして、廊下に飾られていたハルバードの柄を曲げてみたら、アメ細工みたいにグニャグニャに曲がった。

 ちなみに、鉄って曲げまくると熱くなって、そのうちモゲる……新発見だ。


 一緒に飾られていたフルプレートアーマーにデコピンでネジを飛ばして当てたら、すごい音がして大穴が空いた。


 100mほどある廊下を思い切り走ったら、端から端まで5秒で着いた……止まれなくて、壁にぶつかったら、壁をぶち抜いて人型の穴が空いてた。

 

 ……わたし、壁より頑丈な事が判明。

 人にぶつからなくてよかったけど、通りがかって、大穴とわたしを見比べて、凍りついてたメイドさんには謝っておいた。

 

 教訓、屋内で全力疾走とかダメダメ。

 

 命の危機に対して、秘めたる力に覚醒し超人化とか……。

 英雄譚ではお馴染みなんだけど、自分がそうなっても、あんまり嬉しくない……けど、病気も吹っ飛んだのは素直に感謝。


 わたしの命数もあと数年……とか色々、達観してたんだけどね……。

 未来があるってのはいいなぁ……何でも出来ちゃうような気がする。


 ああ、お医者様に止められてた、お肉とか辛いのとかも食べたいな……今の私なら、大丈夫に違いない。

 街の屋台とか、巡りたいし、甘い物もいっぱい食べたい……。


 って、真っ白な未来を想像しようとして、真っ先に食べ物の事を思い浮かべるわたしって、案外俗物だなぁ……。


 それにしても……よもや、皇城でこうも堂々と皇族を暗殺しようとするなんて……。

 無茶も良いところだよ……近衛とか、私達を守るのが仕事なんだから、ちゃんと仕事して欲しい。


 でも、きっと動くに動けないんだろうな。

 パッと出の第三位皇位継承者とか、誰にとっても邪魔なだけだから、能力に覚醒する前にわたしを亡き者にしよう……とか、考えたのがいたんだろう。

 

 誰がそう考えたのかとか、あまり考えたくない……。

 

 ……結果はこの有様……むしろ、眠るドラゴンの尻尾を踏んだ……まさにそんな感じ。


 もはや、人畜無害なんで誰も思ってない……わたしは一夜にして、恐れ敬われる存在となった。

 

 たぶん、この調子だと尖塔のてっぺんから飛び降りても普通に着地出来そうだし、素手でドラゴンとかと戦えるような気がする……別にそんなのやりたくないけど。

 

 けど……皇城に居座っても、連日の暗殺攻勢で巻き込まれる犠牲者が積み上がるだけ。

 

 どうもこの守護者の力は、一度受けた攻撃を学習してより強固に守ったり、先制攻撃で殺られる前に殺るとかそんな風に進化するらしい。


 わたしだって、魔術や各種兵器の知識だけはあるから、色々攻略法を考えてみたのだけど。

 

 飛び道具や毒物も通じない時点で毒殺や狙撃も不可能……。

 守護者の守りを上回る未知の攻撃を初撃で決めれば可能性はあるけど……まぁ、無理という結論だった。

 

 なにせ対戦車ライフルを止めるような防御の時点で、現存するあらゆる兵器で対応不能と言う結論に達する。

 ……大砲だって、戦車を壊せなかったんだから、わたしの守りを打ち破るのは不可能だろう。

 

 なるほど……あのわたしに対戦車ライフルを撃ち込んだ暗殺者も、初撃で仕留められる可能性に賭けて、最大限の火力を用意した……なるほど、合理的な考えだ。

 

 実際、昏倒しかけるくらいの打撃は受けたのだから、惜しかったと思う。


 狙撃に対しては、二回目以降はより早く反応するようになって、着弾するよりはるか手前で銃弾を叩き落としたり、先制攻撃でスナイパーを撃たれる前に叩き潰すようにようになってしまったので、もう無理だろうけど。


 魔術は……どうなんだろうか? 

 

 実際、共和国の戦車相手に、帝国軍の戦闘魔術師達は手も足も出なかったらしいし……。

 まぁ……無理だろうね。

 

 伝承に残る対軍勢、城塞攻略用に開発された戦略魔法なら或いは……。

 

 けど、そんなものの使い手なんて絶えて久しい……。


 かつては、大地揺るがし、一夜にして湖を作り出す……そんな術者が居たと言う話だった。

 伝説に残る魔王の使徒……文字通り、地形すらも変える恐るべき術士達。

 そのレベルが相手だと、さすがに無理なんじゃないかって気もする。 

 

 ……いずれにせよ、わたしを力づくで排除する試みは、もはや全く無意味だった。


 このまま黙って居座りながら、暗殺者を撃退しつつ……暗殺者を送り込んでいるお兄様達と話し合いをするべきとも思ったのだけど。

 

 相手はもはや、わたしを魔王とかと同然とか思ってるらしく、話し合いとかそんな段階を突き抜けていた……兄弟姉妹の義理とか愛情とか、そんなものは何処にもなかった。


 と言うか、むしろ兄上も姉上も皇城から逃げ出してしまった……。

 

 わたしの側仕えの者たちは、全員死ぬか故郷へ逃げ帰り……助けの手を差し伸べるような者もいなかった。

 

 食事とか着替えを要求すれば、城の者達は断れないので、その辺は不自由しなかったし、わたしを追い出すなんて誰にも出来なかった。

 

 けれども、わたしと暗殺者との連日の攻防に巻き込まれるものが続出し、皇城の使用人や近衛が全く無意味に犠牲になっていた。

 

 撃退した暗殺者は10人から先は数えてない。

 

