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第八話「皇女殿下のやらかし」③

「あはは……むしろ迷惑どころかって感じなんだけど……どこから説明しようかな……? まず……皇女様は緑班病って知ってる?」


 怒るどころか、何とも困惑したような様子のリーザさん。

 緑班病?  わたしの書庫閲覧の記憶を辿っても、該当する名のない病名だった。

 

 少なくとも医学書にはなかったような気がする。

 メリオラ草と関係があるのだろうか? いや……標本の注意書きとかには何も無かったし。

 

「ん……聞かない名前ですね……」


「そうだよね……人間は知らないだろうけど、5年ほど前に樹海のエルフや森の種族の間に流行った奇病……全身に緑色の斑点が出来て、やがてそれが全身に広がる……そうなると身体から根っこが生えてきて、生きたまま植物同然になるって、言わば死病だったのよ……その緑班病の特効薬がメリオラ草だったのよ」


「ええっ! メリオラ草ってそんなだったんですか! 説明書きには、ピンク色の綿毛状の実を付けるとか書いてあって、ピンクの綿毛ふぅ~ってやったら素敵じゃないかなって思ったんですけど……。あれって他の植物を殺す毒素を地中に撒く特性があったんですよね……それがもうヤバくて……」


 実際、花もピンクで可愛らしくて、ピンクの綿帽子が辺りを埋め尽くす光景はとってもファンタスティックで素敵だった。

 

 まぁ……調子に乗って、部屋のベランダから風に乗せて綿毛をばら撒いたりしたせいで、大変な事になったんだけど……。

 そもそも繁殖力が尋常じゃないってのと、他の植物への攻撃性があるとか……絶対、注意書きが必要なレベルだったと思うの。

 

「……実は、その特性が重要なのよ。緑班病の原因自体は特定されてて、胞子で繁殖するある種の寄生植物……だから、要するにこの植物だけを殺せば助かるんだけど……その方法がずばり、メリオラ草の根っこを煎じて飲ませるって方法……これは西方に伝わる現人神がエルフ族を救うためにもたらしたと伝承では語られてる」


「現人神……ですか……放浪の賢者とも言われてますね……」


 第二次魔王戦争以前に何度か現れたという記録が残る現人神とも呼ばれる賢者。

 数々の奇跡を起こし、膨大な知識を人々に授け、数多くの人々を救って回ったと言われる偉大な人物。

 

 その放浪の賢者の足取りもやっぱり、500年前にぷっつりと途切れてる……この辺が少なくとも魔王の関係者だったと推測される理由の一つだった。


「出処が放浪の賢者ってなると恐らく信じていい伝承。だからこそ、あたしらワタリも必死に大陸中でメリオラ草を探したんだけど見つからなかったの。人間の植物学者なんかにも尋ねたんだけど、500年前の魔王戦争の影響で絶滅したって話で……あたしらもそう結論せざるを得なかった。けど、それが何故か帝国の皇都全域に大発生してるって噂を聞きつけて、藁にもすがる思いで行ってみたら、もうそこら中に生えてるじゃないの……あれは驚くどころか、狂喜したわ!」


 うん、あれはエラいことになったのをよく覚えてる。

 

 綿毛の種子……それは要するに風に乗って、際限なく撒き散らされるという訳で……そんなもんを軽はずみに蘇らせるって、我ながら浅はかだった。

 

 しかも、他の植物を駆逐して空いた隙間へどんどん繁殖すると言う恐ろしい特性。

 

 庭の一角を埋め尽くしたピンク色の綿帽子……それは際限なく広がっていき、あっさり皇都中にまで広がっていき……それはまさに生物災害と呼ばれる類の大惨事と変わりない事態だったのだけど。

 

 一般人の目には変な雑草が突然増えた……程度の認識だったらしい。

 

 それに、ある程度密集すると自分達の毒で自滅すると言うお粗末なところがあり、ある時期を境に激減し、わたし発の生物災害は一年経たずに沈静化した……。

 今では、ありふれた箸にも棒にもかからない雑草の一つとして、子供のおもちゃ代わりになっているらしい。


 誰にも言えないわたしの黒歴史のひとつなんだけど、植物に詳しいごく一部の学者や魔術師以外はその脅威に誰も気づかなかったので、全く表沙汰にはならなかった。


「あ、あはは……あれ、大発生しちゃったんですよね……」


「そう……あたしらにとっては、好都合なことにね! おまけに、皇都の人達も増えすぎて困ってるって話だったんで、他の森のエルフにも協力してもらって、大陸中のワタリかき集めて、メリオラ草の乱獲祭りになったのよ! もうその時のあたしらの気持ちわかる? 万金を積んでも欲しい……命と等価と言えるお宝がそこら中に溢れてて、取り放題とか……神様ってやつはいるんだって、もう皆泣きながら乱獲したわ! まぁ、人間たちはエルフ共が大挙してやってきて雑草毟りやってるって笑いものにしてたけどね!」


 そう言えば、お城の庭にも来てたなぁ……あれってエルフだったんだね。

 わたしてっきり、有害指定でもされて一斉駆除してると思って、バレないかビクビクしてたんだけど。


「そ、そうなると人助けに……なったのかな? えへへ……」


「そうよっ! まさかあのタイミングであれだけの量のメリオラ草が手に入るなんて、もう奇跡だったよの! 奇跡! くっそーっ! あれって、そんな裏事情があったのか……そ、そうなると……我ら樹海のエルフ族はあんたに大恩があるって事じゃない……」


「わ、わたしは別に……好奇心でどんなのが生えるのかって興味あっただけで、むしろ、ものすごい増えたからやらかしたって、思ったくらいで……その……」


「皇女様がどう言う意図だったとしても、結果的にあたしらエルフ族は救われたのよ! これは揺るぎようがない事実なの! いやぁ……こりゃ参ったね……ごめん! 皇女殿下……ちょっと悪いけど、エドのとこまで付き合ってもらえる? これ……大至急アイツにも伝えないと……!」


 リーザさんがそう言うと、唐突に手を引いて走り出す……もう、わたし……何が何だか。

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