第九話「悪い奴らと悪巧み!」③
「そんな訳なのよ! だから、あたしは皇女様に死ぬまで忠誠を誓うことにしたの! なんせあたしの可愛い弟や幼馴染の命の恩人だからね! 命の借りは命で返す……これはあたしらエルフの掟のひとつ! ……と言うか、あたし一人じゃ足りないよね……まいったねぇ……こりゃ」
「うへぇ……Aクラス冒険者を顎で使える権利とか、なかなかのもんだな……それ。と言うか、そうなるとエルフ族は皇女殿下にデカい借りがある……そう言う事だよな?」
「そうだねぇ……この話、長老クラスにしたら、皆皇女殿下を崇め奉るでしょ……。なんせ、当時の緑班病の罹患率は3割を超えて、死亡率も8割超え……もはや森を捨てるか、そのまま揃って土に帰るかの瀬戸際だったんだ……エルフが帝国に比較的好意的なのも、皇都に生えたメリオラ草の乱獲を許してくれたからってのもあるんだ」
「そいつはすげぇ話だな……確かに、帝国の皇都に変な植物が大発生したと思ったら、エルフが狂ったように雑草刈りを始めたとか、西方にまで届く噂になってたぜ? まぁ、エルフの奇行って事で笑い話の類だったがな……。なるほどねぇ……そうなるとアイシア皇女殿下はエルフ共の救世主って事か……そう言う事なら例の樹海ルートの開拓の件、あっさり解決するんじゃねぇか? エルフなら、ドライアードやグリーンピクシーなんかにも顔が効くんだろ?」
ホスロウが身を乗り出さんばかりに乗ってきた。
元々西方情報軍としては、東方との直接交易ルートとそれに伴う密入国ルート……これらを欲しており、それを独力で開拓しようとしていたのだ。
けれども、エルフ達森の住人の妨害にあいその計画は頓挫……次に、リーザ達冒険者ギルドに所属するエルフ達と渡りをつけて、エルフ達と交渉を重ねてきたのだが……その交渉は難航していたのが実情だった。
リーザ達に交渉の窓口役を頼んできた時点で、半ば必然的に俺達も巻き込まれたのだけど……この計画に携わるということは多大な利権が俺達の手にもたらされるという事にもなる。
だからこそ、むしろ積極的にその交渉役を引き受けていたのだが……エルフ達は樹海が自分達の領域だと言う主張を譲らず、樹海の通行を許さなかった。
実際、リーザ達がいなかったら、俺達ですら樹海に入っただけで殺されかねない……その程度にはエルフ達は頑なだった。
当然、樹海強行突破の試みも幾度となく行われたのだが……それは尽く失敗に終わり、無駄な試みに終わった。
弓と精霊魔術の名手揃いのエルフ族、ドライアードにグリーンピクシーと言った植物を自在に操る森の住民たちは樹海においては、極めて厄介な難敵で、樹海という彼らの領域で戦いを強いられる限り、どうにもならない壁となっていたのだ。
「ああっ! 確かにそうだわっ! と言うか、ドライアードやグリーンピクシーも緑班病にやられてて、ついでに一緒に救われたクチだし……そうよ……そう言う事なら、全然イケるよ! エドちゃん! アイシア殿下、最高すぎて、あたしどうしよう……」
リーザがえらくハイテンションと言った調子で俺の肩をバシバシ殴る。
まぁ、気持ちは解る……エルフの長老連中の頑固さときたら全く持って交渉にならなかったのだから。
連中の要求は、法外な通行料を提示した上でその全額よこすなら許可すると言う条件で、はっきり言って交渉と言う物を舐めてるとしか言いようが無いものだった。
しかしながら、アイシアの件があるとなると随分とこっちが有利になる。
……通行料については、商人達から提示されている額があるので、その半分くらいまでなら譲歩はしてやっていいと考えている。
アイシアの実績とその名と立場を示すことで、交渉の主導権を奪い取る。
ひとまず情報軍、ギルド、エルフで利益を三等分するようふっかけてみる……この方針で行けそうだ。