 そもそも、彼らはわたしにその気がなくても守護者の力の自動反撃、先制防御でわたしにも見えないところで勝手に返り討ちになっていったので、実数なんて解らなかった。

 

 正直、良く解らないけど……巻き添えはおそらくその数倍……これはひどい。

 皇城もいたるところがボロボロになって、皇都にも戒厳令が敷かれた。

 

 もはや、待ったなしと悟ったわたしは、最後に父上の元へ突撃し、あらん限りの罵詈雑言を並べると、厩舎に繋がれていたかつて父上と戦場を共にしたと言うワイバーンをブン捕って、最前線へと向かうことにした。


 ……旅立つわたしを誰も止めようともしなかった。

 幾人かは、申し訳なさそうな顔をしていたのだけど……。

 

血染め(ブラッディ)の厄災姫(・ディザスター)

 

 あとで知ったわたしの二つ名だ。


 ……ありえん。

 

 いっそ兄様のところに殴り込んで、わたしの渾身のパンチであの端正な顔をグチャグチャにしてやる……そんな事も思ったのだけど。


 わたしは、そこまで二人のことは嫌えなかった……子供の頃、病弱なわたしを気遣って、あの二人もよく世話を焼いてくれたものだ。


 兄様に抱きかかえられて、森の小道を歩いた記憶。

 姉上が剥いてくれたいびつな形のりんごとか……そんな思い出が頭を過る。


 駄目だ……気が進まない。 

 

 そもそも、考えてみれば、兄様も同じ力を持っているはず……お互い同じ力をもっているとなると、相打ちになるのが関の山。

 

 それどころか、兄上は剣の名手……馬ならぬ本人の差でこっちが負ける可能性が高い。

 それに万が一、兄上と姉上が手を組んで、わたしを殺そうとしたら、確実に負ける。

 

 けれど、向こうも事情は同じ……どちらかが、わたしを直接排除しようとしても、無傷じゃ済まない……そこへ無傷な一方が攻め込めば、漁夫の利を得る事になる。


 この後継者争い……最後まで残った者が勝者になる……手を出した方が負けて、出さなかった方が勝つ。

 

 つまり、わたし達三人は、三竦み状態なのだ……後継者候補が二人の時はどちらかが勝ち残るかと言うシンプルな話だったのに、三人になったら一気に複雑化した。

 

 と言うか、わたし立ち回り次第で……この国の命運すら左右しかねない状況になってしまった。

 

 ……父上はコレも計算のうちだったのだろうか?


 唯一の希望は……父上は、あくまでわたしの味方だと言う事。

 

 けれども、父上はもう長くなかった……文字通り、戦争を消し去った帝国の守護者としての大いなる力。

 それは、命と引換えの力だった……そう告げられた。

 

 ……今の父上は、もう残滓のようなもの。

 何故か、わたしはその事を瞬時に理解してしまった。

 

 だから、何もかもを放り投げると言う選択だけは……出来なかった。

 

 絶対なる加護という超常の力に目覚め……帝国の命運を託され、旅立つ。

 

 ……まるで物語の勇者の旅立ちみたいな感じなんだけど……。


 絶対なんか違う……。

 わたしとしては、勇者を見送るお姫様の役が適役だと思うの。


 もしくは、勇者の傍らに寄り添うお姫様とか……そっちがいい。

 

 わたしは、皇女なんであって、あくまで助けられたりする側であって、断じて、歴史に名を残す選ばれし勇者とかじゃない……。


 一人じゃ何も出来ないなんて、言われるまでもなく解ってる。

 街を歩いた事すらほとんどないのに、こんなわたしにどうしろと?


 そんなのが皇帝を目指して、英雄のごとく振る舞えとか……悪い冗談としか思えない。

 

 背丈だって、10歳の時から伸びなくなってそれっきり……。

 ええ……めちゃくちゃちっこいですよ! 


 その頃、かかった病の後遺症らしいけど……16歳にもなって、胸まで平らなままってのはどういうことだろう?


 何というか……。

 ヤバいくらいのコンパクトっぷりなので、威厳とかカリスマとか全然ない。

 

 足りない足りない……何もかもが足りてない。


 まともに生活するには、踏み台が欠かせない……水を飲むのも、鏡を見るのも苦労する。

 椅子だって、クッションをいくつも重ねて、ようやっとテーブルから顔が出せる。


 こんなちっちゃなチンチクリンが、背伸びして、お立ち台に立って、我は皇帝である! とか、民衆に演説……。

 

 うわぁ……。

 やだこれ……絵面がヒドすぎる。

 ……庶民の学芸会だってもっとマシな配役をするだろう。


 いやいや、絶対無理だって……誰か交代して欲しい。

 

 ……わたしは、英雄譚の主人公じゃなくて、英雄譚を読んでこんな素敵な人のお嫁さんになれたらなぁ……と夢見る乙女でいたい。

 

 けど……夢見る乙女はあがらえない現実の前に、夢から醒めなきゃならない。

 

 わたしがやらなきゃ誰がやる……それを理解してしまったから。


「……どうしてこうなったのよぉおおおっ!」

 

 ワイバーンの背で、雲の隙間から、帝都を見下ろしながら……わたしは思い切り泣いた。

 ……泣いてどうにかなるような状況じゃないのは解ってるけど、とりあえず泣いた。

 

「流れよ我が涙」……古の魔王の使徒の一人が盟友を打ち倒した時のセリフだっけかな?

 

 かっこいいと思って、使ってみたけど全然締まらなかった。


一応、今日の新作アップ祭りはここまで!

ストックが8万とかあるので、当分デイリーもしくは、一日二回更新とかで行きます。


09/04

なんかおかしかったのと、死に設定とか色々修正。

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