こっちも割りと時間をかけて、エルフに文明の利器やら美味い食べ物や酒などを物々交換という形で提供して、交易の旨味を教えこんでいるのだから、連中の側にも迎合する動きはあるのだ。
欲を言えば、もうひと押し……何かが欲しい所だが、デカい借りがある以上エルフももう少し柔軟な対応を検討してくれるだろう。
もっとも、当のアイシアは……と言うと。
話が全然読めないらしく仏頂面をしていた。
……まぁ、この状況なら、いい加減正体ばらしてもいいか……。
このまま、ほっとくと後で拗ねられそうだった。
「うん、アイシア……説明しろって感じだから、俺が説明してやるよ。それと、ホスロウ……紹介しよう! 彼女がアイリュシア皇女殿下だ……!」
そう言って、アイシアのフードをバサッと捲ると、今度はホスロウが目を丸くする番だった。
「み、見慣れねぇ奴だとは思ってたが……マジか? こ、皇女殿下って……本物……だよな? いやいや……確かに会わせろって言ったけど、何で本人をここに連れてくるんだよっ! うぉおおっ! こうしちゃおれんぞ! ヤコブ、サイゲフ! 上の客共を今すぐ全員追い出せ! 現時刻より、当拠点の警戒レベルを最上級まで引き上げるぞ! 非番の連中を緊急招集! 大至急だ!」
ホスロウが血相を変えて、部下へ指示出しを始める……総動員令とか穏やかじゃない。
リーザの強行突破をあっさり許した事と言い……情報軍の連中も災難だと同情を禁じ得ない。
「ああ、ホスロウ……あまり騒ぎを大きくしないでくれ……どうせ、この皇女様をどうこうできる奴なんぞいねぇだろ」
「バッカ野郎! 俺達が一方的に帝国の皇女殿下を呼びつけたなんて知れてみろ……東方側との外交問題になりかねぇ……ああクソッタレ! 段取りもへったくれもねぇじゃねぇか! エドッ! てめぇ、せめて連れてくるなら、前もってそう言えっ!」
「別に俺が呼んだんじゃないぞ! リーザが勝手に連れてきただけだぞ?」
さすがにこれは、俺に文句言われても困る。
とりあえず、ホスロウは放っといてアイシアに向き直る。
「アイシア……こちらは西方情報軍特務少佐のホスロウ氏だ……まぁ、俺とは馴染みの間柄……お前から見たら敵国の将校で、見た目もは盗賊の頭目みたいな感じだが、良くこんなふうに酒を酌み交わすような仲だ。お前に会わせろとかしつこかったからな……せっかくだから、ひとつご挨拶でもしてやれ」
事情は飲み込めたらしく、大きく頷くアイシア。
「う、うん……えっと初めまして……わたし、いや……妾こそが帝国皇位継承権第三位アイリュシアである。今はグランドリア冒険者ギルドのギルドマスターでもある……お初にお目にかかる」
それまでどことなく、ボンヤリしていたのだけど、挨拶しろと言ったら、この急変である……。
ホスロウも目を白黒させている……リーザもまた同様だった。
「その方は我が腹心エドワーズ卿と懇意との事……であれば、妾の友であるも同然である。西方情報軍については、妾も書物でだがその名は存じておるぞ。幾度となく繰り返された西方との争いでは、いつも我が帝国軍は情報軍にしてやられている……西方で最も手強き者達、西方の守護者達。そう帝国史にも刻まれておる……立場的には妾と卿は敵同士かもしれぬが、この地は中立の地ゆえ今は問うまい……むしろ、お会い出来て光栄に思うぞ」
何というか……さっきまでと違いなんか独特のオーラがあって、問答無用で周囲のものを恐縮させる。
アイシアの本気モード……リーザも片膝を付いた臣下の礼を自然に取っている。
俺も倣って、膝を付き頭を垂れる……と言うか、半ば自然にそうしていた……なんだこれ。
おう……そろそろ、バリバリ書かないとねー。(汗)
ストック分がなくなりそーだ。
ちなみに、ストック分使い切ったら、ちょっとインターバル置く予定です。
なので、ブクマ推奨!(笑)




